第035話 PKの真実


 ついに11階層に到着した俺達は、立花達を探す。


 いないなー。

 俺の≪索敵≫は範囲が狭いからな。


「見つけた!」

「確かかい?」

「ああ、ここから200mくらい先だ」


 どうやら≪Mr.ジャスティス≫が立花達を発見したようだ。


「ルミナ君、君は≪隠密≫を使って、裏に回ってくれ。僕達は正面から行く」


 俺達は地図で地形を確認しつつ、作戦を決める。


「了解。先に行く。お前らは10分後に突入してくれ」

「わかった」

「頼むぞ」


 

 俺は≪Mr.ジャスティス≫とサエコと別れ、別ルートから立花達の裏に回る。

 

 幸いにも、道中でモンスターに遭遇することもなく、立花達の後ろに回れた。


 

「11階層ともなると、モンスターも強くなりますね」

「まあな。10階層までは所詮、チュートリアルだ。ここから先が本当の意味でダンジョン攻略になる」

「まあ、安心しろ。俺達がついてる。それにカナタ君もセンスがあるよ」

「本当ですか!? ありがとうございます」


 どうやら、カナタは無事のようだ。

 しかし、相変わらずノンキなヤツだな。


 人数はカナタを入れて6人か……。

 もし、俺の予測が当たっていれば、7人目が≪陽炎のマント≫で隠れているはずだ。


 俺はこっそり≪索敵≫を使う。


 いた!

 カナタのすぐ近くにいる。

 ということは、こいつらが暴行犯一味で確定でいいだろう。


 しかし、立花はともかく、他のヤツらはそんなに強そうには見えないな。

 俺1人でも何とかなりそうだわ。


『油断すんなよ』


 はいはい、わかってますよ。

 俺はここで待機してますって。


 俺は≪Mr.ジャスティス≫とサエコが来るのをジッと待つことにした。


「待て! 誰かいるぞ!?」

「何!? どこだ!?」


 え!? バレた!?

 マジで?

 どうしよう?

 もう突っ込んじゃう?


「立花、僕だよ」

「≪Mr.ジャスティス≫……」

「木田さんでしたか……」


 ≪Mr.ジャスティス≫、ナイスタイミングだ!


 ≪Mr.ジャスティス≫の登場で緊張した空気が緩む。

 しかし、≪陽炎のマント≫で隠れている7人目がカナタの後ろに回ったのを俺は見逃さない。


「木田さんは巡回ですか? そちらは≪ヴァルキリーズ≫のリーダーの村松さんですよね?」


 白々しく話しかける立花。


 立花は≪Mr.ジャスティス≫に話しかけると同時に、背に回した手で他のメンバーに合図を送っていた。


 後ろから見てると、バレバレである。


「ああ、暴行犯を追っている。君達は見てないか?」


 ≪Mr.ジャスティス≫も白々しい。

 何か笑っちゃいそう。


「いえ、見てませんね」

「そうか……ところで、そっちの君は学生か? どうしてこんな所にいる? 危ないから帰りなさい」

「え? あ、すみません。10階層以降がどんな所か知りたくて、連れてきてもらったんです。マズかったですか?」


 お前が言い出したのかよ……

 本当に大丈夫か、こいつ?


「君も暴行犯のことは知っているだろう? 危ないから帰りなさい。サエコさん、この子を連れて、帰還してくれ。僕は立花達と暴行犯を探すよ」

「いや、木田さん、俺らが連れてきてしまったんです。俺らが送って行きますよ。お二人は捜索を続けてください」


 ≪Mr.ジャスティス≫と立花の間で一気に空気が張り詰める。


 ここだな。

 もうこの場にいる全員が状況を分かっている。

 カナタはポカンとしているが……


 俺はゆっくりとカナタのそばに近づいた。

 それと同時に、≪Mr.ジャスティス≫が立花に近づく。


「動くな!!」


 立花が怒鳴る。


「どうした立花? いきなり怒鳴って。僕は一応、君の上司に当たるんだが」

「フン! 白々しいお芝居は終わりだ。どうやらバレたようだな。じゃなきゃ、お前ら2人がそろって、ここに来るわけないからな。おい!」


 立花が近くにいる仲間に指示を出すと、別の仲間が剣を抜き、カナタを人質に取る。


「無駄な抵抗はやめろ。もう協会にもバレている。ここで逃げても、すぐに捕まるぞ。カナタ君を放せ!」

「え? え? 何ですかこれ?」


 カナタは未だに気づいていない。

 本当にニブいヤツだな。


「カナタ君、そいつらが暴行犯だ。君は騙されていたんだよ」


 ≪Mr.ジャスティス≫が状況を説明した。

 

