第128話 プレゼントはいいものだよね


 中間テストも終わったのだが、ちーちゃんと瀬能の試験対策のため、今週はダンジョン探索はお休みとなった。


 今週は久しぶりのフリーだったため、お姉ちゃんやホノカと冬物の服を買いに行った。

 そこで、色々と服を買ったのだが、帰りにお姉ちゃんとホノカからそれぞれ俺への誕生日プレゼントをもらった。

 俺の誕生日は来週なのだが、当日に会えるかはわからないし、長年一緒にいる兄弟姉妹ならこんなものだろう。


 俺は家に帰ると、早速、梱包を解き、中身を見る。


 中身は薄ピンクのニットだった。

 嬉しかったが、着てみると、身体の一部が強調されて、なんかエロい。

 そう感じるのは俺が男だからだろうか。

 まあ、お姉ちゃんがくれたのだから、大事にしよう。


 次に、ホノカからのプレゼントを開ける。


 …………中身はえっちぃ下着だった。


 あいつの次の誕生日プレゼントが決まった。


 俺はホノカに貰ったほぼケツが丸出しになるであろう下の方の下着を見る。


 あいつ、これをいつ着けることを想定してるんだ?

 俺がこれを着けて喜ぶのはユリコぐらいじゃね?


 まあ、とりあえず、はいてみるか……


 俺ははいていたスカートと下着を脱ぎ、ホノカに貰ったえっちぃ下着をはく。

 そして、姿見の前に立った。


 ………………目の前にいるのは、胸が強調された薄ピンクのニットに生足とお尻をさらけ出した金髪の痴女がいた。


 知ってる?

 こいつ、男なんだぜ?


「ふむ、この姿をネットにアップしたらバズれるな」

「晒すん?」

「するわけないだろう」


 俺はスカートをはきながら、否定する。


「脱がないんだ?」

「せっかくもらったし、はくわ」


 まあ、どちらにせよ、俺が下着姿を誰かにお披露目する時はこない。

 どうせ、俺は男女どちらの脱衣所にも入れないし、見せる相手もいない。

 だったら、何を穿こうが問題ないと言えば、問題ないのだ。


 そうだ、勝負下着にしよう!


「お前、男に戻れるのか? …………いや、どうせ、すぐに切り替えるか。お前はコロコロ変わるからなー」

「男子、3日なんちゃらだよ」

「意味ちげーよ」


 男子じゃねーしな。

 あはは。

 ちょーウケる。


「こいつ、心が粘土で出来てやがる」




 そして、週末のちーちゃんと瀬能が試験を受ける日、俺はサエコとショウコに呼び出された。


 呼び出された場所はショウコ御殿だ。

 俺は学校が終えると、すぐに電車に乗り、クソ金持ちのショウコの家に向かった。

 御殿に着くと、見覚えのあるというか、着覚えのある服を着たメイドが出迎えてくれて、俺を部屋に案内してくれた。


 そこには、すでにクソ金持ちの家主とサエコがいた。


「本日はお招きにあずかり光栄です」


 俺は礼儀正しく、スカートの端を持ち、カーテシーをする。


「あら、ご丁寧に。でも、やり方が微妙に違うわよ」


 そうなん?

 アニメとかでこうやってない?


「まあ、どうでもいいや。紅茶をくれ。マリアージュな」


 俺は最近覚えた高い紅茶を要求する。


「めんどくさいから、それで我慢して。安物じゃないから」


 まあ、知ったかぶっただけだから何でもいいよ。

 紅茶は好きだけど、そもそも、味の違いがわからん。


「それにしても、お前、ジャージは?」


 俺はいつもジャージを着ているショウコに疑問を持った。


「家では着ないわよ。あなたはかわいいニットを着てるわね」


 さすがはショウコ。

 お目が高い。


「これはお姉ちゃんがくれたんだ」

「ちょっと一部をアピールしすぎな気がするけどな」


 菓子をほおばりながらしゃべる、この場には似つかわしくない品性ゼロ女が言う。


「パンツ見るか? めっちゃエロいのをはいてるんだぞー」

「お前の意図も意味も何もかもわからない」


 自慢したいだけ。


「それで何か用か?」

「まあ、話しがあってな。その前にこれをやる。私とショウコから」

「まだだけど、誕生日おめでとう」


 どうやら俺にプレゼントをくれるらしい。

 俺はサエコから梱包された箱を受け取る。


「ありがとー。なにこれ?」

「アルコールの入ってないブドウジュースよ。クリスマスにでも飲みなさい」


 おー!

 良い感じのもんを貰ったぞ。


「ワイングラスもくれ。ふたつな」

「その辺にあるものを勝手に持って帰りなさい」


 ショウコは部屋の隅に飾ってある棚を指差した。


 さすがはクソ金持ち。

 気前がいい。

 ってか、何でこんなもんを飾ってんだ?


