第074話 夜も満喫しよう!


 女4人+αで海を満喫した俺達は夕方になったので、宿泊施設の旅館にチェックインした。


 シズルや別クラスの3人と別れ、俺は自分の部屋に向かった。

 ちなみに、俺の部屋は3階みたいだ。


 部屋に向かいながら旅館を観察しているが、綺麗だし、情緒もあり、かなり高そうな旅館だ。


 部屋の前に着くと、俺は一応、ノックした。


「開いてるよー」


 部屋の中からちーちゃんの声が聞こえてきたため、俺は部屋に入る。


「ちーちゃん、お疲れー」

「おつかれさん」


 部屋の中に入ると、ちーちゃんが背もたれにだらけながら座り、テーブルに置かれている温泉饅頭を食べている。

 そして、制服を着ているが、やっぱりギャルだ。


「お姉ちゃんは?」

「ミサキは風呂。ここに誰もいなくなったらマズいし、あたしがあんたを待ってた」


 部屋のカギが1つしかないので待っている理由はわかる。

 でも、なんでちーちゃんなんだよ。

 普通、姉が弟を待つだろ。

 せっかく、お姉ちゃんと温泉に入ろうと思ったのに!


「ハァ……まあいいや。綺麗な旅館だな」

「すごいよね。去年は安っぽいホテルだったから、より豪華に感じるよ」

「それはご愁傷さま」


 まあ、俺も山登りだった。

 夜は楽しかったけど。


 俺はちーちゃんの対面に座り、温泉饅頭を取った。


「あんたは昼間、何してたの?」


 ちーちゃんが焦点の合わない目でぼーっと天井を見ながら聞いてきた。

 タバコが似合いそうだ。


「シズル達と海。ちーちゃんは?」

「あたしはミサキ達とテニスしてた…………海?」


 ちーちゃんの目に光りが宿った。

 そして、姿勢を直し、俺を見てきた。


「海。綺麗だったぞー。ちーちゃんも行けよ」

「…………あんた、水着は?」

「ビキニ」

「…………そう」


 ちーちゃんは再び、だらけだした。


「ちーちゃん、何か飲む?」

「何かって、何さ?」

「どれがいい?」


 俺は伊藤先生に没収されなかったジュースみたいな飲み物を取り出した。


「あー、誰かが持ってくるだろうなーって、思ってたけど、あんたがいたか。そういえば、あんたの家の冷蔵庫はこんなんばっかだったわ」


 何でウチの冷蔵庫の中身を知ってんだよ。


「いらない?」

「ちょうだい」


 俺はちーちゃんに桃のジュースを渡し、俺はレモンのジュースを取り出した。


「かんぱーい」

「かんぱい」


 俺とちーちゃんは乾杯をし、ジュースを飲む。


「あー、うまい」

「俺は海に行ったから、すげーうまいわー」


 俺とちーちゃんはだらけながら、グビグビと飲む。


「明日はダンジョン?」


 ちーちゃんがカバンからおつまみを出し、テーブルの上に置きながら聞いてきた。

 こいつも飲む気満々だ。


「朝だけな」

「ハァ……行きたくない」

「仕方ねーよ。シズルとカナタがあんなに行きたがってんだから」


 俺とちーちゃんはため息を吐く。


「調べたんだけど、ここのニュウドウ迷宮はあたし達と相性が悪いよ」


 ちーちゃんはやっぱり事前に調べていたらしい。


「なんで?」

「ここのモンスターは水系統ばっかだから、火魔法や水魔法は相性が悪い」

「ダメじゃん」


 カナタと俺は火魔法がメインだ。

 そして、ちーちゃんは水魔法がメインだ。

 一応、カナタは土魔法、ちーちゃんは風魔法が使えるが、戦力は半減だろう。


「魔法の援護はほぼないと思ってね」

「ちーちゃん、明日、風邪ひけよ」


 そしたら、中止になって、遊べる。


「嫌だよ、あたしが遊べないじゃん」

「明日と4日目かー。まあ、俺は4日目は依頼だけど」


 本当は5日中、3日ほどダンジョンに行く予定だった。

 しかし、ちーちゃんとアカネちゃんが猛反対したため、2日になったのだ。

