第034話 固い絆で結ばれた3人……嘘だけど


 ≪Mr.ジャスティス≫をリーダーにし、立花一味を確保することに決めた俺達3人はダンジョン1階層にて、確保に向けた確認を行うことにした。


 ≪Mr.ジャスティス≫は銀色の全身鎧に兜、左手には盾を装備し、腰には高そうな剣を装着している。


 サエコは赤い全身鎧に剣を装備している。

 ≪Mr.ジャスティス≫と違うのは兜と盾を装備していないくらいだ。


「なあ、カナタ君を救出したら、私達も帰還したほうが良くないか? 立花達の確保は協会の帰還魔法陣の部屋ですればいいだろ」


 サエコは画期的なアイディアを提案してきた。

 

 なるほど。

 確かに、無駄なリスクを背負わなくても、どうせ、いつかはダンジョンを出ないといけないんだから、出てきた所を皆で袋叩きにすればいいのか。

 こいつも頭を使えるようになったな。


「ダメだ。ダンジョン内には、他のエクスプローラもたくさんいる。下手に追い詰めると、他のエクスプローラが危ない」

「そうだぞ。1つのことだけじゃなく、周りを見ろよ」


 バカだなー。


「なんかムカつくな、お前」

「まあまあ。それよりも作戦を決めておこう。まずはカナタ君の保護を最優先にしよう。さっき、ルミナ君が言っていたように、僕達が注意を惹き付け、≪隠密≫を持っているルミナ君にカナタ君を保護してもらおう」

「神条、お前の≪隠密≫のレベルはいくつだ?」


 サエコはさっきのがムカついているようで、トゲトゲしく聞いてくる。

 

「レベル5だ。これだけあれば、ちょっとやそっとじゃ気づかないだろ」

「なんでそんなに高いんだよ。≪魅了≫といい、お前のスキルはいちいち怪しいな」


 俺批判はやめろ。

 傷つくだろうが。


「もっと怪しいのを見せてやろうか? ≪メルヘンマジック≫のラブリーアローっていうんだけど」

「何だ、その変なの? お前はどういう方向に進んでいるんだ? 東城みたいになりたいんじゃなかったのか?」

「うっせー!」

「頼むから喧嘩はやめてくれよ。お互いのスキルについては、進みながら確認しよう。立花達がいるのは10階層以降だと思うから、6階層のオークを相手にスキルを確認し、確認を終えたらルミナ君は≪隠密≫を使ってくれ」

「はいはい」

「わかりましたよ」


 リーダーぶりやがって。


「よし、6階層までは一気に行こう!」


 意気がってんなー。

 両手に花だからか?


 俺達は調子に乗っている≪Mr.ジャスティス≫を先頭に6階層に向けて走り出した。


 道中、ゴブリンなどのモンスターに遭遇したが、さすがに高ランクのエクスプローラが3人もいるため、何の問題もなかった。


 また、何人かのエクスプローラにすれ違ったため、すぐに帰還するように指示を出した。

 皆、暴行犯に過敏になっているため、素直に従ってくれた。


 そういったこともあったため、俺達は何の苦もなく6階層に到着した。


「よし! お互いのスキルを確認しておこうか」


 ≪Mr.ジャスティス≫はリーダーらしく、音頭を取ってくる。

 

「といっても、お前ら、ジョブは変わってないだろ? 大体わかると思うが」

「いや、今回は敵がソロだから、殺すわけにもいかない。殺傷能力の低いスキルで立花達を確保する必要がある。その辺のすりあわせをしたい」


 確かに、俺のデストロイヤーなんか放ったらマズいわな。


「これだから脳筋は困るよ。お前なんか全身凶器なんだからちょっとは頭を使ってくれ」


 さっきの復讐だよ……

 小っちぇー!

 どうせ、お前も同じことを思ってただろ!