 俺は立ち上がり、棚まで行き、ワイングラスを見る。


「どれが高いと思う?」


 俺はシロを呼び出し、聞いてみることにした。


「俺っちの目利きによると、真ん中のやつだと思う。一番良いものは目につきやすい場所に置くもんだ」


 それ目利きじゃなくて、推理だろ。


「ショウコ、これ貰っていい?」


 俺は優雅にお茶を飲んでいる品性100%女に聞く。


「どうぞ。飾ってあるだけで、使わないし」

「あんがとー」


 俺は礼を言い、グラスをアイテムボックスの中に入れた。

 そして、席に戻り。菓子を食う。


「相棒、俺もくれ」

「勝手に食え」

「おう」


 俺は腕をテーブルに伸ばすと、シロは腕を伝い、テーブルに行く。

 そして、菓子を食い出した。


「お前ら、マジで図々しいな」


 さっきから菓子をバクバク食ってるお前に言われたくない。


「遠慮すると後で後悔するぞ? 貰えるもんは貰っておくんだよ。それより、話って?」


 俺は本題に入ることにした。


 まあ、大体、想像はつくが……


「ユリコのことだ」


 だろうね。

 知ってた。


「どうなったんだ?」

「来週末の12日から復帰してくる。お前の誕生日だな」


 いらない誕生日プレゼントだなー。


「接近禁止を頼むとか言ってたけど…………」


 前にサエコに電話した時にそんなことを言っていた。


「難しいそうだ。ウチは人数が多いし、上がユリコに攻略を期待しているみたいで、接近禁止は現実的じゃないらしい。一応、ユリコには様々な制約をつけるらしいが、あいつが守るとは思えん」


 ユリコは名古屋でスタンピードを止めた。

 それを評価しているのだろうが、あいつが真面目にやるわけがない。


「同感だな。お前らはどうするん?」

「一人で行動しない、ユリコには近づかない、情報を共有する、だな。だが、正直、ウチの連中の中にはユリコに肯定的な子もいる。いくらクランリーダーでもプライベートのことをあまり突っ込めんし、黙認状態だ」


 あー……そういえば、前にユリコがまだ連絡を取っている子もいるって言ってたな―。

 サエコも気付いてたんだ。


「つまりお手上げか?」

「あいつをダンジョン内で秘密裏に殺そうかと考えている」


 物騒だなー。


「あいつに勝てんの?」

「1対1でまともにやれば、私の方が強い」

「やめとけ。ユリコがまともにやるわけがない。性根が腐ってんだぞ」

「だよな…………立花が生きててくれてたらなー」


 こいつ、いよいよヤバくないか?

 それはお前が一番言ったらダメだろう。


「ショウコは? お前、副リーダーだろ」


 病んだサエコを放っておき、まともそうなショウコに話を振る。


「私は好きにすればいいと思うわ。人の趣味、嗜好はそれぞれよ。それを私達が押さえつけたら大問題。私達はユリコさんの犯罪行為のみに注視すればいいの」


 こいつは自分はもう狙われてないし、狙われても、いくらでも対処できるから余裕だ。

 ショウコは昔からこういうヤツで、どこか冷めており、俺達とは違う意味で自己中である。


「まあ、各自で対処するしかないのか……」

「私はあなたが心配よ。簡単に引っかかりそう」

「んなわけねーだろ。返り討ちじゃ」

「まあ、無茶はしないことね。あなたはあなたで協会から目をつけられているみたいだし」

「ん? なんで?」

「身に覚えない? 最近、何かを覚えなかった?」


 ショウコが薄ら笑みを浮かべ、俺の目をじーっと見てくる。


 マジカルテレポートのことかな?

 こいつ、なんで知ってんの?


「んー、まあ、大丈夫だろ」

「そう? 気を付けなさいよ」

「ん」


 俺はショウコの忠告に素直に頷いた。


「何の話だ?」


 病みが癒え、再起動したサエコが俺達の会話に入ってくる。


「なんでもねーよ。それよか、週刊エクスプローラ、見た?」

「あー、あれな。私達はまだフォローされてたが、散々に書かれてたな」

「瀬田君が怒ってたわね」


 クーフーリンも見たらしい。

 ちなみに、こいつらとあきちゃん、そして、クーフーリンは同級生だ。


「あれなに? あきちゃんも怒ってた」

「何で急に私らをディスってきたのかねー。正直、今さらだろ」


 まあね。

 昔から評判は良くない。


「うらみでもあるのかね?」

「違うみたいよ」


 俺の予想をショウコが否定する。


「ん? 知ってんの?」

「まあ、調べたから」


 どうやって調べるんだよ。

 俺のマジカルテレポートといい、金持ちは怖いわー。

 こいつだけは敵に回さないでおこう。


「何であんなのを書いたん?」

「数年前にダンジョン学園を卒業して、最近、着々と実力をつけているコンビがいるのよ。新進気鋭ってやつね」


 きえーい!


