第018話 試練とか試験という言葉は嫌い
目の前にいるモンスターは、昔見たDVDに出てくる宇宙怪獣に似ていた。
体長こそ、3メートル程度だが、3つ首であり、翼があるが、腕はない。
色は黄金ではなく黒だが、まさしくあの怪獣である。
「ありゃ、ズメイだ。強さは見た目通り。ブレスに気をつけろよ。何しろ口が3つもあるんだから」
「ズメイ? キングギ〇ラでいいじゃねーか!」
俺は出し惜しみをしていい相手ではないと判断し、いきなり奥の手を使うことにした。
「はあぁー!! はっ!!」
俺が文字通り≪気合≫を入れると、俺の体から青いオーラみたいなものが出て、すぐに消える。
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☆≪気合lv-≫
自身の戦闘力を上昇させる技が使えるようになる。
使用可能技
青の化身、赤の化身、灰の化身
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≪青の化身≫
自身のパワーとスピードが10分間上昇する。
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≪赤の化身≫
5分間、自身の力の限界を突破する。ただし、5分後に激痛を伴う。
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≪灰の化身≫
3分間、人の身を越える力を得る。ただし、3分後に必ず死亡する。
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俺が使ったのは青の化身である。
他の2つは時間切れになると、一気にピンチになる。
っていうか、灰の化身に至っては死んでしまう(八門〇甲?)。
「おお! 相棒は≪グラディエーター≫か! いいぞ、≪グラディエーター≫はバリバリの戦闘職だ!」
俺はズメイの巨体を見て、首には武器が届かないと判断した。
まず、足を攻撃しようと思い、走って近づいた。
しかし、ズメイはそれを見ると、俺から見て右首の口からブレスが放たれる。
ブレスは俺に向かってきたが、俺はこれを間一髪で躱した。
「熱ちっ!」
俺はブレスをギリギリで躱したが、高温のブレスは当たらなくても、かなり熱かった。
俺は慌てて距離を取る。
近づけねーじゃん。
「相棒、ブレスを食らってもいいから、近づいて攻撃しろ。ズメイは固いが、相棒の馬鹿力なら通じる!」
白蛇は俺の耳元で助言すると、俺の服に入り、ニョロニョロと背中の方に避難した(だからキモいって)。
えー……
あれを食らうの?
かなり熱かったけど……
俺は嫌々ながら、覚悟を決め、今度は一直線にズメイの足に向かって走り出した。
すると、ズメイは再び高温のブレスを放ってくる。
俺はそれを真正面から受けるが、強化したパワーとスピードの勢いのまま、ズメイに接近すると、ズメイの足にハルバードを叩きつけた。
俺の一撃を受けると、血が噴き出し、ズメイは片膝をついた。
俺はそのチャンスを見逃さず、ズメイの首目掛けて、必殺技を放とうとした。
「くらえ! デスト、げっ!!」
俺が必殺技を放とうとすると、ズメイの3つの口がこちらを向き、3つのブレスが放たれようとしていた。
俺は躱そうと思ったが、躱せないと判断し、構わず、そのまま必殺技を放った。
「くそっ、ロイヤー!!」
俺が必殺技を放つと同時に2つの口からブレスが放たれ、俺を襲う。
そして、なんと、残りの1つの首は、ブレスをやめ、俺の斬撃から他2つの首をかばうように前に出て、俺の斬撃を受けた。
「ぐっ! くそっ!!」
俺はブレスを受けた衝撃で後ろに転がっていく。
熱さや痛みに耐え、立ち上がると、アイテムボックスからレベル2のポーションを出し、飲む。
たちまち、傷や火傷がふさがるが、ダメージはあまり癒えていない。
くそっ! 強い!
まさか首が他の首をかばうとは!
俺はズメイのチームワーク(?)に感心するが、それと同時に、このモンスターの献身と合理性に手ごわさを感じた。
「相棒、大丈夫か? ダメージを受けただろうが、それは向こうも同じだ。見ろ」
俺はいつのまにか出てきた白蛇に言われるがまま、ズメイを見ると、ズメイの右首はズタズタになり、地に落ちていた。
「相棒、もう1回、いけるか? 単純計算で同じことを、あと2回やれば勝てるが」
「無理だ。あと少し時間を稼ぎ、≪自然治癒≫で回復したとしても、あと1回だな。2回目で死ぬ」
「奥の手とかねーの?」
「もう使っている」
俺の奥の手は、青の化身である。
赤の化身や灰の化身を計算に入れても厳しい。
あと1手足りない。
俺はどうしようか、シズルに帰還の結晶を使わせようかと思い、シズルを見て、気づいた。
あと1手、そこにいるじゃん。
「おい、蛇。お前、シズルの所に行って、あいつに、俺が合図したら水遁を使うように伝えてこい」
「水遁? 何だそれ?」
「いいから行け!」
俺は蛇を掴み、シズルの方に投げた。
「おーーーーい!」
蛇は放物線を描くようにシズルの所に飛んでいった。
俺はそれを見ると、ズメイの方を向き、再び対峙する。
俺は対峙したが、時間を稼ぐために構えただけで、近づこうとはしない。
ズメイも俺の斬撃を警戒しているのか、動こうとはしない。
バカが!
