第027話 ≪学者≫の能力


 今日は晴れているはずなのに、カミナリが落ちた。

 ビックリだなー。


 俺はマイちんに怒られた後、カミナリが落ちる夢を見ていると思ったら、気付いたらダンジョンにいた。


「あれ? なんでダンジョンにいるんだ? 鬼婆は?」

「シズル、ルミナちゃんが起動したぞ」

「あ、やっと起きました?」


 周囲を観察していたシズルとちーちゃんが俺の近くにやってくる。

 シズルはいつものエロ忍者衣装だ。

 ちーちゃんはさっきまでのパンクスタイルの上にロングコートを羽織っており、手には杖を持っている。


「ルミナ君、覚えていないと思うけど、ここはもうダンジョンだよ。早く防具に着替えてよ」

「…………まあ、いいや」


 俺は嫌なことは忘れることにし、とりあえず、≪空間魔法≫の早着替えを使い、いつもの防具に着替える。


「へー、カッコいい服だね。イケてるじゃん」


 まあ、≪知恵者の服≫はちーちゃんが好きそうな服ではあるな。


「ちーちゃんの防具はそのコートか? 結構いいやつじゃない?」

「ちーちゃん言うな。そうだよ。あたしは近接戦闘がダメだから、念のため、防具はいいものを使っているんだ」


 まあ、≪学者≫だしな。


「そりゃそうか。よし、シロ、出てこい。新しい仲間を紹介してやる」


 俺は服の中で大人しくしていたシロに外に出るように言った。

 

「ねえ。臨時って言ったよね? このまま、あたしを強引に仲間にする既成事実を作ろうとしてない?」

「ニョロニョロ~。おう、お前さんが新しい仲間のちーちゃんこと斎藤チサトだな? 俺っちはシロっていう蛇だ。よろしくな」

「…………そして、周りも空気を読むようにあたしを無視する」


 うるせー!

 ちーちゃんのくせに生意気だぞ!


「チサトさん、蛇がしゃべっているのに驚かないんですね?」

「ん? ああ、噂になってるからね。≪陥陣営≫は蛇を使役する魔王もとい邪悪な魔女になったって」


 勇者登場と言われ、魔王を倒しに冒険するのかと笑われていたハヤト君だったが、魔王は俺だったのか。


「最近、あまり目立たないと思ってたら、影でそんなことを言われてたのか」

「ま、まあ、ハヤト君よりはいいじゃない。ハヤト君はかなり茶化されてるし」


 ハヤト君は≪勇者≫を新規ジョブとして、登録する時、何を思ったか、匿名にしなかった。

 おかげで、エクスプローラや学生だけでなく、週刊誌やテレビでも取り上げられ、一躍、時の人になってしまったのだ。

 

 この前、学園で会った時はちょっと痩せてた。

 思わず、声をかけて励ましてやった。


「確かに、ハヤト君よりはいいか。よし、色々とハプニングがあったが、ダンジョン探索を開始するかね。あ、その前にちーちゃん、≪学者≫ってことは、後衛でいいんだろ?」

「ちーちゃん言うな。そうだね。むしろ、前衛やれって言われても困るよ。さっき、ルミナちゃんは前衛やるってシズルから聞いたけど、大丈夫か? あんた、≪魔女≫だろ。後衛じゃないの?」


 ルミナちゃんって…………多分、ちーちゃんと呼ぶことへの意趣返しだろうな。


「≪魔女≫だが、前衛をやる。元は≪グラディエーター≫だから問題ない」


 俺は胸を張る。

 

「まあ、問題ないならいいけど。シズルのジョブって何? その格好だと、ローグ系?」


 ちーちゃんは今度はシズルに尋ねた。

 

「私は≪忍者≫です。前衛寄りの遊撃をします」

「≪忍者≫!? 前に話題になった≪忍者≫ってシズルのことなんだ。≪魔女≫に≪忍者≫って、あんたら、イロモノパーティーだね」


 今日からちーちゃんもイロモノパーティーの一員だけどね。


「私はまだエクスプローラの経験がそんなにないんですけど、≪学者≫ってどんなスキル構成なんです?」

「ああ、そういえば、シズルは歌手だったね。Rainだっけ? まあ、いいや。探索前にお互いのスキル構成を確認しようか。あたしのスキルはこんな感じだよ」




----------------------

名前 斎藤チサト

レベル10

ジョブ 学者

スキル

 ≪集中lv3≫

 ≪エネミー鑑定lvー≫

 ≪空間魔法lv1≫

 ≪回復魔法lv2≫

 ≪水魔法lv1≫

 ≪風魔法lv1≫

☆≪記憶術lvー≫

----------------------

 ≪集中lv3≫

  魔法の威力が上昇する。

----------------------

 ≪エネミー鑑定lvー≫

  モンスターの種類や特徴がわかるようになる。

----------------------

 ≪回復魔法lv2≫

  回復魔法が使えるようになる。また、状態異常を回復させることも出来る。

  使用可能魔法

  ヒール、クリアヒール

----------------------

 ≪水魔法lv1≫

  水魔法を使えるようになる。

  使用可能魔法

  ウォーター

----------------------

 ≪風魔法lv1≫

  風魔法を使えるようになる。

  使用可能魔法

  ウィンド

----------------------

☆≪記憶術lvー≫

  記憶力がよくなる。

----------------------


 


