第041話 後輩共の能力


 マイちんに急かされ、ダンジョンに着いた俺達はお互いの役割を確認することにした。


「役割って、言っても、綺麗に前衛と後衛に分かれてません?」


 アカネちゃんがいきなり話の腰を折ってきた。


「お前ら後衛はな。ジョブを考えたら、俺は後衛だし、シズルは遊撃だ」


 魔女はメイジ系だし、忍者はどう考えてもローグ系だ。


「でも、センパイ達が前衛ですよね?」

「俺は前衛がいいから前衛をやる。シズルもこのメンツでは前衛になる。しかし、本職ではないから、お前らの所にも、モンスターが来るぞ」

「え!? 嫌です!」

「シズルと俺を見ろ。モンスターを止められそうか?」

「…………無理そうですー」


 か弱いコンビなのだ。


「相棒とシズルは完全に攻撃に寄っているからな」


 シロが俺の服の中から出てきた。

 ちなみに、シロの顔通しはしてある。


「だね。っていうか、私とカナタも攻撃寄りで防御はダメだよ」

「まあ、カナタはメイジだしな。カナタ、お前のスキルを見せてくれ」

「はい」




----------------------

名前 斎藤カナタ

レベル5

ジョブ 魔術師

スキル

 ≪火魔法lv2≫

 ≪土魔法lv1≫

 ≪疾走lv1≫

 ≪集中lv2≫

 ≪身体能力向上lv1≫

----------------------



 

 中等部の学生にしては、そこそこ優秀なメイジだ。

 

「まあ、 ≪身体能力向上lv1≫があるだけ、ちーちゃんよりかはマシだな」

「それでも、モンスターと対峙して戦うのは無理ですよ」

「わかっている。レベル5にしては良いと思うぞ」

「ありがとうございます!」


 カナタは元気だねー。


「アカネちゃんは? 槍が使えるヒーラーって、聞いてたけど」

「よくぞ聞いてくれました! これが私のスキルです!」


 シズルがアカネちゃんに聞くと、アカネちゃんは張り切って答えた。


 アカネちゃんも元気だねー。

 しかし、どうして、そんなに自慢気なのだろう?




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名前 柊アカネ

レベル6

ジョブ プリースト

スキル

 ≪身体能力向上lv1≫

 ≪怪力lv1≫

 ≪回復魔法lv2≫

 ≪高速詠唱lv1≫

☆≪逃走lvー≫

----------------------



 

「ヒーラーのくせに、≪怪力≫があるんだね。アカネは前衛でも大丈夫じゃない?」

「そういえば、何で槍を持っているの? アカネちゃん、モンスターが怖いって言ってたし、後衛寄りのスキルを取れば良かったんじゃない?」


 シズルは臆病なアカネちゃんが槍を持っていることに疑問を抱いた。

 

「それは、そこにいる私を指導した美人さんに聞いてください」


 俺か?

 まあ、俺だわな。

 美人だし。


「何で?」


 アカネちゃんはぷんすかと怒り、シズルはそんなアカネちゃんを見て、冷たい目で俺を見てくる。


「こいつを指導した時は、泣きわめいて大変だったんだよ。だから、荒治療として、槍でモンスターを倒させたの。戦闘中にパニックになるヒーラーなんか役に立つか」


 本来なら、ヒーラーは後ろでヒールしてればいい。

 しかし、こいつはそれすらできないポンコツだったのだ。

 

 何故、エクスプローラになったのか、わからんかった。


「可哀想……」

「じゃあ、どうしろと? 今なら≪度胸≫を取らせるが、あの時はマジで頭を悩ませたぞ。何度もエクスプローラに向いてないから辞めろと言ったのに聞きやしねーし」

「そういえば、何でエクスプローラになったの?」

「センパイの妹さんに半ば無理やり誘われたんですー」


 …………ホノカ。

 シクシク…………


「そ、そうなんだ。ルミナ君、泣かないで。お化粧が落ちるよ」

「センパイ、ごめんなさい」

「泣いてねーわ」


 俺が泣くわけねーだろ!

