第036話 私のレベルは53です
立花の口から驚愕の事実が話された。
「53だと!?」
「バカな!」
「ここで嘘をつく意味はないだろう」
ヤバいじゃん。
『なあシロ、こいつの言っている事ってマジなの?』
『経験値の話か? 本当のことだぜ。というか、お前ら、知らなかったのかよ』
どうやらマジらしい。
逃げたいが、どう見ても、こいつはローグタイプだろう。
サエコはともかく、俺は逃げられないだろうな。
捕まってエロマンガ展開か?
だから、最低男を生かしているのかもしれん。
シズルやちーちゃんを連れてこなくて良かったわ。
「お前たちも高レベルだろう? さぞ良い経験値になってくれるだろうな」
俺は本格的にヤバいと思い、アイテムボックスからハルバードを取り出す。
「チッ! ≪Mr.ジャスティス≫、サエコ。もう生きて捕えるとか、そういう次元じゃない! 殺す気で行くぞ!!」
「だね。手加減したらこっちが死ぬよ」
「仕方がない。やるぞ!!」
俺達は戦闘態勢に入った。
「フフフ、来い!!」
俺は先手必勝と思い、ハルバードを振りかぶり、立花に向かって走りながら振り下ろした。
「死ねぇい!!」
俺の一撃は何の手ごたえもないまま、地面に当たった。
「威力は素晴らしいが、遅いな」
立花は俺の一撃を難なく躱すと、短剣で切りつけてきた。
「ラブリーアロー!!」
俺は接近してきた立花に向けて魔法を放つが、これも躱されてしまった。
速すぎだろ!!
立花はニヤリと笑い、俺の首めがけて短剣を振るう。
ギャー! 死んじゃうー!
しかし、その瞬間にサエコがものすごいスピードで立花に切りかかった。
キンッ!!
サエコの奇襲に近い一撃を立花は短剣で簡単に受け止めた。
「お前はスピードは速いが、威力がないな」
「うるさい!!」
サエコはさらに連続して切りかかるが、すべて短剣で受け止められる。
「くそっ!!」
「避けろ!!」
後ろから≪Mr.ジャスティス≫の声が聞こえたため、俺とサエコは慌てて避ける。
「ジャスティス・ブレイバー!!」
後ろにいた≪Mr.ジャスティス≫は居合抜きのような構えから剣を抜くと、衝撃波が現れ、立花を襲う。
「やったか!?」
だったらいいけどね!
フラグって知ってる?
「さすがは我らのリーダーだな。他の女2人と違って、バランスが良い」
やっぱり躱されてんじゃん!
何がジャスティス・ブレイバーだ!
ダセー名前つけやがって!!
「こいつ強いよ」
サエコがわかりきっていることを言った。
「そんなもんわかってるわ! サエコ、何とかしろ。俺の攻撃じゃ当たる気がしない」
「私だって、本気でやってるけど、完全にあしらわれている」
多少のレベル差があっても互角以上に戦える自負はあるが、さすがにダブルスコアはキツい。
「1人1人では到底敵わない。3人同時にいこう」
「それしかないか」
「私が先行する! 行くよ!!」
サエコが立花に突っ込む。
少し遅れて、俺は右から、≪Mr.ジャスティス≫は左から攻撃をする。
サエコが連続して切りかかっているが、それをすべて受け止められている。
俺は立花がサエコの攻撃を短剣で受け、足が止まった瞬間を狙い、ハルバードを振り下ろすが、バックステップで躱された。
さらに、≪Mr.ジャスティス≫が切りかかり、追撃をかけるが、躱されて、逆にカウンターで蹴りをもらってしまう。
「クッ……!」
「どうした? この程度か?」
いやー、無理じゃない?
『おい、シロ。いい方法はないか?』
『お前の≪魅了≫で止めるか、≪気合≫で能力を底上げするしか思いつかない』
≪魅了≫は無理だ。
≪魅了≫は目を合わせる必要がある。
こいつはさっきから俺とは目を合わせない。
俺が美人さんだからか?
となると、残るは≪気合≫である。
おそらく、青の化身を使っても、大して変わらないだろう。
ならば、赤の化身か灰の化身となる。
しかし、この2つは使ってダメだったらマズい。
どうしよう?
