第089話 他人が揉めているのを見ると、笑みがこぼれるよね?


 予定よりも早く20階層に到達し、20階層のボスであるミノタウロスをシズルの忍法で倒した俺達は、ダンジョンで泊まるのを止め、ダンジョンから帰還した。


 俺達は空間魔法の早着替えで私服に着替え、いつもの警備員2人に挨拶をすると、協会のロビーに戻ってきた。


「ん?」

「何かな?」


 俺達が協会のロビーに戻ると、ロビーの中央に人だかりができている。


「揉め事かな?」


 俺はワクワクしながらシズルに聞いた。


「嬉しそうねぇ」


 だって、他人が問題を起こしているのを見るのって楽しくない?


 これを言ったら、また、シズルに無視されそうだから言わないけど。


「しかし、邪魔だな」


 早くマイちんの所に行きたいのに、ダンジョンから帰還した俺達の所に協会の職員が来ない。


「マイさんの所に行ってみようよ。何か知ってるかもしれないし」

「そうするか」


 俺達は人だかりを避け、マイちんのいる受付に向かうことにした。


 人だかりに近づくと、何とか見えないかと背伸びをするが、身長が低い俺では見ることができない。


 しかし、人だかりの中から声が聞こえてきた。


「てめー! やんのか!?」

「その口の聞き方を正せと、何度も言っただろう」


 人だかりのせいで、顔は見えないが、聞いたことがある声だ。


「ねえ、一人はクーフーリンさんじゃない?」


 シズルも気づいたようだ。


「だな。もう一人も知ってる声だわ。≪竜殺し≫だ」

「≪竜殺し≫って、あのAランクの!?」


 ≪竜殺し≫は元自衛官である。

 ダンジョンが出現し、協会がエクスプローラを募集し始めると、国のためにと自衛官を辞め、エクスプローラになった愛国者だ。

 

 もちろん、そんな真面目なヤツだから、俺達、第二世代は嫌われている。

 特に≪レッド≫だった俺はヤバいくらいに嫌われているのだ。


「めんどくせーヤツだよ。関わりたくないから行こうぜ」


 どうせ、≪竜殺し≫がクーフーリンに口うるさく説教でもしたんだろ。

 そして、クーフーリンがキレた。


 いつものことだし、真面目なホワイトルミナちゃんには関係ないね。


 俺は人だかりをスルーし、マイちんの所へ向かおうとした。


「あ! お姉さま!」

「お姉さま! 助けて! クーフーリンのアホと≪竜殺し≫がケンカしそう!」


 俺が他人のふりをしていると、アヤとマヤがこちらに気付き、やってきた。

 そして、そのことで、周りにいた野次馬共も俺に気付く。


「お前らもダンジョンか? 俺はとっても忙しいから、またな 」

「待って!」

「助けて!」


 俺はアヤとマヤをスルーしようとするが、アヤとマヤは俺のスカート掴み、離さない。


「離せ! パンツが見えちゃうだろうが!」

「いやだー」

「離さない!」


 こいつらは左右から俺のスカートを掴んでいるため、俺の下半身は非常に危うい感じになっている。


「離せって! って、おい! てめーら、何、見てんだよ!!」


 気付くと、近くにいた野次馬共はめくれたスカートから覗く俺の麗しい足をいやらしい目で見ていた。


「殺すぞ!!」


 俺がエロボケ共を恫喝すると、エロボケ共は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 すると、野次馬が消えたことで、ロビー中央で揉めている非常識なヤツらが見えてきた。


 そこには、にらみ合う≪竜殺し≫とクーフーリン、その周囲にはハヤト君と土井、そして、≪教授≫がいる。


 野次馬が消えたことに、不思議に思った≪竜殺し≫がこちらを見てきたため、≪竜殺し≫と目が合った。


「ん?」


 ≪竜殺し≫は俺の目を見て、すぐに俺の下半身を見てきた。

 

「おい、≪竜殺し≫! てめー、何、見てんだよ!! 死にたいのか!?」

「また、厄介なのが来た……」


 ハヤト君が頭を抱える。


「おい、≪レッド≫! お前はどっかに行っとけ! ≪竜殺し≫には俺が用があるんだよ!」


 クーフーリンは大分、頭にきているみたいだ。


「≪レッド≫? この女、≪陥陣営≫か!?」

「うっせー! いつまで人の太ももを見てんだよ! 殺すぞ!! ってか、お前らもいい加減にスカートから手を離せよ!」


 いつまで、掴んでるんだ!


