第3章
第038話 修羅場
私の名前は神条ルミナ。
この春からダンジョン学園東京本部に通っている素敵なレディーですわ。
ダンジョン学園とは、ダンジョンを攻略するためのエクスプローラを育成する養成機関のことですことよ。
私はよく人から美しい、気品があると言われますわ。
当然ですね。
フフッ。
そんな私でもエクスプローラとして、有名になり、将来は美女に囲まれ、酒池肉林を楽しむっていう、ささやかな夢があるのですわ。
引き続き、その夢に向けて頑張ります!
えいえいおー、ですわ!
-弱り目に祟り目-
俺は今ほど、この言葉をなるほどと思うことはない。
どこぞの量産型令嬢のような独白をして、現実逃避をしたくなるほどに”祟り目”だからだ。
俺はエクスプローラだ。
それも若くしてCランクとなり、将来を有望される天才エクスプローラである。
そんな俺は、数ヶ月前に色々あって女になった。
これについては、ダンジョンの深層にあるアイテムを取りにいけばいいだけなのでどうでもいい。
問題はダンジョンの深層に行くために、仲間を集めていることだ。
俺の仲間は働き者のエロ女ことシズルと神算鬼謀の軍師シロであった。
それに加え、この前、捨てられた子犬のちーちゃん、飼い慣らされた飼い犬のカナタを仲間に加えることに成功した。
俺はこのちーちゃんとカナタ、斎藤姉弟を仲間にするために、数ヶ月前から東京本部を騒がせていた暴行犯を捕まえたのだ。
その暴行犯は強かった。
何せ、俺のレベルは24なのに、相手の立花は53だったのだ。
俺は死も覚悟した。
しかし、この力の差も昔からの知り合いである≪Mr.ジャスティス≫とサエコとの友情パワーで撃破することに成功したのだ。
そんなこんなもあり、無事、暴行事件は終結した。
そして、事件解決の立役者である俺のパーティーに斎藤姉弟も喜んで加わってくれたのだ。
パーティーメンバーも4人になったので、男に戻るためにダンジョンの深層に行こうと思う。
しかし、俺は今、ダンジョンにはいない。
実は俺の仲間になりたいというヤツがもう1人いるのだ。
そいつは女神の生まれ変わりこと、我が姉のパーティーである≪フロンティア≫のメンバーだ。
俺はその≪フロンティア≫のメンバーであるキャラ作りに必死な痛い小動物こと、アカネちゃんを仲間に加えるために、≪フロンティア≫のメンバーを説得する必要があった。
幸い、≪フロンティア≫が所属するクラン≪正義の剣≫のリーダーである≪Mr.ジャスティス≫が話を通してくれたので、≪フロンティア≫のパーティーリーダーは納得してくれたようだ。
しかし、ここで”祟り目”である。
≪フロンティア≫には我が姉の他にも妹も所属しているのだ。
そして、アカネちゃんは妹の幼なじみで親友である。
≪フロンティア≫にアカネちゃんを誘ったのも妹である。
そして…………
「なんでウチを抜けるのよ!? そして、何でお兄ちゃんの所なんかに行くの!?」
修羅場である。
しかし、予想通りの反応が返ってきたな。
◆◇◆
俺は日曜日にアカネちゃんを連れて、実家に帰ってきた。
そして、家の前でたたずんでいる。
理由はもちろん、我が愛しい姉妹にアカネちゃんのことを説明するためである。
「ドキドキします。何か結婚の挨拶みたいですね?」
「寝言は寝て言え。それはシズルを連れていく」
「センパイって、シズル先輩が好きなんですか? もしかして、付き合ってます? キャ!!」
本当にリアクションがうざいな。
少しはカナタを見習え。
「まだ、付き合ってないな。俺、女だし、変な感じになっちゃうだろ? 男に戻ったら付き合う予定」
「……一応、聞きますが、それはシズル先輩に了承を取ってます?」
アカネちゃんが怪しむような目で見てきた。
「了承? …………男に戻ったらな」
「センパイって、この前の最低男と似たり寄ったりですね」
一緒にすんな!