「なんか手はないの? 地力に差がありすぎる」
「捨て身で行くか?」
サエコも≪Mr.ジャスティス≫もいい案が浮かばないようだ。
「サエコ、お前は逃げろ」
「は? 何でさ!?」
「はっきり言って、勝ち目はほとんどない。誰か1人が生き残って帰還すれば、全滅は避けられる。この中で唯一逃げきれそうなのはお前だ。俺と≪Mr.ジャスティス≫では簡単に追いつかれる」
「それをさせると思うか?」
俺達の作戦を聞いていた立花が笑いながら言う。
かっこつけんな!
陰気くせーから何を言ってもキモいんだよ!
「できると思っているから言ってんだよ! ハアァー!! ハッ!!」
俺は≪気合≫のスキルを使う。
俺の体から赤いオーラみたいなものが出て、すぐに消える。
赤の化身で戦える時間は5分間である。
5分でダメだったら動けなくなり、マジでエロマンガ展開だ。
「≪Mr.ジャスティス≫、行くぞ!!」
「ああ! サエコさんは行ってくれ! 僕達だって、まだ死にたくない」
「くそっ! わかったよ!!」
サエコは苦々しい表情で走っていった。
俺はそれを確認すると、ハルバードを仕舞い、アイテムボックスから赤い短剣を取り出した。
これは昔、≪暗殺者≫だった頃に使っていた≪血塗られた短剣≫である。
俺は立花相手にはハルバードでは分が悪いと判断し、スピード重視の短剣で挑むことにしたのだ。
俺は≪隠密≫を使い、存在感を薄くした。
そして一気にダッシュで接近し、短剣で切り付ける。
「くっ!」
俺の短剣は間一髪のところで受け止められた。
完璧に視認されているため、≪隠密≫の効果は低いが、フェイントぐらいにはなったようだ。
そこから連続して切りつけるが、さすがに向こうも対処しだした。
そのスキを狙って、≪Mr.ジャスティス≫も切りかかる。
「うっとおしいな! ファイヤストーム!!」
立花が距離を取り、こちらに手を向けると、炎が一面に広がって俺達を襲う。
無詠唱かよ!
俺だけのチートじゃないの!?
「ルミナ君、下がって! ルーンシールド!!」
≪Mr.ジャスティス≫は俺の前に立ち、ファイヤストームから俺を守ってくれる。
どうやら≪Mr.ジャスティス≫のスキルのようだ。
なんて良いヤツなんだ。
そのまま耐えて、俺が逃げる時間を稼いでくれ。
「クッ! キツい!」
……ダメそうだ。
役に立たないヤツだな。
俺のビューティフルな顔に火傷がついたらどうするんだ?
『相棒、立花はファイヤストームのせいで、こっちが見えていない。今のうちにパンプキンボムを立花に投げろ』
『ファイヤストームに当たって爆発するだろ。いくら≪Mr.ジャスティス≫でも死ぬんじゃねーの?』
さすがにかわいそうだろ。
それで立花を仕留めれるならやるけど。
『大丈夫だ。パンプキンボムは完全な時限式爆弾だから他の影響を受けない。ファイヤストームもスルーできるぞ』
マジで?
めっちゃ便利じゃん。
よーし、立花を爆発させてやろう。
驚くぞー。
うひひ。
(パンプキンボーム!)
俺はこっそりパンプキンボムを取り出し、時間を見計らう。
よーし、今だ!
食らえ~。
俺は頑張っている≪Mr.ジャスティス≫の後ろからパンプキンボムを立花がいるであろう方向に向かって投げた。
すると、俺のカボチャ爆弾はファイヤストームをすり抜けて見えなくなった。
「ん? なんだ? ……こ、これは!」
どうやら俺が投げたパンプキンボムは立花の元に届いたようだ。
そして、ヤツの声と共にドッカーンと爆発音が聞こえてきた。
ざまぁ。
爆発音が聞こえると同時に、ファイヤストームも霧散した。
「ルミナ君、何したんだ?」
「パンプキンボムを投げた。あいつ、まともに食らったぞ。死んだかな?」
頑張っていた≪Mr.ジャスティス≫はあちこち火傷しているようだが、大きな怪我はないようだ。
次第に爆発による煙が取れてきたため、俺はワクワクしながら立花を確認する。
「クソが!! よくもやったな!!」
残念ながら立花は生きていた。
しかし、パンプキンボムをまともに食らったため、右腕が失くなり、片目の状態だ。
さらに全身が火傷で黒ずみ、立っているのが不思議なくらいだ。
恐るべきパンプキンボム!