「いやだー」

「お姉さま、助けてー」

「いやいや、離せよ」


 誰を助けるんだよ。

 ってか、状況がわからん。


「いいから、離れろ。おい、パンツが見えちゃうって!」


 この双子を離したいのだが、俺の両手はスカートを押さえるのに精一杯だ。

 こいつらを引き剥がそうとすると、俺のドエロいパンツが見えてしまう。


「助けてくれる?」

「いやだ!」


 俺はマイちんの所に行くの!


「じゃあ、離さないー!」


 もう、めんどくせー双子だな!


「シズル! アヤとマヤをどうにかしろ! このままでは俺がこのスケベ共の夜のおかずになってしまう!」


 俺は前にいるハヤト君達にアゴを向ける。


「ちょっと待て!」


 慌てるハヤト君。


「ねえ、どうしたの? 話は聞くからルミナ君のスカートから手を離そ?」


 シズルは優しく双子に話しかける。

 すると、さっきまでは、頑なに俺のスカートを掴んで離さなかった2人がすぐにスカートから手を離した。


 ふぅ……危ない、危ない。

 危うく俺の禁断の園を見られるところだった。


 俺はスカートをパッパッと払う。


『早着替えを使えば良かったのに』


 シロから遅すぎる指摘がきた。



 ………………。


 

 はよ、言えや!!


「で? てめーら、何してんの? よくも俺様のパンツを晒そうとしたな!!」


 俺は揉めている2人の所に歩きながら、恫喝する。


「誰もお前のパンツなんかに興味ねーよ!」

「≪陥陣営≫、いくら元男とはいえ、公共の場では慎め!」


 あ、キレそう。


「ルミナ君! 落ち着いてー!」


 俺が≪竜殺し≫とクーフーリンの処刑を決めると、何かを察したシズルが俺の腰に抱きついてきた。


「止めるな、シズル! この2人は死にたいらしい!!」

「落ち着いてって!」


 シズルに抱きつかれながら言われると、落ち着いてきた。


 うーん、怒りが収まっていく……

 もしや、これは愛の力だろうか!? 


『違うと思うなー。性欲の力だと思うなー』


 俺もそう思う。

 何故なら俺のキュートなお尻にシズルのおっぱいが当たっているからだ。


「何をしている!?」


 俺がシズルのおっぱいを堪能していると、騒ぎを静めるために本部長がやってきた。


「おい、神条、いい加減にしろ!せっかく、白に戻したのに、また色がつきたいのか!?」


 本部長は何故か、クーフーリンと≪竜殺し≫の所ではなく、真っ直ぐ俺の所にやってきた。


「俺は何もしてねーよ!」


 実際、何もしてない。

 アヤとマヤに剥かれそうになっただけだ。


「そうは見えんが……」


 本部長は俺に抱きついて、必死に止めようとしているシズルを見る。

 

「シズル、離れろ。もう落ち着いた」

「う、うん」


 シズルは膝をついていたが、立ち上がった。


「…………俺はマジで何もしてねーぞ。むしろ、ハヤト君率いる≪勇者パーティー≫にスカートをめくられそうになり、さらに、それを舐め回すように見られてたくらいだ」

「おい! 悪意があるし、印象操作がひどいぞ!」


 ハヤト君が異議をとなえる。


「事実じゃん」


 アヤとマヤはハヤト君の仲間だし、俺とアヤマヤの格闘を見てただろ。


「しかし、先ほど、お前は仲間に止められていただろ。どうせ、ケンカを売りにいったんだろ」


 本部長って、まったく俺を信用してないよな。


「そんな目にあって抵抗するなと? あのままスカートをむしり取られれば良かったと? マスコミにチクるぞ」


 教育委員会にもチクろう。


「…………まったく状況がわからんのだが。何でお前はスカートをむしり取られそうになっているんだ?」

「知らねーよ!!」


 俺が聞きてーわ!

 被害者に聞くんじゃねーよ!