 完全な後衛だな。

 っていうか、前衛スキルがないどころか、エクスプローラ必須と言われている≪身体能力向上≫すらない。

 

「ちーちゃんは絶対に俺より前に出るなよ」

「ちーちゃん言うな…………ハァ、もういいや。出ないよ。弱いのはあたしが一番わかってるし。あんたらはどんなスキルなの?」


 その後、シズルのスキルも確認してもらうと、やはり忍法に注目された。

 見たいと言われたが、あまり数が使えないことを理由に断ったが、どうしても見たいと、せがまれたため、後で6階層のオークに使って見せることにした。

 


 そして、次に俺のスキルを確認してもらった。


「………………えっと、≪メルヘンマジック≫?」


 ちーちゃんはなんとも言えない表情をしている。

 気持ちはわかる。

 

「魔女っ娘ルミナちゃんなんです」

「俺っちはまじかるルミナちゃんを推す」


 死ね! クソ蛇!

 犯すぞ! エロ女!

 …………ないけど。


「ま、まあ、強そうだし、いいんじゃないかな? かわいいと思うよ……」


 ちーちゃんは頑張ってフォローしようとしている。

 

「ありがとうございます。そんなお前らにはカボチャをプレゼントしてやろう」


 導火線付きのな!


「やめてよ。冗談じゃないの」

「っていうか、最初に言い出したのは相棒じゃねーか」


 うるせー!


「あのさ、ある意味≪メルヘンマジック≫よりインパクトがあるスキルが見えるんだけど、気のせい?」


 ちーちゃんが若干、引きながら聞いてきた。


 あ! 女子に嫌われるパターンのやつだ。


「言っておくが、≪魅了≫は怪しいスキルじゃないぞ」

「最低なスキルよね」


 黙れシズル!

 

「芸能人のシズルが悪名高き≪陥陣営≫のパーティーにいるって、もしかして…………あ! カナタも……」


 ちーちゃんは俺から距離を取りながらブツブツ言っていると思ったら、急に勘違いをしてきた。

 

「ちげーわ!! ≪魅了≫はそんな永続的なスキルじゃねーよ! そんな便利なスキルだったら、仲間集めにこんなに苦労してねーわ! あと、カナタもってなんだよ! なんで俺があんなガキを魅了すんだよ!」

「だって、カナタ、かわいいし」

「だ、大丈夫、私は、り、理解があるから」


 お前って、理解してばっかだな。

 腐ってんのか?


 俺はシズルとちーちゃんの誤解を解くのに、かなりの時間を要することになった。

 


「じゃあ、確認も済んだことだし、行こうか!」

「ですね!」


 俺の必死な説得に納得した2人は誤魔化すように言った。

 

「チッ! とりあえず、6階層に行くぞ。ちーちゃんのレベルも高いし、この辺を探索しても意味ないだろうからな」




 ◆◇◆


 

 

 なんとか誤解を解き、無事、6階層に着いた俺達は、オークを相手に狩りをしている。

 

 これまでに何度が複数のオークと戦闘になったが、シズルと2人だった時とは違い、安定してオークを相手に戦えていた。


「相棒。また、オークが来たぜ」


 俺はシロの言葉を聞いて、スキル≪索敵≫を使う。

 すると、確かにオークが3体ほど、こちらに向かってきていた。


「オークが3体こちらに来る。距離は30メートルだ」

「了解」

「わかった。ルミナちゃんはラブリーアローを放った後、突っ込んで。シズルは撹乱をお願い。あたしが風魔法を使うから」

「はい」

「わかった…………行くぞ! ラブリーアロー!」


 俺はちーちゃんの指示通り、ラブリーアローをオークに放つ。

 俺のラブリーアローは、先頭にいるオークの足を貫くと、オークは悲鳴をあげながら倒れた。

 

 俺は、突然の奇襲でパニックになっているオーク共にハルバードを振り回しながら突っ込むと、1体のオークにハルバードを振り下ろす。

 俺の一撃をまともに食らったオークは煙となって消えた。


 すると、もう1体のオークは我に返り、俺に攻撃しようとしてきた。

 しかし、いつのまにか接近していたシズルがオークの足を短剣で切り裂く。

 オークはシズルを振り払おうとするが、愚鈍なオークでは、シズルを捉えきることはできない。

 

 足へのダメージとシズルを捉えれないオークは、怒りで雄叫びを上げる。


「シズル、下がって! ウィンド!!」

 

 その隙をついて、後ろにいたちーちゃんから風魔法のウィンドが放たれた。

 ウィンドはオークの体に当たり、オークをズタズタに切り裂く。

 オークがダメージのあまり、膝をつくと、そこにシズルが飛びかかり、オークの首をかっ切ったると、オークは一瞬で絶命した。

 