最低男とは、暴行犯の仲間でちーちゃんに執着していたクズである。
ちなみに、警察に捕まり、学園は退学した(当たり前だ)。
「全然違う。シズルもきっと俺の事を好きだろう? 俺がどんだけあいつの為に苦労したと思っているんだ」
「なかなかにひどい発言です……まあ、ぶっちゃけ、シズル先輩はセンパイの事を好きでしょうね。見ててわかります。でも、それにあぐらをかいていると、愛想尽かされますよ?」
「うーん、この前もヤバかったな」
「シズル先輩は優しいですし、しっかりしてますから、ある程度は我慢してくれますが、調子に乗っていると、痛い目を見ると思います」
「ですよね。何かいいアドバイスない? お前、こういうの得意じゃん」
こいつは空気が読め、人に好かれる天才である。
しかも、トラブルを回避するのも上手なスーパー小悪魔ちゃんなのだ。
「言動を治す……は無理だから、態度を治す……も無理だから、えーと、その、あの、とことんひどい男になるのはどうです? シズル先輩はダメンズウォーカーですし」
お前って、結構、毒を吐くんだな。
でも、少し分かる。
あいつって、DVとか似合う。
「お前、ひどいな」
「何を言っているんです! センパイ、想像してください。将来、イケメンの自称パチプロと付き合うシズル先輩を。毎日、お金を渡し、そろそろ働いたら? って言うシズル先輩を殴る男の姿を。でも、私が悪いんだって思うシズル先輩を! それがセンパイが居なくなった後のシズル先輩です!」
お前、ドラマとか見すぎじゃね?
まあ、すごく分かるけど。
「俺にその男になれと?」
「そんな男になりたいですか?」
「なりたくねーわ」
「だったら、シズル先輩にもう少し、優しくしてください」
「はい。分かりました」
気を付けよう。
「長々と話しましたが、行きましょうか。いつかはホノカちゃんとお姉さんに話さなければなりませんし」
「そうだな。現実逃避はこの辺にしておこう」
「「ハァ」」
俺とアカネちゃんはテンションがガクっと落ちたところで我が実家に入る。
そして、場面は先ほどのホノカのセリフに戻る。
「なんでウチを抜けるのよ!? そして、何でお兄ちゃんの所なんかに行くの!?」
「さっき言っただろ。俺が男に戻るためにはアカネちゃんの力が必要なんだよ」
俺は反論する。
「他の人でいいじゃない!?」
「いや、ウチのパーティーは特殊だから、そう簡単にメンバーは見つからないの。まあ、俺が悪いんだけど」
「何でお兄ちゃんの勝手でアカネちゃんを引き抜くのよ! サイテー!!」
ダメだ。
泣きそう……
「ホノカちゃん、落ち着いて。ルミナ君、ちーちゃんとは別に、他の2年生を紹介できるよ?」
お姉ちゃん、優しい!
でもねー……
「ごめん。そのちーちゃんに話を聞いたんだけど、俺って、2年の評判がすこぶる悪いみたい。多分、紹介してもらっても、パーティーに入ってくれないと思う…………」
「………………そうかも」
お姉ちゃんは目を逸らす。
おーい、おねーちゃーん!
「ほら、やっぱり、お兄ちゃんが悪いんじゃん!」
「いや、それは誤解で、俺は悪くない」
「お兄ちゃんって、いつも俺は悪くないって言うよね。はっきり言うけど、お兄ちゃんが悪いよ!」
……泣いていい?
「そ、そんなこと、ないよ」
お姉ちゃんはうつむいてしまった。
おーい、おねーちゃーん!
「あ、あの、センパイは悪く、な、いです……」
アカネちゃんは俺をフォローしようとしたが、ホノカに睨まれ、小さくなっていく。
君達、親友じゃないの?
「とにかく、アカネちゃんはウチのパーティーに入ることになったから! 文句があるのは分かるけど、俺も早く、男に戻りたいんだよ。知ってるか? 俺って、後輩女子からお姉様って呼ばれてるんだぞ!」
この前、協会に行くと、後輩女子にお姉様、こんにちわと言われた。
言った瞬間、俺の仲間は全員、手で目を押さえ、天を仰いだ。
あいつらは知っていたのだ。
そして、周りにいた他のエクスプローラを見たら、全員が笑いをこらえていた。
あいつらも知っていたのだ。
俺はショックのあまり、そのままダンジョンに行かず、家に帰った。
「知ってるよ。別にいいじゃん。お兄ちゃんが無駄にカッコつけるからでしょ」
好感度を上げるために優しくしてただけだよ!
「ルミナ君、知らなかったんだ。結構前から言われてたよ」
は?
「知らなかったのはセンパイだけです」
は?
「何で?」
教えろよ!