俺は回復待ちだぜ。
所詮は畜生だな。
俺は内心、ラッキーと思っていた。
しかし、そんな俺に気づいたのか、ズメイは翼を大きく動かすと、宙に浮き、俺に体当たりしてきた。
ぎゃー!
余計な事を考えるんじゃなかったー!!
俺は慌てて、転がりながら躱すと、ズメイはそのまま高く宙に上がっていった。
飛ぶのはずるいぞ!
降りてこい、卑怯者!!
俺は心の中で罵倒すると、ズメイは宙で止まり、こちらを向くと、ものすごい勢いでこちらに向かって突進してきた。
ぎゃー!
余計な事を考えるんじゃなかったー!!
俺は躱そうと思ったが、このままでは埒が明かないと思い、その場でぐっと力を込めた。
赤の化身、発動!!
俺はスキル≪気合≫を使うと、俺の体から今度は赤いオーラみたいなものが出て、すぐに消える。
ズメイはそのまま、俺に勢いのまま、のしかかってきたが、俺はこれを受け止めた。
ものすごい圧力を感じ、足が地面にめり込んでいくが、俺はさらに強化した肉体を駆使し、ズメイの勢いを止める。
ズメイの勢いが止まると、俺は手でズメイの足を掴み、力の限り、蹴飛ばした。
ズメイはそのまま飛んで行ったが、すぐに空中で翼を動かし、体勢を整えると、ゆっくり地面に降りてきた。
俺はここがチャンスだと思い、ズメイの足が地についたと同時に走り出す。
ズメイは俺を見て、ブレスを放つために、息を吸った。
「シズル!!」
「忍法、水遁の術!!」
ズメイがブレスを放とうとした瞬間、ズメイの頭上から大量の水が降り注いだ。
すると、ズメイのブレスは中断され、水の勢いにより、ズメイの首が下がってきた。
俺はそのスキを見逃さず、ズメイに必殺技を放った。
「死ね! デストロイヤー!!」
俺の5つの斬撃はズメイの体と2つの首を切り刻んでいく。ズメイは体中から血が噴き出し、その巨体は、ドシンと音をたて、ズメイは地に沈んだ。
ざまあみろ! ボケ!!
俺は勝ったと思い、倒れたズメイに背を向け、シズルと白蛇の所に凱旋する。
俺はここで大きなミスを犯していることに気づいていなかった。
モンスターは死ぬと煙となって消える。
初心者でも知っていることだ。
ズメイは煙になっていない!!
「ルミ……! ……!!」
「相……!! ………!!」
二人が何かを叫んでいるのが見えた。
しかし、何も聞こえない。
後ろを見た。
ズメイの中央の首がこちらを睨んでいた。
ズメイの尻尾が……俺の体に突き刺さっていた。
あれ? 痛くないぞ。
確かに、ダメージは受けているし、尻尾が突き刺さっているのはわかる。
しかし、なぜか、体が動かない。
俺は≪グラディエーター≫である。
この程度なら、もちろんダメージは受けるが、動けないまでにはならないはずだ。
俺はこれを知っている。
俺の≪冷静≫が告げてくる。
これは状態異常の1つだ。
マヒ毒だ。
強靭な体とパワーを持つ戦闘職の≪グラディエーター≫にも弱点がある。
≪グラディエーター≫は、状態異常の耐性がないのだ。
俺がいた川崎支部のダイダラ迷宮には状態異常の攻撃をしてくる敵はほとんどいない。
だから、油断した。
俺の唯一の弱点を、俺の油断で、一番受けてはならない時に受けてしまった。
「グ、が、」
俺は地面に倒れるが、動けない。
かろうじて動く指先でポーションを取り出すが、口に持っていくことができずに、落としてしまう。
もう駄目だな、これは。
ズメイは大きく息を吸う。
あ、ブレスだ。
死んだ。
俺は死を覚悟したが、ブレスが来ることはなかった。
ズメイはブレスを俺ではなく、シズルに放っていた。
俺はシズルの叫び声も聞こえなかった。
目線だけを動かして、シズルを見ると、シズルは倒れて、気絶していた。
どうやら装備の性能で一撃死は免れたらしい。
しかし、状況は最悪である。
俺は動けない、シズルは気絶している。
俺の頭の中に全滅という言葉が浮かんだ。
俺のミスだ。
俺がちゃんと、ズメイにとどめを刺していればよかった。
いや、そもそもこの試練に挑んだことが失敗だったのだ。
ズメイはゆっくりとシズルに近づいていく。
マヒで動けない俺など、いつでも殺せる。
それよりも、いつ目を覚ますかわからないシズルを先に殺しに行くのだろう。
本当に合理的なヤツだ。
やめろ、いくな、やめろ、やめろ、やめろ!!