 俺はシズル達に理解があるふりをしていたが、心の中は猛反対だった。


「頑張って枕を貰ってきてよ。あたしらは適当にやる」

「任せとけー。ハァ……ウチのクラスのほとんどはダンジョンに行かないんだぞ」

「ウチのクラスも。行きたいヤツの気が知れないよ」


 俺とちーちゃんはシズルとカナタには聞かせられない愚痴を言い合う。


「まったくだ。他所のダンジョンなんて、二度とこねーし、夏休みなんだぞ」

「ホント、ホント」


 ガチャッ


 俺とちーちゃんが愚痴っていると、部屋の扉が開いた。

 すると、俺とちーちゃんは瞬時に空間魔法を使い、さk……ジュース缶をアイテムボックスにしまった。


 他人のことは言えないけど、ちーちゃんも慣れてるなー。


「あがったよー、良いお湯だったー」


 部屋に入ってきたのは湯上り美人のお姉ちゃんだった。


「なんだ、ミサキか」


 ちーちゃんはそう言って、再び、ジュースを取り出した。

 俺もちーちゃんと同様に取り出した。


「2人共、何を飲んでるの?」

「ジュース。お姉ちゃんもいる?」


 俺はお姉ちゃんが好きなぶどうのジュースを取り出し、渡した。


「もう! ダメだよー」


 お姉ちゃんはそう言いながら、ブルタブを上げる。


「お姉ちゃん達はダンジョンに行くの?」

「ううん。私とホノカちゃんは行かない。他の人達は行くみたいだけど」


 お姉ちゃんはグビグビと飲み、答える。

 髪を上げた湯上りの美人さんは喉元がセクシーだ。


「いいなー。あたしらは明日の朝からダンジョンだよ」

「行きたい人だけが行けばいいじゃない」


 そうは言うけど、そういうわけにはいかない。

 お姉ちゃんは適当だなー。


「ってか、お姉ちゃんが抜けて、大丈夫なん?」


 お姉ちゃんはヒーラーだろ。


「うーん、まあねー。最近、ウチも微妙だからねー」

「そうなん?」

「うん。この前のルミナ君が倒したレッドオーガにウチらは手も足も出なかったからね。焦らずにじっくりやろうって人と、がむしゃらに強くなろうって人とで、意見が分かれている感じ」

「ふーん。お姉ちゃんは?」

「私はどっちでもいいかなー」

「軽いなー。そんなんでいいの?」

「実は≪ヴァルキリーズ≫に誘われてるんだよねー」


 ショウコか……

 もう動きおった。


「マジかー。ってことはホノカも?」

「うん。この前、家に来て、勧誘された。お父さんやお母さんにも説明してた」


 さすがショウコ。

 まずは親を落としにいったか(未成年だから当たり前だけど)。


 ショウコはウチの親と面識がある。

 俺とパーティーを組む時やパーティー解散時に挨拶に来たことがあるのだ。

 もちろん、その時はジャージではなく、キチンとした格好だった。

 そのことがあるから、ショウコはウチの親の覚えが良い。


「移籍すんの?」

「考え中。まあ、卒業してからの話かなー。今、移籍すると、角が立つし」

「だろうね」


 何故かちーちゃんが答える。


 おい!

 お前、ウチを抜けるつもりじゃないだろーな!


「だから、もうちょっと考えてみるつもり。今回は時間もあるしねー」


 こりゃあ、移籍するな。

 佐々木ざまあ!


「まあ、お姉ちゃんの思うようにやりなよ」

「そうする。だから、明日は遊ぶよー」

「いいなぁー」


 ちーちゃんは本当にダンジョンに行かずに遊びたいらしい。

 まあ、俺もだけど。


「ちーちゃん達も遊べばいいのに」

「俺はリーダーだし、ちーちゃんがいないと、後ろが回らない。それに、シズルとカナタだけを行かせるわけにもいかないでしょ」

「それもそうね。ウチと違って、臨時を頼むわけにはいかないだろうし」


 お姉ちゃん達はいくらでも臨時が見つかるだろうけど、ウチは無理だし、シズルに悪い虫がついてはいけない!