 

「大丈夫かな、このパーティー? あとアカネって、変なレアスキルがあるね」


 ちーちゃんは少々、呆れぎみにアカネちゃんの妙なスキルにツッコむ。

 

「≪逃走≫ですか? これは世界で私しか持っていない超レアスキルです!」

「へー、それはすごいね。期待してないけど、どんなスキルなの?」


 ちーちゃんは本当に期待してなさそうだ。


 まあ、気持ちはわかる。

 だって、逃走だもん。


「ひどい。こんな有用なスキルなのにぃー」


 そう言って、アカネちゃんは俺達にスキルの説明を見せてくる。




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☆≪逃走lv-≫

  自分より強い相手から逃げる時に足が速くなる。

  また、モンスターから気づかれにくくなる。

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「…………」


 アカネちゃんはドヤ顔をしている。

 ちーちゃんは無表情だ。


「な? 小動物だろ?」


 ハムスターアカネちゃん。

 

「これって、パーティー単位? 個人?」

「個人に決まってんだろ。こいつは仲間がピンチになった時に1人で逃げる卑怯者なのだ」


 サイテー。


「ちょ、言い方! パーティーの全滅を避けるための戦略的撤退ですよ!」


 アカネちゃんは慌てて反論した。

 

「良いんじゃない? 保険の意味でも、そういう人が1人くらいは居てもさ」

「あれ? チサト先輩? 私を卑怯者扱いしてません?」

「してない、してない」


 してるぞー。


「ひどい。レアスキルを持っているだけで、評価が落ちた……」


 俺も≪魅了≫を持っているだけで、評価が地に落ちる。

 一緒、一緒。


「神条さん達はどんなスキル構成ですか?」


 カナタって、たまに人を無視するよな。

 さみしがり屋のちーちゃんは人の顔色ばっかり伺っているのに。

 

 本当にちーちゃんの弟か?


 俺はウチと違って、似てない姉弟だなーと思ったが、気にしないことにした。

 

 そして、後輩2人にスキルを見せた。


「神条さんは本当にすごい能力ですよね?」

「ていうか、レベルの割にスキルが多くないですか?」

「ふふふ。だろう、だろう。俺は今の魔女を含めて、3つのレアジョブを経験しているからな」


 暗殺者、グラディエーター、魔女。

 3つのジャンルのレアジョブを経験している。


 あれ? 俺ってもしかして、ちょーすごいんじゃない?

 トップの座が見えてきたな!


「さっきまで泣いてたくせに、もう立ち直ってる」

「切り替え、早いなー」


 嫉妬かな?

 君達も良くやっていますよ。

 ホッホッホ。


 俺はツッコんでくるちーちゃんとシズルに対し、優越感に浸る。


 その後、シズルとちーちゃんのスキルも後輩2人に確認してもらい、パーティーのスキル確認を終えた。


「先輩達はすごいですね。僕も頑張ろう」

「しかし、このパーティー、偏りがすごいですねー」

「タンクがいないのが、痛いね」


 ちーちゃんがこのパーティーの欠点を指摘する。

 

 確かに、このパーティーに足りないのはタンクだ。


「そうだ、アカネちゃんをタンクにしよう!」

「嫌です! やめてください!」


 アカネちゃんは即座に拒否した。


「いくら槍持ちでも無理でしょ。私とルミナ君で何とかするしかないよ」

「仕方ない。まあ、20階層までは何とかなるか」


 20階層までなら俺とシズルの攻撃力があれば対処できる。

 それ以降はモンスターの質と量が上がるので無理だ。


「それまでの間にタンクを探そうよ」

「だね。入ってくれる人がいるかな? あんたらは心当たりない?」


 ちーちゃんは後輩2人に確認する。

 

「ないですねー」

「タンクは不人気だからね」


 後輩2人はそろって首を横に振る。


「そうなの?」


 シズルが疑問に思ったらしく、後輩2人に尋ねる。

 

「まあ、痛いのは嫌ですし」

「貢献度の割には目立ちませんから」


 後輩2人は理由を説明する。

 