「終わりだな、立花。その状態で俺達に勝てると思うか?」
「もう無理だろう。降参しろ」
優しい俺達は立花に降伏を促す。
「降参? バカを言うな。俺が何人殺してきたと思っている。俺は捕まれば、どのみち死刑だろう。お前らを殺して逃げてみせる」
そう言うと思ったわ。
よし、優しい俺がトドメを刺してやろう。
「じゃあ、死ね!」
俺はろくに動けない立花の顔面に必殺の飛び蹴りをぶちかました。
「グハッ!」
立花は俺の飛び蹴りを食らって仰向けに倒れた。
「はぁはぁ……クソ!」
まだ生きているよ。
しつこいヤツだ。
「≪Mr.ジャスティス≫、お前が殺るか? 経験値になるらしいぞ」
「は? いや、このまま捕まえよう」
どのみち死刑らしいから経験値にしてしまえば良いと思うが……
まあ、こいつと同類にはなりたくないわな。
「俺を捕まえるだと? そうか、俺を経験値にするつもりだな!」
何言ってんの?
狂った?
「させないぞ! 俺の経験値は俺だけの物だー! アハハ!!」
完全に狂ってるわ……
「立花、何を言っている?」
「ハハハ……これで終わりだ!」
立花は狂ったように笑っていたと思ったらアイテムボックスからナイフを取り出した。
まだやる気か?
無理だってのに。
「無駄な抵抗はやめろ!」
「ハハハ、嫌だね!! グッ! …………ッ」
立花は取り出したナイフを自分の喉に突き刺した。
そして、動かなくなり、煙となって消えてしまった。
「自害したか」
「捕まっても死刑だと思ったのか?」
「狂ってるようにしか見えなかったな。俺のことをゲーム感覚のエンジョイ勢って言ってたが、こいつのほうがレベルや経験値に固執するゲーム感覚のエンジョイ勢だったな」
「なんというか、納得できない幕切れだね」
確かに、スッキリはしないな。
「ふう。まあ、いいだろ。お前はそこで怯えている最低男を捕まえてくれ。俺はもう動けない」
俺はそう言って、その場に座り込んだ。
「わかった」
≪Mr.ジャスティス≫は最低男を捕まえに行った。
俺は赤の化身の効果時間を過ぎたため、全身に激痛が走っている。
「く、来るな。お、俺は何もしていない」
遠くで最低男が見苦しいことを言っている。
誤魔化せると思っているのか?
「や、やめ、グッ……」
ん?
死んだか?
まあ、どうでもいいか……
見るのも億劫なので、その場でジッと待っていると、≪Mr.ジャスティス≫が戻ってきた。
「何した?」
「うるさいから気絶させた。正直、もう疲れたよ」
「だろうな」
俺の隣に≪Mr.ジャスティス≫が座り込んだ。
「これからどうする? 戻れそうか?」
「ちょっと無理。スキル≪気合≫は反動が大きいんだ。サエコが戻ったし、待っていれば、応援が来るだろ」
「しかし、大変なことになったね。人間を殺してレベルアップなんて」
「だな。おそらくだが、日本以外では知られていることだろう。日本は治安が良いからな」
治安の悪い海外ならエクスプローラ同士の争いも多そうだ。
「これからどうするんだろうな?」
「知らね。大変なのは協会や政府の連中だろ。本部長がハゲないといいな」
マイちんは大丈夫かな?
最近、忙しそうだし、ストレスが溜まってそうだ。
「ルミナ君、ウチに来ないか?」
≪Mr.ジャスティス≫から意外なお誘いがきた。
ウチ? 家?
こいつ動けない俺をお待ち帰りするつもりか!
フッ、俺もモテモテになったものだな。
さては、この童貞野郎、俺に惚れたな?
攻略のヒント
技には≪剣士≫が使う≪スラッシュ≫や≪格闘家≫が使う≪オーラナックル≫などがある。
しかし、何故か、日本のエクスプローラはその技名を使わず、独自に名前をつけて使っている。
そして、その謎の文化はアメリカやヨーロッパ、中国などにも輸出され、今では世界中のエクスプローラが独自の技名を使っている。
『ニューヨーク新聞 とある記事』より
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