「そういうこと。ハァ……風呂でも行ってくるわー」

「あたしも行ってくる」


 俺はお姉ちゃんにもう一缶渡し、ちーちゃんと部屋を出た。


「いってらっしゃーい」


 お姉ちゃんは可愛く手を振ると、おつまみを食べながら、ジュースを飲みだした。

 ちなみに、お姉ちゃんも俺やちーちゃんと同様に空間魔法が使えるから対策はバッチリである。


「あんた、貸し切り風呂だっけ?」

「そう。お姉ちゃんと入りたかったなー」

「…………そう。あたしはこっちだから」

「ん。じゃあ、また後でな」


 俺はちーちゃんと別れ、2階にある貸し切り風呂に向かった。



 貸し切り風呂の脱衣所に着くと、制服を脱ぎ、浴場に入る。

 浴場に入ると、そこは絶景だった。


 風呂は露天風呂であり、そこそこ広い。

 そして、目の前に水平線まで見える海が一望でき、夕日が綺麗だ。

 確かに、ここに家族やカップルで入れば、さぞ盛り上がるだろうな。


「これはすげーな」


 頭の上にいるシロも驚いている。


「これを独り占めかー。本当に悪い気がするな」


 頭と身体を洗い、風呂に入ると、体が弛緩していく。


「あぁー、最近、ロクなことがなかったけど、今日は幸せだわー」


 最近は期末試験、≪教授≫と嫌なことが多かった。

 しかし、今日はユリコのことを除けば、海でシズル達と楽しんだ。

 そして、風呂は最高であり、お姉ちゃんと一緒に寝るのも久しぶりだ。


「いやー楽しいなー」


 シロはお湯の上を器用に泳いでいる。

 こうして見ると、マジでヘビだな。


 俺は楽しそうなシロを尻目に夕日を眺め、露天風呂を満喫した。

 


 俺は十分に満喫すると、風呂を出て、浴衣に着替える。

 俺はそんなに長風呂するタイプではないのだが、ここではさすがに1時間弱は入っていたと思う。


「この浴衣も夏っぽいなー」

「よっ! 浴衣美人!」


 わはは!


 俺達はアホなことを言ったあと、晩飯が出るなんちゃらの間に向かった。



 シロを頭の上に乗せて歩いていると、従業員にギョッとされたが、特にお咎めはなかった。

 ダンジョン学園の貸しきりだし、説明がしてあるそうだ。

 そうやって歩いているうちに、なんちゃらの間に到着した。

 中に入ると、大勢の浴衣やジャージ姿の生徒達が座っていた。

 ここにいるのは高等部の1年だけであり、他の学年は違う部屋らしい。


「神条、遅いぞ」


 俺が自分の席を探していると、担任の伊藤先生が声をかけてきた。


「すんませーん。貸しきりの風呂がすごかったんで、長風呂しちゃいましたー」

「ほう……そんなにすごかったのか?」


 伊藤先生は興味津々だ。

 

「はい。今日はもう入らないので、良かったら先生もどうぞ」

「そうしようかな。あ、お前の席はあっちな」


 伊藤先生に指差された方に向かって歩いていると、浴衣姿のシズルがいた。

 そして、その隣の席が空いている。


「あ、ルミナ君、ここだよー」


 シズルが自分の席の隣を指差し、教えてくれた。


 やったね!

 ついにシズルの隣だ!!


 俺はウキウキしながらシズルの席の隣に座る。

 シズルは湯上がりであり、艶やかな髪がさらに色っぽく見えた。


「お風呂はどうだった?」

「すげーわ。夕日と海が絶景。そっちは?」

「こっちは海は見れないけど、すごい広かった」


 へー。

 そっちにも入りたいなー。


 俺とシズルが風呂の話をしていると、時間になったようで、教頭が前に立ち、長話を始めた。


 昼と同様に、やれ秩序がどうとか話している。

 要約すると、男子は女子の部屋に行くなだ。

 たったそれだけを言うのに、何故、こんなに長いのか、理解できない。


 皆がウンザリしていると、ようやく、話が終わり、晩飯となった。

 晩飯も刺身やら牛肉やら、かなり豪華だ。


「うまい、うまい」

「おいしいねー」


 俺とシズルは料理に舌鼓を打っている。

 他の生徒もうまそうに食べ、盛り上がっていた。


「相棒、俺にもくれ」

「じゃあ、この刺身をやる」


 シロは頭から降り、膳の上にいる。

 そして、俺が許可を出すと、刺身を食べ始めた。


「俺の分も残しておけよ」

「わかってる、わかってる」


 ホントか?