「あたしら2年は結構いるけどね」

「私達1年もいますね」


 だろうね。


「リーダー、何でなの?」


 シズルが俺に聞いてくる。


 いやー、俺って、頼りにされてるなー。


「中学生はまだ、ダンジョンにあまり入らないから、現実より理想を見る。誰だって、最初はタンクなんかより魔法を使いたい。高校生になれば、自分の向き、不向きがわかるから職業を変えるよ」


 たいしてダンジョンにも入らない中等部で、パーティーを組むヤツはあまりいない。

 パーティーを組むようになったら自然とタンクも増えるのだ。


「そうなんだ。じゃあ、中等部から探すのは難しいか……」

「中学生にタンクをやらせるのは外聞が悪いし、高等部で探そうよ」


 確かに、ちーちゃんの言う通り、下級生イジメにしか見えんな。


「女子もやめておきます?」

「男はカナタ1人だし、やりづらいかもね」

「僕は気にしないけど……」

「そういえば、カナタ君、ハーレムだねー」


 あれ?

 俺は?


「なあ、シロ。俺、見えてる?」

「見えてるぞ。化粧した金髪女が」


 うーん、もっと、男らしさをアピールしたほうがいいのだろうか?

 っていうか、男らしさって何だろう?


 ……ダメだ、エロいことしか浮かばねー。


「シズルのケツを触ったら怒るかな?」

「お前はバカか? 他に男らしい行動を知らねーの?」

「殴る?」

「相棒、もう何も考えるな。そのままのお前でいろ」


 シロに見捨てられちゃった。


「あいつ、大丈夫?」

「……もうダメかな?」

「あんたが見捨てたら本当にヤバいよ」

「重荷だなー」


 シズルとちーちゃんが俺を見ながらコソコソしている。

 

 まずいな。

 シズルにも見捨てられそう。


「よし! お互いのスキル確認も今後の方針も決まったし、その辺のモンスターでも倒すか!」

「おー!」

「誤魔化した?」

「センパイって、カナタ君を上手に使いますね」

「カナタ、大丈夫かな?」


 このパーティー、大丈夫かな?




 ◆◇◆

 



 俺達は後輩に気を使って、3階層で連携確認を行うことにした。


 3階層に出現するモンスターはゴブリンとビッグラットである。

 こいつらなら、例え、前衛を抜かれたとしても対処できる……と思う。


 …………ちーちゃん、大丈夫だよね?


「今日はここでモンスターを狩る!」

「はい!」


 良い返事だ、我が弟子よ!


「3階層なら連携も何もないんじゃない?」

「甘い! 後ろから魔法が複数飛んでくるんだぞ。俺達前衛は後ろが見えないから結構怖い。ちーちゃん、後輩共を頼むわ」

「了解。いいかい、あんたら。フレンドリーファイアはね…………」


 後輩はちーちゃんに任せておけばいいだろう。

 俺はシズルだ。


「シズル。さっきも言ったが、このメンツだと遊撃のお前にも前衛をしてもらわないといけない」

「それは良いけど、タンクは無理よ」

「わかっている。ビックラットみたいな速いモンスターならお前が突っ込め。ゴブリンみたいな遅いヤツは俺が突っ込む。突っ込まないヤツが援護しよう」

「後衛の魔法は? 」

「基本、ちーちゃんが指示してくれるから指示に従え。それと乱戦になって、フレンドリーファイアになっても後衛を責めるな。これは絶対だ。向こうがミスするように、俺達も敵を後衛に流してしまうこともある。お互い様だと思え。このパーティーは後衛が後輩で、前衛が先輩のパーティーだから責任追及になると、あっという間に瓦解するぞ」