「ハァ……≪教授≫、何があった?」


 本部長は聞く相手を≪教授≫に変える。


「石川君が瀬田君に説教をしたのだ。それに瀬田君が怒って、ケンカになり、騒ぎになった。まあ、いつものことだ」


 石川は≪竜殺し≫の名字だ。

 下の名前は知らない。


 瀬田はクーフーリンの名字である。

 下の名前は知らない。


 興味もない。


「≪教授≫、クーフーリンです」

「そうだったな…………まあ、そういうことだ。≪陥陣営≫は…………わからん。気付いたらウチの双子が≪陥陣営≫のスカートを掴んで争っていた」

「つまりは石川と瀬田が騒ぎを起こしたのだな…………おい、神条、お前はどういうことだ?」

「だから、知らねーわ!! 俺は真面目にダンジョン探索をして帰ってきたところなんだよ! お前らのくだらねー争いにまきこむな!」


 非常に遺憾である!


「そういえば、お前が20階層に行くって、申請があったな。随分と早いが、途中で帰ってきたのか?」

「もう行ってきたよ」

「20階層を日帰りで帰ってきたのか!? それはすごいな! まあ、お前ならミノタウロスも楽勝か」


 フフン!

 そうやって、俺を褒め称えておけばいいんだよ!


「ミノタウロスを倒したのはシズルだけどな」

「何!? あのミノタウロスをお嬢さんが!? そういえば…………あ、いや、なんでもない」


 シズルのジョブが忍者であることは公にしていない。

 だから、本部長は言い淀んだのだ。


「嘘つけ! 学生がミノタウロスを倒せるわけねーだろ!」


 クーフーリンが突っかかってきた。

 こいつ、相当イライラしてるな。

 ≪竜殺し≫に絡まれたらしいので、気持ちはわかるが……


「ミノタウロスくらい、俺は中学の時に倒したぞ。ついでに、どこぞの雑魚Bランクも瞬殺してやったな」

「テメェ……」


 クーフーリンの顔が強ばる。


「瀬田君、落ち着きなさい」

「≪教授≫、クーフーリンですって」

「そうだったな」

「うーむ、神条、ちょっと本部長室まで来てくれないか? 君達も来てほしい」


 本部長は俺だけでなく、パーティーメンバーにも言った。


「俺達は何も悪いことしてないぞ」

「わかってる。これから21階層以降の調査を行うのだが、20階層までの様子を聞きたいんだ」


 あー、だから、≪竜殺し≫が東京本部にいるんだな。


 ≪竜殺し≫のホームは北海道だ。

 何で、ここにいるのか疑問だったのだが、ようやくわかった。

 

 ≪竜殺し≫は空間魔法レベル3のオートマッピングを持っているのだ。

 こいつに調査をさせつつ、地図を作るんだろう。


 俺的にも21階層より奥に行く必要があるため、地図は作ってほしい。


「お前ら、いいか?」


 俺は後ろにいる仲間に確認する。


「うん」

「ボクもいいよ」

「まあ、義務ですし」

「もちろんです!」

「といっても、そんなに話すこともないけどね」


 ウチの仲間達は協力するようだ。


「じゃあ、この後、来てくれ。お前らも揉め事を起こすな! いいか!?」


 本部長は≪竜殺し≫とクーフーリンに注意し、本部長室に帰っていった。


「アヤ、マヤ、お前らは何であんなに必死だったんだ? そんなに俺のエッチなパンツを見たかったのか?」


 俺はアヤとマヤの必死さが疑問だったので聞くことにした。

 正直、クーフーリンを仲間にしていれば、こんなことは日常茶飯事だろう。


「お母さんとお父さんにエクスプローラを辞めろって言われてる」

「私達、成績も良くないし、素行も良くないから」


 あー、スタンピードが起きたから、エクスプローラを辞めろって言われているんだ。

 ましてや、こいつらは赤点ギリギリなうえ、遅刻の常習犯だ。


「……そうか。親御さんは心配なんだろう。俺も前に、親に免許を取り上げられそうになったからわかるわ」


 なんとか回避したが、マジで危なかった。


「辞めたくない」

「何とか説得したけど、問題を起こしたらマズい」

「と、お前の仲間が言ってるが、どう思うんだ?」


 俺は泣きそうなアヤとマヤを見て、クーフーリンに話を振る。


「…………すまん」


 クーフーリンは素直に謝った。


「学生の模範にならないといけない高ランカーが何してんだよ」


 バカじゃねーの?