「え?」

「騙すはひどいな。ダンジョンに行きたいって言ったのはこいつの方だぜ」

「騙しているだろう。君は6年前のPK犯だね?」

「…………どうやって調べた? そのことを知るのは本当にごくわずかなはずだ」


 余裕綽々だった立花の表情に緊張が走った。

 

「君を知っている人物がいただけだ。さあ、観念してカナタ君を放せ!」

「くそ! お前ら、絶対に放すなよ!」


 立花は焦っている。


 よーし、ここだな。


 せーい♪


「がっ!」


 俺はカナタを人質に取っているバカを後ろから蹴り飛ばす。

 バカは前のめりに突っ伏し、変な格好で気絶した。


「な!? 誰だ!?」

「魔女っ娘ルミナちゃん見参! さあ、カナタ、この帰還の結晶を使え!」


 俺はすぐにカナタに帰還の結晶を渡した。

 

「え? 神条さん? どうしてここに? 魔女っ娘ルミナちゃんって何です?」


 どうでもいいわ!

 こんなところでボケをかますな!!


『ボケをかましたのはお前だ』


 うっせー!


「いいからこの帰還の結晶を使え!」

「はぁ? どうやって使うんです?」

「帰りたいと念じるだけだよ! はよ使え!」

「させるかー!」


 俺達がノロノロとしていると、近くにいた2人の男が俺達に向かってくる。


 チッ! うぜぇな。


「死ね!!」


 2人は左右から同時に、俺に襲いかかってくる。

 

 右の男は斧を振りかぶり、左の男はショートソードで袈裟切りをしてくる。


 俺はカナタがいるため、躱せないと判断し、右から来る斧男の方のみを対処することにした。


 右の斧男は振りかぶった斧を俺の脳天めがけて振り下ろしてくる。

 俺はこれを両手で抑えることにした。


「秘儀!! 真剣白刃取り!」


 勢いよく振り下ろされた斧だが、俺がタイミング良く手を合わせると手の中に斧が収まった。

 

 やった! 成功したぞ。

 さすが俺!


 俺は斧を白刃取りできたことに喜んでいたが、直後、腹部に鈍い痛みが襲ってきた。


 あ、忘れてた。


「痛ったー!」

「神条さん!!」


 カナタがすぐそばで叫ぶ。

 俺は俺を切った男の方を見た。

 男はニヤついている。


 ちょー痛いんですけどー。

 ちょっと男子ー、女子にはやさしくが基本でしょー。


 俺はとりあえず、ムカつく男を無視し、目の前の斧男をどうにかすることにした。


「テンプテーション!」


 俺は目の前の斧男に≪魅了≫をかける。

 すると、斧男は目がうつろになり、俺が両手で抑えている斧から力が抜けていく。


「必殺!! ムーンサルト!!」


 俺はうつろになった男に後方宙返りをしながら俺の綺麗な足で男のあごを蹴り抜いた。


「————っ!!」


 男は声も出せず、後ろにのけ反る。


 俺は追撃のため、飛び上がり、男の顔面に俺のかわいい膝小僧を直撃させる。

 そして、そのまま体重をかけて、男の頭を地面に叩きつけた。


 俺のかわいい膝と地面にサンドイッチになった男は鼻血を噴き出し、気絶した。


 うわっ! 汚ねっ!!

 ってか、生きてる?


 俺はまあいいか、と思い、さっき、俺のセクシーなお腹を切ったゴミの方を向く。


 俺がゴミを見ると、ゴミは先ほどまでのニヤついた顔は消え、怯えの表情を浮かべる。


 俺はまたもやテンプテーションを使うことにした。


「おい! そいつの目を見るな!! 魅了されるぞ!!」


 立花は俺の≪魅了≫を知っているらしく、怯えている男に指示を出す。

 すると、ゴミは慌てて目を閉じた。


 こいつ、バカ?

 目の前に敵がいるのに目を閉じちゃったよ。


 俺はゴミ改めバカに向かって、左足を踏み込み、バカの顔面に俺の可憐な拳を叩き込んだ。


「ゴハッ!!」


 俺に殴られたバカは数メートルほど吹き飛び、気絶した。


「ざまーみろ! 俺様に勝とうなんざ100年早えーんだよ」


 フハハ。

 我、最強なり!


『相棒、姿を消しているヤツを忘れるなよ』


 おーっと、そうだった!

 どこだ?

 ……ん?