「チッ! で? お前らはどんなスキルを使うんだ?」

「まあまあ。僕はシールドバッシュなどの盾スキルを使おうと思う。剣はあくまでも牽制だけだね」

「私は撹乱要員になるよ。スピードには自信があるからね。お前はどうするんだ? さっき、≪メルヘンマジック≫がどうとか言ってたけど」

「そういえばそうだね。ルミナ君、≪メルヘンマジック≫を見せてくれ」

「わかった。近くにオークがいるからそいつに使うわ」


 俺達は近くにいたオークの所まで行く。

 オークは1匹のみであり、まだ俺達に気づいていない。


 よーし、魔女っ娘ルミナちゃん見参~☆彡


「ラブリーアロー!」


 俺の言葉にオークが気づき、こちらを振り向くが、俺のかわいいハートの魔法の矢が振り向いたオークの頭を吹き飛ばす。


 駆逐完了~☆彡


「…………それは牽制だけで、立花達には使わないでくれ」

「お前はオーバーキルしか出来ないのか?」


 2人は呆れている。

 

「まだ、パンプキンボムがあるぞ」

「…………一応、聞くけど、どんな魔法だい?」

「カボチャの形をしたかわいい爆弾が出てくる。威力は全然かわいくないけど」

「牽制にも使わないでくれ」

「お前、ひどいな」


 まあ、人間相手には使えんわな。


「わかってるよ。ラブリーアローで牽制して、素手で殴るよ。それで十分だろ」

「頼むよ」

「こいつはカナタ君を確保させた後、下がらせよう。じゃあ、≪Mr.ジャスティス≫の盾スキルを見せてくれ」

「よし、任せてくれ」


 俺は≪索敵≫でオークを探す。


「向こうに2匹、見つけたけど、どうする? 1匹潰そうか?」

「いや、僕が2匹共やるよ」


 ≪Mr.ジャスティス≫はそう言うと、盾を構え、俺が指差した方に歩きだした。


 しばらく歩いていると、前方にオーク2匹が見えてきた。

 

 オークは2匹共、こん棒を持っている。

 オークもゴブリンと同様に、こん棒や剣を持っていることもあるが、なかなかレアケースだ。


「オーク共、こっちだ!」


 オークを視認した≪Mr.ジャスティス≫はオークに向けて叫ぶ。


 これは≪Mr.ジャスティス≫のジョブ≪聖騎士≫のスキルであるデコイだ。

 これを使われると、相手を敵視するようになる。


 ある意味、俺の≪魅了≫とは逆の能力である。


 デコイを使われたオークは雄叫びをあげながら≪Mr.ジャスティス≫に突っ込んでくる。


 ≪Mr.ジャスティス≫は盾を構え、深く腰を落とすと、突っ込んでくるオークに狙いを定める。


「食らえ! シールドバッシュ!!」


 ≪Mr.ジャスティス≫は突っ込んでくるオークを迎え撃つように突っ込むと、≪Mr.ジャスティス≫より巨体なオークは吹き飛ばされてしまった。


 それを見ていたもう1匹のオークは怒ったのか、雄叫びをあげながらこん棒を振りかぶり、≪Mr.ジャスティス≫に振り下ろす。


「ふんっ!!」


 ≪Mr.ジャスティス≫はオークのこん棒を盾で受け止めた。


「でやぁ!」


 ≪Mr.ジャスティス≫はオークのこん棒を盾で受け止めたまま、オークの腹に蹴りをぶちこんだ。


「ゴァァ!!」


 ≪Mr.ジャスティス≫の蹴りを受けたオークは変な声を出して、うずくまる。

 

 ≪Mr.ジャスティス≫は腰の剣を抜き、うずくまっているオークを切りつけ、トドメをさした。


「ふぅ。まあ、こんなものかな?」


 おー!

 つえー!


「やるじゃん」

「さすがだなー」


 ウチのパーティーにも、こんなタンクがいると良いんだけどなー。


「ありがとう。これなら相手を殺さずに無力化できるだろう」

「だな。やっぱり第一世代のトップランカーは安定感が違うわ」

「私らみたいに尖ってないしな」

「君達第二世代は防御を疎かにしすぎだからだよ」


 防御? 何それ?