俺は心の中で叫ぶが、無情にもズメイはシズルの元へと一歩、また一歩と、足を引きずりながら歩んでいく。
どうやらズメイは、もう飛ぶことも出来ないようだ。
くそっ! 何てざまだ。
ハァ、もう無理だな。
俺はなんとか打開策を考えるが、スキル≪冷静≫は打つ手なしと言っている。
使えねースキルだな。
いや、使えないのは俺か…………
東城さんだったら、うまくやっただろうな。
俺は完全に諦めモードであった。
『なあ、相棒、助かりたいか?』
ふと声が聞こえてきた。
俺は今、何も聞こえないはずだ。
幻聴か?
幻聴なら役立たずの蛇よりお姉ちゃんが良かったわ!
『いや、幻聴じゃねーよ。俺のスキルでお前の心に話しかけてるんだよ。あと、役立たずは、ひでーよ』
そんなスキルがあるのか。
便利だな。
もっと早く使えよ。
『悪い、久しぶりに人としゃべるのが楽しくてな。そんなことより、助かりたくないのか? このままだと、お前ら、全滅だぜ?』
わかっとるわ!
助かりたいけど、どうしようもねーの!
それともお前がズメイを倒してくれるのか?
『いや、俺っちじゃあ、あんなボロボロのズメイにも勝てねーよ。しかし、相棒は見事だったぜー。本来、この試練は6人パーティーで挑むものだ。たった1人でここまでやるとはすげーわ。まあ、詰めが甘すぎたがな』
知ってる。
俺はすげーんだ。
そして、詰めも甘いんだな、これが。
『そう、自棄になるなよ。助かる方法がある。相棒が立ち上がって、ズメイを倒すんだ。簡単だろ?』
お前、何言ってんの?
それが出来たらさっさとやってるわ!
『相棒はマヒ毒で動けないんだろ? 俺はそのマヒ毒を治す方法を知っている』
ポーションか?
それともお前、回復魔法を使えんの?
『いや、そのどちらでもねーよ。相棒、転職しろ。≪グラディエーター≫は惜しいが、死ぬよりマシだろ。状態異常に耐性がある魔法職に転職するんだ』
俺はメイジ系の適性がねーよ。
ファイター系がメインで、あとはローグ系が少しだ。
『相棒って、見た目通りなんだな。相棒、俺と契約して、俺を使役しろ。そうすれば、スキル≪使役≫が手に入る。≪使役≫があれば、メイジ系の適性を得ることができる』
使役ってなんだ?
お前、俺の奴れ……下ぼ……。
……使い魔にでもなるのか?
『相棒って、ホントにひでーな。奴隷でも下僕でもねーよ。俺はダンジョンに飽きたから、外に行きてーんだ。俺は外に行く、相棒は助かる。win-winじゃねーか。それともここで死ぬか? お前の女を巻き込んで』
俺の女?
……シズルか?
うーん、あいつは俺のだったのか?
そういえば、パーティー組むときに何でも言うこと聞くように言ったな。
あいつ、俺のだわ。
『そういう意味じゃねーよ。相棒ってホントに、ホントにひでーな。じゃあ、早くしろよ』
いや、どうやって使役すんだよ?
『俺を使役したいって念じな。俺はそれを受け入れるから』
ふーん。
よし、この蛇を俺のしもべにして、こき使うぞー!
『…………まあ、いいか。受け入れてやる』
で?
何も起きねーぞ?
『もう終わったよ。早く転職しろよ。指くらいは動かせるだろ』
マジで?
やけにあっさりだな。
もうちょっと何かあるかと思ったが。
俺はかろうじて動く指で、ステータスを開き、転職する。
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あなたの現在のジョブは≪グラディエーター≫です。
転職するジョブを選択してください。
名前 神条ルミナ
選択可能ジョブ
≪剣士≫
≪銃使い≫
≪格闘家≫
≪盗賊≫
☆≪暗殺者≫
≪あらくれもの≫
≪強盗≫
☆≪魔女≫new
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……≪魔女≫?
宅〇便?
ど〇み?
『いやー、相棒のジョブ適性って、ひどいな。どういう人生を歩んだらこんなのになるんだ?』
そんなことより、≪魔女≫って何だ?
『すまん、俺っちは蛇だから、得る適性は≪魔女≫なんだわ』
マジかよ。
強いのかね?
まあ、強そうか。
じゃあ≪魔女≫になるか。
『相棒ってバカ? 強さより気になることね―の?』
ない。
そんなことより、シズルが大事だし、死にたくない。
『まあ、そりゃあ、そうか。じゃあ、なれよ。魔法使いの世界へようこそ』
俺は指を動かし、≪魔女≫へと転職する。
さよなら≪グラディエーター≫。
ところで、俺、男だけど、≪魔女≫なの?
≪魔男≫じゃないの?
攻略のヒント
各ジョブには、特性がある。
ファイター系は、強靭な肉体を持ち、強力な技を覚えるが、魔法の適性はなく、状態異常に弱い。
メイジ、ヒーラー系は、魔法の適性が高く、様々な魔法を覚え、状態異常にも強いが、肉体はジョブを持たない一般人と遜色はない。
ローグ系は肉体も魔法の適性もそこそこであり、便利な技を覚えるが、状態異常に弱い。
その他の特別職にも、特性があるが、完全無欠はいないと思われる。
『ダンジョン指南書 ジョブの適性について』
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