「あんたが言うな」

「センパイ、そういうとこですよ」

「君達、ちょっと、黙ってて」 


 俺、良いこと言ってるから。


「クーフーリン、お前はもうソロじゃないんだ。≪教授≫は役に立たんし、お前がパーティーを引っ張っていくんだろ?」


 ってか、教授って、教師じゃねーの?

 何してんの?


「お前に言われると、すげームカつくな…………いや、アヤ、マヤ、すまん。これからは控える」


 クーフーリンなんて、そうしていれば、すぐにAランクになれるというのに、本当にバカなヤツだわ。


「そうしろ、そうしろ。じゃ、俺は本部長の所に行くから」


 俺はそう言って、仲間と共に本部長室に向かうことにした。


「やっぱり、エクスプローラを辞めろって、言われるヤツもいるんだな」


 俺は本部長室に向かう道中、隣にいるシズルに話しかける。


「うん。ウチのクラスにもいるみたいだしね」


 新学期に入って、クラス内で辞めたヤツはいない。

 でも、親に言われているヤツもいるんだろうな。


「2年は?」


 ちーちゃんと瀬能にも話を振る。


「そういう話もあるね」

「といっても、2年まで通っておいて、辞めたくないから、実際に辞める人は少ないだろうね」


 ダンジョン学園と一般の高校ではカリキュラムが大きく違う。

 今から他校に編入しても、勉強について行けないだろう。


「中等部は多そうだな」

「ですね。僕達のクラスにも、一般の高校に行くって言ってる人もいます」

「辞めるなら今ですからね~」


 中等部は義務教育であるため、一般の中学と同じ授業内容だ。

 確かに、中等部を卒業する時が辞め時ではある。


 エクスプローラは危険な仕事ではない。


 これは協会がエクスプローラを集める時に言っている謳い文句だ。


 しかし、ダンジョンの安全神話が崩れた今、エクスプローラの数が減りそうになっている。

 そして、エクスプローラの数が減れば、その分、スタンピードを止める人間が減るということだ。


 協会やお偉いさんは頭を抱えているんだろうな。


 どうするのかねー?


 俺は自分に火の粉が降りかかりませんようにと祈った。





攻略のヒント


 みんなー! 元気ー!!

 風邪引いてない?

 ちゃんとご飯、食べてる?


 いえーい!!


 クーフーリンに命を狙われているあきちゃんでーす!!


 よーし、大好評なので、今日もエクスプローラを紹介するぞー。


 第6回目はこの人!


 石川ジュウゾウさんでーす!


 超有名だから知ってるよね?

 そう、≪竜殺し≫でーす!!


 といっても、この人はあまり仲良くないから詳しいことは書けません。


 なにせ、この人は元自衛官で真面目。

 

 昔、私がダンジョンでモンスターのスケッチをしていたら、絡まれちゃったことがあるんだよねー。


 危ないから止めろってさ。


 私がうっせーって、怒鳴ったら説教が始まっちゃった。


 ちょーマジ、ムカつくって、かんじー。


 それ以来、会うたびに説教される。

 あの人、絶対に家でも煙たがれているね。


 怖いから悪口はこの辺にします。


 ≪竜殺し≫はAランク!

 しかも、元自衛官だけのことはあって、戦闘能力は抜群!

 

 ちなみに、≪竜殺し≫って二つ名がついてるけど、別にドラゴンを倒したとかじゃない。

 竜も殺せそうなくらいに強いからついた二つ名だね!


 そして、日本では、3本の指に入る実力者だよ!

 あと2人は今度、紹介します。



 他に知っていることはないから、ここで裏話!!


 ≪竜殺し≫は既婚者で子供もいるんだけど、奥さんはヤバいくらい美人!!

 昔、奥さんと歩いている所を≪陥陣営≫のルミナ君と一緒に遭遇したんだけど、ヤバかった!!


 あきちゃん、自信をなくしそうだよ…………


 ちなみに、ルミナ君は嫉妬で≪竜殺し≫に絡んでいた!


 ちっちゃい男だよ。


 あ、今は女か!!

 ケラケラ!!


 でも、どこがとは言わないけど、小さくないね…………

 シクシク……



 さーて、気を取り直して、次の更新は誰を紹介しようかな~。

 みんなちゃーんと、毎日チェックしてね?



『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より 

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