 攻撃される前に倒せばいいんだよ。


『それでズメイに苦戦したんだろ』


 そうでしたね。


「防御なんて私向きじゃないよ。1に攻撃、2に攻撃だね」


 うわぁ……こいつと同類か……

 防御を勉強しようっと。


「能力は高いのにもったいないよ?」

「だから、万年Bランクなんだよなー」

「お前にだけは言われたくない」


 俺もお前にだけは言われたくない。


「まあまあ…………疲れるな、このパーティー。サエコさんも確認しておくか?」

「俺は知ってるからどっちでもいい。どうせスピード頼りのスタイルのままだろ」


 こいつは特殊な技術はほとんどない。

 スピード重視の剣技で相手を圧倒するだけだ。


 ちなみに、こいつのジョブは≪姫騎士≫である。

 ≪姫騎士≫は魔法の適性も高いファイタータイプだ。

 ただ、状態異常にすごく弱い。


 なんかエロいよね。

 エロゲやエロマンガにいそうなヤツである。


 俺の≪魅了≫の餌食だー!


「そうだな。ヒールも使えるけど、基本的にはスピード重視の接近戦が得意だ」

「なるほどね。やはり、先ほど決めたように僕が前衛で、サエコさんには遊撃を頼もう。ルミナ君はカナタ君を救出後、後衛をしてくれ」

「りょーかい」

「任せといて」


 俺とサエコは異論もないので、≪Mr.ジャスティス≫の提案に同意する。

 

「ただ、僕達は急造のパーティーだし、上手く連携が取れるとは思っていない。君達は経験もあるから、ある程度は自分の判断で動いてもらっても構わない」

「それがいいね。こいつとは最後まで上手く行かなかったし」

「お前が勝手に突っ込むからだろ」


 俺も人のことは言えないけど。


「よし! お互いの確認も済んだし、立花達の所に行こう。ここから先はルミナ君は≪隠密≫を使ってくれ」

「はいはい」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫の指示通り、≪隠密≫を使う。


「おー、消えた」

「見事だね」

「いや、あんま注目するな。注目されると、解けるんだよ」


 ≪隠密≫は完全に消えるわけではない。

 良く見たら、わかるのだ。


「悪い、悪い」

「じゃあ、行こうか」


 俺達は再度、10階層に向けて走り出した。


 10階層までは、≪Mr.ジャスティス≫を先頭に置き、モンスターを蹴散らしながら進んでいく。


 ≪Mr.ジャスティス≫がこぼしたモンスターはサエコがあっという間に倒している。


 はっきり言って、俺の出番がない。


 ちょっとアカネちゃんの気持ちがわかった。

 今度からは少し優しくしてやろう。


 そうこうしているうちに、ボス部屋である10階層に到着した。

 以前、シズルと2人で挑んだレッドゴブリンがいるボス部屋である。

 前に来た時と同じく、部屋の中央にレッドゴブリンが座っており、俺達が近づいたら、お供のゴブリンを呼ぶはずだ。


 これまでは何にも貢献していない姫様プレイの俺だが、さすがに大量のゴブリンが出てくるため、俺の出番もあるはずである。


 よーし!


「千剣!!」


 ん?


 俺がやる気に満ちていると、隣のアホ女が剣を掲げ、叫んだ。

 すると、サエコの剣が光りだし、上空に大量の光る剣が現れる。


「てやぁー!!」


 サエコは掲げている剣をレッドゴブリンのいる方に勢いよく振り下ろした。


 サエコが剣を振り下ろすと同時に、上空に浮かんでいた剣はものすごいスピードでレッドゴブリンの方に飛んで行った。


 大量の光る剣はレッドゴブリンに次々と刺さっていき、レッドゴブリンが見えなくなってしまった。

 しばらくすると、大量の光る剣が消える。


 そこにはレッドゴブリンの姿はなく、魔石と宝石のみが残っていた。


「よし、行こう! ん? どうした神条?」

「別に……」


 俺、こいつ嫌いだわー。

 そんなに目立ちたいか?