 俺は≪索敵≫で隠れているヤツを探すと、俺が来た通路にコソコソと逃げようとしてるのを発見した。


「パーンプキン、ボーム!」


 俺は≪メルヘンマジック≫のパンプキンボムを取り出すと、俺が来た通路に向かって投げた。


 パンプキンボムは逃げようとしている男の上空を飛んでいき、通路の奥に消えていった。


 そして、ドッカーンと爆発音が聞こえてくると、隠れていた男は姿を現し、転げまわっている。


「ひ、ひぃッ……!」


 男は悲鳴をあげながら、俺の足元に転げまわり、俺の綺麗な足に抱き着いてきた。


 情けねー。

 どうでもいいが、お前、俺の足に触わるなよ。

 金、取るぞ。


 男は少し、落ち着いたのか、ハッと気づいたように、ゆっくりと俺の顔を見上げる。


「ひぃッ!」


 傷つくわー。

 セクハラしたうえに、その反応はないわー。

 有罪だわー。

 死刑だわー。


「いつまで触ってんだよ!!」


 俺は痴漢野郎のみぞおちを蹴りこんだ。


「グっ……おぇ、……ぉ゛え…」


 みぞおちに蹴りを食らった痴漢野郎は息も出来ずに悶絶している。


 これで、4人仕留めたぞ。

 間違いなく、俺が一番功績があるな!


「よし、カナタ、帰還の結晶を使え…………あれ?」


『カナタならとっくの前に帰還したぞ』


 いつのまに……

 あいつ、俺の雄姿を見ずに帰ったのかよ。

 まあ、いいか。


 俺は当初の作戦を思い出し、後衛をやるために、≪Mr.ジャスティス≫とサエコの後ろに行く。


「よし! 作戦通り、カナタを救出したぞ。あとは残っているこいつらだ」

「どこが作戦通りだよ! アホ! カナタを無視して暴れてただけじゃねーか!!」

「まあまあ、おかげで3対3に持ち込めたんだからいいじゃないか。ルミナ君、お腹の傷は大丈夫かい?」


 まったく、短気な女だよ。

 それに比べて、≪Mr.ジャスティス≫の優しいこと。


「問題ねーよ」

「よし! 立花、もう終わりだ! 降参しろ」

「た、立花さん」

「どうしましょう? ≪Mr.ジャスティス≫に≪戦姫≫、それに、あいつは≪陥陣営≫ですよ!? かないっこないです」


 立花の取り巻き2人は完全に戦意喪失している。

 ちなみに、≪戦姫≫はサエコの二つ名である。


「そうか……。俺のことを喋ったのはお前だな、≪陥陣営≫」

「久しぶりでいいのか? お前の陰気臭い顔を覚えていただけだ」

「まさか、話したこともないお前に感づかれるとはな……やはり、東京本部に来たのは間違いだったようだ」


 立花はニヒルに笑っている。

 陰気臭いから気持ち悪いな。


「何故、女性を狙った!?」


 ≪Mr.ジャスティス≫が立花を問い詰める。


「俺は別に女を狙ったわけではない。そこで悶絶しているガキが女が良いっていうから狙っただけだ。別に俺は誰でもかまわないよ」


 立花は俺がみぞおちを蹴った痴漢野郎を見ながら言った。


 そういえば、この痴漢野郎、若いな。

 学生か?


「その男は誰だ? 学生か?」

「らしいぞ。協会の加藤からの推薦だ。学生の情報を得るのに便利だから使ったんだが、弱すぎるな」

「協会だけでなく、学生にもスパイがいたのか……」


 そりゃ、捕まらないわけだ。


「まあ、この際だ。色々と話してやろう。俺はそこにいる金髪(俺か?)と同じく6年前にPKをしていたんだ。その時から協会の加藤とは知り合いさ。加藤はゲスな男でな。俺と一緒にダンジョンに潜り、俺がPKをする相手を好きにしていたんだよ。取り締まりの動きを教えてくれたのも加藤だ。俺はほとぼりが冷めるまで博多に避難してたってわけさ」


 加藤、悪いヤツ!


「ふーん。そこの学生は? その加藤ってヤツの知り合いか?」

「俺も詳しくは知らないが、親戚とか言ってたな。まあ、面倒くさいヤツだったわ。あの女が良いだ、こいつは嫌だと、わがままでな。切り捨てたいんだが、加藤の紹介だし、そういうわけにもいかなかった」


 この学生、悪いヤツ!