「ダンジョン学園ってことは、俺の先輩か…………そいつらがどうかしたのか?」

「第1世代の次を担うのをそのコンビにしたいのよ。実際、協会も期待してるみたい。要は私達より優れてるって、アピールしたいってこと」


 ほーん。


「勝手にすればぁ? んなもんに興味ねーわ。俺は男に戻るのが先決だし」

「私も興味ないな。好きにしろよ。そんなもんのために、私らをディスんなよなー。気分悪い」

「まあ、そうね。でも、あんな記事を書かせたみたいだし、絡んでくる可能性が高いわよ」

「書かせたって、そいつら何者?」


 記者への影響力があんのか?

 大物?


「いや、そのコンビの片割れのお父さんが記事を書いた記者ってだけ。まあ、子供想いな親なのね…………フッ」


 ショウコが鼻で笑った。


 こいつにとって、親子関係は超がつくほどのタブーだ。

 めっちゃ仲が悪いらしい。


「ま、まあ、そんなヤツら、捨て置いていいだろ」

「だ、だな。私らは私らのペースでやろう」


 俺とサエコは慌てる。


 ショウコが黒い笑みを浮かべているからだ。


「うっとおしい虫は早めに叩き潰しておいた方が良いと思うけど」


 ダークショウコが悪役令嬢みたいなことを言っている。


「いや、放っておこう。これはリーダーの決定」

「そうそう。どうせ、あきちゃんかクーフーリンが報復するよ。あいつら、自分の事を棚に上げて、悪口を言われるのが大嫌いだから」

「まあ、そうね。秋子と瀬田君に任せましょう」


 ちなみに、このダークショウコが第2世代の有名どころで一番まともと言われている。


 金持ちにまともな人間がいるわけないだろうが!



 その後、晩飯をご相伴にあずかり、良い時間なので、帰ることにした。

 サエコはそのまま泊まるらしい。


 俺も泊まらないかと、誘われたが、明日は朝から仲間と集まるため、お断りした。

 正直、あの豪華な家で一泊したかったが、しょうがない。


 俺はおみやげに色々と貰い、それらをアイテムボックスに入れ、帰宅した。


「いやー、あいつの家、すげーなー。晩飯もめっちゃ美味かったわ」


 食いしん坊な蛇はご満悦らしい。


「ほんとになー。昔からよくしてもらったよ」

「しかし、怖かったな」

「まあ、あいつは色々とあったらしいから」


 ショウコと親の関係はマジで壊れているらしい。

 ショウコが政略結婚を嫌がったため、ほぼ絶縁状態のようだ。

 そのくせ、金は貰っているらしい。


 本当に現代の日本か?


「そのせいで、あいつ、ガチの男嫌いだぞ。ある意味、ユリコとは気が合いそう」

「マジで? ってか、お前は?」

「俺があいつと会ったのは小学生の時だよ。ガキ相手にそんなんあるか」


 まあ、ケツを触ろうとした時は、めっちゃ怖かったけど。


「クーフーリンは? 同級生じゃなかった?」

「あいつらは昔からの知り合いらしい。まあ、クーフーリンはショウコにビビってるし、あんま近づかないみたい」


 クーフーリンやあきちゃんはショウコの事をショウコさんと呼ぶし、明らかに立場に差がある感じだ。


「ふーん。お前はそんな相手に図々しくワイングラスまで要求したのか…………すげーな」


 お前だって、ノリノリで選んでたし、晩飯や菓子をがっついてたろ。


「ショウコは逆鱗に触れなかったら、優しいし、気前がいいから問題ねーよ」

「お前はその逆鱗に触れそう」


 ってか、もう触れた。

 お尻は触れなかったけどね。


「大丈夫、大丈夫。んなことより、貰ったおみやげを食おうぜ」

「お前も食うの? こんな時間に食ったら太るぞ」

「…………お前にやる」


 俺は風呂入って、寝ることにした。


 だって、太ったらやだもん。





攻略のヒント

 

 今日、お姉ちゃんとホノカから誕生日プレゼントをもらった。

 お姉ちゃんはともかく、ホノカのプレゼントには悪意を感じる。

 まあ、貰ったこと自体は嬉しいので、大切にしようと思う。


 しかし、ホノカは春に貸した金を返さないつもりか?

 まったく、話題に出ないんだが…………


『神条ルミナの日記』より

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