 お前なんかゴブリンにヤられちまえ。


「拗ねるなよ。かわいくないぞ」

「殺す!」

「まあまあ、ルミナ君も貢献したかったんだよね? でも、ここは急いだほうがいいから仕方がないよ」

「チッ!」

「はぁ……ホントに疲れるな、このパーティー」


 俺はイラつき、≪Mr.ジャスティス≫はため息をついている。


「それにしても、立花達はいないね……これまでの所で見落としはないのか?」

「ねーよ。ちゃんと≪索敵≫で探ってるわ」

「僕も≪探査≫のスキルで探っているが、見落としはないと思う」


 ≪Mr.ジャスティス≫の≪探査≫は俺の≪索敵≫と同様に敵を感知するスキルである。

 ≪索敵≫より、アバウトではあるが、広範囲に感知できる。

 

「となると、やはり、10階層以降か……しかし、学生が10階層以降に行くと言われて素直に行くものか?」


 普通は怪しむだろうな。

 でも、カナタだし。


「カナタは素直な人間で、騙されやすい性格をしている。それに、あいつは強くなりたいと言っていたし……行くだろうな」

「ふーん。じゃあ、やはり10階層以降か。被害が1番多いのは11階層だし、次が怪しいね」

「だろうね。11階層だと思うよ」


 いよいよか。

 よーし! 今度こそ貢献するぞ!


「しかし、気になる事がある」


 ≪Mr.ジャスティス≫が11階層に向けて歩こうとした俺達を止める。

 

「何だい?」

「動機だよ。立花達が女性を狙う理由はわかる。……わかりたくもないけどね。でも、カナタ君は男だろう? 何故、リスクを負ってまで、殺す必要があるんだ?」

「それは確かに……」


 2人が俺を見てくる。

 何で俺を見るんだよ。


「知らねーぞ。殺人鬼どもが何を考えているかなんてわかるかよ。立花達がソッチの趣味でもあるんじゃねーの? もしくは、知られたらいけない事でも知られたんじゃね?」

「うーん、どうかなー?」

「動機なんてどうでもいいだろ。そんなことは警察や協会の仕事だ」


 俺達の仕事はカナタの救出と立花一味を確保することだ。

 動機なんて、どうせくだらないことに決まっている。


「まあ、そうだな」

「あとで考えようか。じゃあ、最終確認をしよう。ルミナ君が≪隠密≫でカナタ君を救出するで良いね?」

「ああ、それでいいぞ。ところで、立花の仲間に心当たりはあるのか? ≪正義の剣≫のメンバーか?」


 ≪正義の剣≫も落ちたものよ。

 ニヤニヤ。


「ダンジョンに入る前に、他のメンバーの所在を確認したが、ウチのメンバーじゃなさそうだ。当然、≪ヴァルキリーズ≫でもないよね?」

「当たり前だろ」


 なんだ違うのか。

 ということは、誰だ?


「じゃあ、敵が誰かわからないのか?」

「誰でもいいだろ。どうせクズ野郎だよ」


 いや、敵の情報は大事だろ。

 サエコはこの暴行事件にイラついているから役に立たんな。


「≪Mr.ジャスティス≫、敵は俺達より人数が多い。俺達より強いってことはないだろうが、油断するなよ」

「ああ、なるべく、早めに互角の人数に持っていこう。2人共、殺すなよ」

「わかっている。大丈夫だ…………多分」

「努力しよう」

「頼むよ……本当に」


 苦労人だなー。




攻略のヒント

 ≪ヴァルキリーズ≫は村松サエコと長谷川ショウコが結成したクランであり、メンバーは女性エクスプローラのみである。

 

 当時、女性エクスプローラの数が少なく、トラブルが多発するも、数が少ない女性エクスプローラは弱い立場であった。

 それに対抗するために結成されたのが≪ヴァルキリーズ≫である。


 現在は、取り締まりも厳しくなっており、そういったトラブルは少ないが、今でも≪ヴァルキリーズ≫はすべての女性エクスプローラの味方である。


『週刊エクスプローラ ≪ヴァルキリーズ≫特集』より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る