 パーティー崩壊あるあるの1つだ。

 パーティー内に明確な力関係がある場合は特に注意が必要なのだ。


「了解。タンクが必要な理由がよくわかるわ」

「本来なら、俺が防御力を上げるスキル≪鉄壁≫を取るべきなのだろうが、ファイター系のスキルはもう取れない。タンクが見つかるまではこのスタンスでいく」


 怪力を取ったし、今後はメイジ系のスキルを取る予定なのだ。


「私も≪鉄壁≫の必要ポイントが多かったし、適性はないのよね」

「ローグ系はスピード重視だからな。そもそもお前にタンクをやらせるつもりはない。今後のことも話しておくが、お前は慣れたらある程度、自由にやれ」

「いいの?」

「遊撃はそれでいい。遊撃は前衛・後衛の両方をやるオールマイティーだと思え。お前の能力的にそれが一番だ」


 こいつは速いし、投擲もある。

 そして、奥の手の忍法もある。


 指示せず、好きにやらせた方がいいだろう。


「ルミナ君も前衛と後衛の両方をできるんじゃないの?」

「俺は遅いし、そもそも、でっかいハルバードを持ってウロチョロできん。邪魔だ」


 俺は敵に突っ込むためのスキル構成なのだ。

 そのせいで、立花相手に何もできなかったけど。


「わかったわ」

「よし。ちーちゃん、そっちは終わった?」


 俺は前衛の方針を決めたので、ちーちゃんに後衛の状況を聞く。


「こっちも終わった。基本的にあたしが指示を出すから」

「了解。こっちもそれでいい。カナタ、強敵が現れた時の命の優先順位を決めておく。アカネちゃん、ちーちゃん、お前だ。何故だかわかるか?」


 俺はたまには師匠らしいことをすることにした。


「女子だから? 違うか、ヒーラー優先ですか?」

「半分正解だ。本来なら、指示を出し、回復魔法を使えるちーちゃんが最優先になる。しかし、ちーちゃんは雑魚だ」

「言い方」


 ちーちゃんは不満そうだ。

 でも、事実じゃん。


「ちーちゃんが生き残っても、どうせすぐ死ぬ。それならば、前衛もできるヒーラーを残す。アカネちゃんはスキル≪逃走≫で逃げることも可能だから全滅を避けられる。お前はそれを頭の隅に入れておけ。20階層程度では、俺がいるからその危険はないと思うが、ダンジョンを甘く見るな」


 俺、かっこいい。


「わかりました!」

「お前らも覚えておけ。ダンジョンでまず避けるのは全滅だ。誰か1人、生還すればいいんだからな。これが出来ずに全滅するパーティーは毎年必ず出てくる。俺は女のまま、死ぬつもりはないからな」

「わかったわ」

「了解」

「全力で逃げまーす」

「相棒、カッコいいぞ。その感じでいけ」


 ダンジョン内なら経験豊富な俺が光るな。


「よし、ビッグラットとゴブリンでも狩るとしよう。雑魚だし、後輩に任せるか」

「良いんじゃない? 少しずつ、慣らしていこうよ」

「急ぐわけでもないしね」


 いや、急いでるぞ。


「シズルの頭から男の俺が消える前に深層に行くんだよ!」

「そこだけ聞くと、感動ドラマみたいですね」


 アカネちゃんが茶々を入れてくる。

 

 他人事だな、こいつ。


「もしかして、お前ら、本当に男に戻らなくてもいいって、思ってない?」

「僕はどっちでも。神条さんは男だろうが、女だろうがカッコいいですし」

「そっちの方が良いですよ。お姉様」

「あたしはそもそも男のあんたを知らない」

「わ、私は男のルミナ君の方が好きだよ」

「俺っちも男の相棒がいいな。化粧してた時の相棒を見るのは辛かったぜ」


 反対1、棄権2、賛成2。


 実質、アカネちゃん以外は男に戻ってほしいわけだな。


「やはり、サエコにヒーラーを譲ってもらうように頼むか」

「!? 嘘でーす! 私も以前のセンパイがいいでーす。私達って、幼なじみですよね?」

「幼なじみではない。まあ、いいや。行くぞ、お前ら!!」

「おー!!」

「お、おー!」

「はーい」

「はいはい」


 何か揃わないなー。


 チームワークが課題だな。





攻略のヒント 

 ダンジョン内では、死亡すると遺体が残らないため、死亡確認が難しい。

 そのため、ダンジョンから半年以上帰還しなかった場合は死亡扱いになる。

 

『ダンジョン法 死亡認定について』より

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