 すごい勢いで食ってるけど……


「明日のダンジョンはどれくらい進むの?」


 俺ががっつくシロを眺めていると、シズルが聞いてきた。


「さっき、ちーちゃんと話したんだが、ここのダンジョンは俺達と相性が悪いみたいだ。だから、進むことよりも、じっくり探索することを優先する」

「わかった。どんな感じなんだろうー」


 シズルは楽しみみたいだ。

 理解できないわー。


 俺はシズルが嬉しいならいいかと納得し、刺身を食べようと思い、膳を見ると、刺身がなくなっていた。


「おい、俺の分は?」


 俺は膳の上でご満悦なシロに聞く。


「うまかったぞ」

「丸焼きにしてやろうか!」


 俺はシロを箸で掴む。


「やめなよ。私の分を分けてあげるから」


 お前は優しいなー。


 その後、食事を終え、旅館内をシズルと散歩し、土産物を見たりした。

 そして、いい時間になってきたので、シズルと別れ、自室に戻った。



 自室に戻ると、すでに布団が川の字に並べられており、お姉ちゃんが真ん中の布団で本を読んでいた。


「遅いよ。何してたのさ?」


 奥の布団で携帯を弄っていたちーちゃんが俺のほうを見ながら聞いてくる。


「シズルと散歩してた」

「ふーん」


 俺が答えると、ちーちゃんはすぐに携帯に目を落とした。


 興味がないなら聞くなよ。


 俺は端に寄せられたテーブルの席につくと、アイテムボックスからジュースを取り出す。

 すると、奥の布団の上でゴロゴロしていたちーちゃんがカバンからおつまみを取り出し、テーブルにやってきた。

 それを見たお姉ちゃんもテーブルにやってきた。


 遅いって、そういう意味ね。


 俺は2人にジュースを渡す。

 そして、3人で乾杯をした。


 ちーちゃんがおつまみを机の上に置くと、シロがそれを食べ始める。


 お前、まだ食うのかよ……


「料理、おいしかったね」

「だねー!」


 お姉ちゃんがとびっきりの笑顔で言うので、俺もつられる。


「誰、あんた?」

「あん!? どういう意味だ!?」


 俺はちーちゃんを睨んだ。


「いつも生意気な顔してるあんたがまぶしい笑顔だったから、つい……」


 生意気……

 ちーちゃんに言われたくないわ!


「いつも仏頂面のくせに」

「笑おうか?」

「いい」


 キャラを崩すな。


「それよりも俺は手前の布団で良いのか?」


 俺は並んだ布団を見ながら聞く。


「何? あたしの隣が良いの?」

「いや、お姉ちゃんの隣が良い」


 ちーちゃんの隣はなんか嫌だ。

 寝ている間に蹴られそう。


「ルミナ君、お姉ちゃんと一緒に寝る?」

「………………」


 お姉ちゃんの言葉を聞いたちーちゃんが下を向いた。


「いや、子供じゃないんだから」


 俺ら高校生だよ?


「……良かった。姉弟っぽい」


 ちーちゃんが目線を下に向けたまま、つぶやく。


「何か言ったか?」

「別に……」

「お姉ちゃんと一緒に寝たのはいつぐらいだっけ?」


 俺は変な反応をするちーちゃんを放っておき、お姉ちゃんに聞く。


「ルミナ君が家を出ていく前くらいが最後かな。私、悩んだんだよ。私達のせいで、出ていったのかなって」

「そんなわけないじゃん。俺はどうしても東城さんの所に行きたかったんだよ。せっかく家族が増えて嬉しかったのに、家を出たいわけないじゃんか」


 まして、川崎支部のボロ寮なんてゴメンだ。


「そう? 良かった……」


 お姉ちゃんは若干、涙目である。


「お姉ちゃん、今日は一緒に寝ようか。ホノカはいないけど」

「うん……」


 なんか湿っぽくなってしまった。

 ちーちゃんが非常に気まずそうだ。


「ほら、お姉ちゃん、飲も。いっぱい持ってきてるから。ちーちゃんも飲め」

「うん」

「じゃあ、ちょうだい」


 俺達は湿っぽさをなくすために、再度、乾杯をし、会話に花を咲かせながら、夜を楽しんだ。


 そして、お姉ちゃんと久しぶりに一緒に寝ることにした。

 狭いし、暑かったが、お姉ちゃんは嬉しそうだった。





攻略のヒント

 ダンジョン学園東京本部 合宿遠征


 2日目

  7:00 起床

  8:00 朝食

  9:30 自由行動

 17:00 点呼

 19:00 夕食

 21:00 就寝


 ※ダンジョンに行くものは必ず申請を行うこと。


『ダンジョン学園東京本部合宿遠征 旅のしおり』より

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