 俺は残り1体になったことを確認すると、最初に俺の魔法を食らい、倒れてもがいているオークに近づき、ハルバードを叩きつける。

 俺の一撃で真っ二つになったオークは煙となって消えた。


「ふぅ。終わったぞ」


 俺が戦闘終了を告げると、2人もふぅと息を吐く。

 

 先ほどから、こんな感じでオークと戦っているのだが、ちーちゃんがその都度、適切に指示を与えてくれる。

 

 俺も状況判断能力に優れていると自負しているが、俺は前衛であるため、全体を見ることができない。

 

 ちーちゃんのように後衛で指示をしてくれると、非常に楽に戦えるのだ。


「いやー、ちーちゃんがいると楽だな」

「だね。チサトさんって、魔法の威力もすごいけど、使うタイミングがすごい上手だよ。こんなに戦いやすいと安心できるね」


 俺とシズルはちーちゃんの有能さを喜ぶ。

 

「だよな。本当にちーちゃん、すげーわ」

「お前ら2人は接近戦ばっかだったから、俺っちはいつもヒヤヒヤしてたんだぜ。チサトがいると安心できるぜ」


 シロも乗ってきた。


 ベタ褒め作戦!

 

「そ、そうかな? でも、あんたらもすごいよ。ルミナちゃんは噂以上だし、シズルはあたしよりレベルが低いとは思えないね」


 俺達がちーちゃんをベタ褒めすると、ちーちゃんはちょっと頬を赤く染め、嬉しそうにしている。


 作戦成功!


「ちーちゃんって、何で、昨日まで固定パーティーを組まなかったの?」


 俺はこんなに優秀なら引く手あまただろうなと思い、聞いてみた。

 

「いや、今も臨時だから」

「チサトさん、私達と正式にパーティーを組みましょうよ」


 シズルがちーちゃんの否定の言葉をかき消すように誘った。

 

「ごめん。色々とあるんだよ。あんたらって、2年生はあたしみたいな野良が多いって知ってる?」

「あ、聞きました。優秀な野良が多いって」

「何か理由があんの?」


 確かに、2年生はパーティーを組んでいる数が少ないのは聞いているが、理由は知らなかった。


「2年はね、レアジョブとそうでないジョブとの実力差が激しいんだ。そのことがあって、2年全体でギクシャクしているんだよ」

「そうなんですか? でも、パーティーを組むのにそういうことって考えます? 足りない部分を補い合うのがパーティーじゃないですか」

「それはあんたらがレアジョブだから言える意見さ。まあ、あたしもレアジョブなんだけどね。例えば、ヒーラーとあたしみたいな≪学者≫が同じパーティーにいるとね、ヒーラーは回復しかできないけど、あたしは攻撃も出来る。すると、貢献度は必然的にあたしが高くなるわけだ。当然、ヒーラーは成果の分配も下がって、面白くないし、貢献できてないことでパーティーに引け目を感じ始めるんだよ。それが積み重なるとパーティーが瓦解するのさ」

「あるあるだな」


 俺はちーちゃんに同意した。

 

「そうなの?」

「ああ。パーティー内の格差問題は昔からよくある話だ」

「だね。2年生はその格差が大きいためにレアジョブの連中は天狗。そうでないジョブは卑屈になっているんだよ。仲が悪いわけじゃないんだけど、パーティーを組むと、なんとも言えない空気になるんだ。それが嫌で野良になってるヤツが多い」


 嫌な学年だな。

 ちーちゃんが野良になるわけだわ。


「それで先生達が私達1年にパーティーの斡旋をしてたんですね」

「いい迷惑だな」


 おかげで、俺達はパーティーメンバーを探すのに苦労しているのだ。

 そもそも、ジョブは持って生まれたものではないし、今後の努力でどうにかなるものなのだ。

 

 俺がエクスプローラになった時はローグ系のレアジョブの≪暗殺者≫だった。

 だが、俺は東城さんみたいなファイターになりたかった。

 俺はファイターになるために体を鍛え、モンスター相手に努力をして、≪グラディエーター≫のジョブを得たのだ。


「悪いね。あたしはそういうのを経験してきたから、固定のパーティーを組みたくないんだ」

「そうだったんですね」


 ちーちゃんは不安なんだろうな。

 妬まれることも足手まといになることも。

 それが怖いから野良をやっているんだろう。


「まあ、今日だけって言ったけど、機会があれば、また誘ってよ。気が向いたら、また組むから」


 ただ、パーティーに入りたいは、入りたいんだろうな。


 


攻略のヒント

 攻撃魔法の基本属性は以下の5種類である。

 

 火魔法

 水魔法

 風魔法

 雷魔法

 土魔法


 メイジ系に適性があるものは、上記の内、最低でも1つ以上の魔法を初期スキルとして習得している。

 その他の属性として確認されているのは、光魔法や氷魔法がある。


『ダンジョン指南書 攻撃魔法の属性について』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る