「言いにくいです。センパイ、女子になったことを受け入れすぎです。何か触れちゃいけない空気なんですよ」
そういえば、≪Mr.ジャスティス≫もそんなことを言ってたな。
「え? 俺って、そんな感じ?」
俺はショックを受け、お姉ちゃんに確認する。
「うん。ルミナ君って、男に戻る気があるのかわからない」
「ってか、戻らなくてもいいじゃん。そうしたらアカネちゃんも要らないよね?」
要らないって……
お前、言い方が悪いぞ。
アカネちゃんが落ち込んでるじゃん。
「俺は男に戻りたいの! このままだと、≪白百合の王子様≫2号になるだろ!」
「だから、いいじゃん。何か問題あるの?」
「大ありだよ! 俺はアカネちゃんをパーティーに加える。そして、男に戻る。わかったか?」
妹なら兄に従え!
「お兄ちゃんって、いつもそう! 自己中でわがまま!!」
「あん!? お前に言われたくないわ!」
「何よ!? 私が自己中でわがままって言いたいの!?」
「そうだよ!!」
俺とホノカはヒートアップしてきた。
「あの、2人共、落ち着いてください」
「そうだよ。2人共、そんなこと……ないよ……多分」
お姉ちゃん、嫌い!
「ふん! もう勝手にすれば! お兄ちゃんもアカネちゃんも嫌い! お兄ちゃんなんか、大学に行って、新歓コンパでお持ち帰りされちゃえ!!」
ホノカは捨てゼリフを吐き、部屋を出ていってしまった。
嫌いって言われちゃった……
あれ? 前が見えない。
「ルミナ君、言いすぎだよ」
お姉ちゃんが何故か俺を責めてきた。
「俺が? ホノカだろ。新歓コンパでマワされろって、言ってたぞ」
「いや、そこまでは言ってなかったよ。ルミナ君はお兄ちゃんなんだから、あんなに言っちゃダメ」
俺、そんなに言ってたか?
あまり、言ってないような……
「センパイ、ごめんなさい」
アカネちゃんが落ち込んでいる。
「気にするな。あんなヤツ、どうでもいいわ」
「センパイ、じゃあ、泣かないでください……」
泣いてねーわ。
「私からホノカちゃんに言っておくから。ね? 泣かないで」
だから、泣いてねーよ。
「ごめんなさい……」
アカネちゃんは完全に沈んでしまった。
「でも、アカネちゃん、何で急に抜けるなんて言ったの? ルミナ君のパーティーに入るとしても、ちゃんと事前に言えばよかったのに。そしたらホノカちゃんもあんなに怒らなかったよ?」
「え!? それは、そのー、えーと」
言いづらいわ!!
お姉ちゃんのせいだよ!!
「……じ、実は」
「いや、だからね、ウチのパーティーにヒーラーがいないからアカネちゃんを誘ったんだよ」
アカネちゃんが顔面蒼白になっている。
優しい俺はかばうことにした。
「ルミナ君は黙ってて」
「うん」
ほら、アカネちゃん、言え!
「あの、私って、≪フロンティア≫に必要ですか?」
アカネちゃんがおずおずと話し出した。
「え? それはもちろんだよ。アカネちゃんはホノカちゃんの親友でしょ?」
「そうじゃなくて、戦力的な意味です。私の役割は何ですか?」
ひー、気まずい!
帰りたい。
「アカネちゃんはヒーラーでしょ? それに槍も使えるし、戦力になっているわ」
「……私のヒールなんかよりお姉さんのヒールのほうが優れてます。そして、私の槍もたいしたことないです」
「そ、そんなことないよ」
お姉ちゃんもアカネちゃんの言いたいことを理解し始めている。
帰っていい?
「私はずっと悩んでました。頑張ってきました。でも、どんなに頑張っても、専門の人には勝てません。だったら、必要としてくれる人の所に行きたいです。特殊なジョブが多いセンパイの所なら私でも活躍できます。これは私が決めたことです」
アカネちゃん、カッコいいけど、それはホノカが出ていく前に言って欲しかったな。
『相棒、そういうとこだぞ』
はい、ごめんなさい。
「そっか。じゃあ、私達が止めるのは無理だね。…………ごめんね」
お姉ちゃんはそう言うと、部屋から出ていってしまった。
ああ、お姉ちゃんが……
「ごめんなさい」
アカネちゃんが謝ってきた。
「いいんだ。こうなるのはわかってた。ハァ……泣きそう」
「いや、だから、とっくの前に泣いてますって」
泣いてないって言ったら泣いてない!
うえーん。
攻略のヒント
エクスプローラを序列するためにランキング制度を採用するという案が出たことがある。
しかし、実力を重視するか、貢献度を重視するかで意見が分かれた。
また、人間をランク付けすることに対する反対もあったため、ランキング制度の採用は却下された。
『週刊エクスプローラ 幻のランキング制度について』
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