 ってか、ちーちゃんを狙ったのって……


「ちなみに聞くが、そいつ、高等部2年の一般職のメイジだったりする?」

「そうだが、知り合いか?」


 うわぁ……

 ちーちゃんにフラれた最低男じゃん。


「俺がパーティーに勧誘している女子に執着してたキモ男だわ。ちなみに、カナタのお姉さん」

「チッ! どうりで何回もあのガキをダンジョンに連れて行こうって言うわけだ……じゃあ、何か? このバカのせいで俺はバレたのかよ」

「まあ、そうなる」


 俺がこいつに気づいたのはちーちゃんつながりだ。

 最低男がそこまで執着しなかったら、立花もアカネちゃんと写真は撮らなかっただろうし、俺もそこまで暴行犯に関心はなかったはずだ。


「ハァ……とんだ誤算だな……」

「ご愁傷様」


 ププ、ざまあ。


「よくもまあ、そんなことができるな。絶対に許さんぞ! 貴様ら!」


 サエコが怒っている。

 サエコの剣幕に立花の取り巻き2人は完全にビビっている。


 そのリアクションでお前らも女相手に何をしたのかわかるな。


「女をターゲットにすると、お前ら≪ヴァルキリーズ≫が出てくるからやめたほうが良いと忠告したんだがな。こいつらも加藤も嫌がる女の味を知ったら、歯止めがきかなくなってしまった。しかも、そのせいで≪陥陣営≫まで出てきた。俺としてはいい迷惑だよ」

「てめーも同罪だろ! 何、自分は関係ないって空気出してんだよ!!」

「それはすまない。別にそんなつもりもなかったよ。ただ、俺の目的は女ではなかったからどうでも良かったんだ。俺の目的はあくまでもPKだからな」

「テメー!!」


 サエコは立花の安い挑発にのる。

 

「サエコさん、落ち着いて。立花、何故そこまでPKにこだわる?」

「PKをする人間は2種類に分けられる。そこにいる金髪(俺だよな?)のようなエンジョイ勢と俺のようなガチ勢だ」


 俺って、エンジョイ勢なの?

 うえーい。


「どういう意味だ!?」

「当時、PKをしていたヤツの大半はそこにいる金髪(うん、俺だな)のようにネットゲームの延長でPKをしていた。だが、俺は違う。俺はダンジョンのルールを1つ見つけたのだ」


 ルール?


「ルールだと!?」

「その通りだ。最後に俺からも聞いておこう。お前たち、3人だけで俺に勝てるつもりか?」 


 立花はそう言うと、両脇にいる2人の首を短剣で刎ねた。


 え?


 そして、気絶している残り3人にナイフを投げる。


 首を刎ねられた2人とナイフを投げられた3人は煙となって消えた。


「ひぃッー!」


 いつの間にか復活していた最低男が悲鳴を上げる。


「何をしている、立花!?」

「気でも狂ったか!?」


 ≪Mr.ジャスティス≫とサエコは立花の凶行に驚いている。

 そして、立花はこちらをゆっくりと振り向いた。


「別に気は狂っていないよ。さっきも言っただろう? 俺の目的はPKだと」

「仲間を殺しておいて何を言っている?」

「仲間? 別にこいつらは仲間ではないよ。こいつらは俺の経験値さ」


 経験値?


「俺が見つけたルールとは、パーティーを全滅させれば、経験値を得ることができるってことだよ」

「な……!」

「何だと!?」


 マジで?

 すごく嫌な予感がする。


 俺のスキル≪冷静≫が久しぶりに仕事をしだした。


「お前、レベルいくつだよ?」


 俺は24です。

 お前は30くらいかな?

 そうだよね?

 ね?


「くくく。今こいつらを殺したことでまた上がったよ。今は53だ」


 ダブルスコアかよ……


 無理だ、帰ろう。



 あ、帰還の結晶がねーわ。




攻略のヒント

 6年前のPK事件では、多くのエクスプローラを取り締まった。


 取り締まって驚いたのだが、彼らは皆、そこまで罪の意識がなかったのだ。

 彼らはアイテムなどを奪った罪で取り締まられたと思っており、殺人をしているとはまったく思っていなかった。

 罪状を説明すると、皆、焦り、狼狽し始めた。

 しかし、罪は罪である。


 我々は彼らを警察に引き渡そうとしたが、政府からこの事件を隠ぺいするように圧力がかかってしまった。


 これからダンジョン資源を得て、日本を発展させようとしている中で、このスキャンダルは大きすぎたのだ。


 しかし、これでいいのだろうか。


 多くのエクスプローラは反省しており、問題はないだろう。

 しかし、このPK事件は、実は行方不明者を多数、出している。

 つまり、エクスプローラの中に本物の殺人鬼が潜んでいるのだ。


 将来、これが大問題にならないと良いが……


『エクスプローラ協会 東京本部 本部長の日記』より

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