第95話 天空の塔、頂上付近

 天空の塔、その上層。

 本来は多少は苦戦して然るべき、なのだが。


 マステマの黒い火に耐えられる魔物は居ない。

 セピアの魔法であれば耐久力の高い魔物が突破してくることもあるが、ダメージを負っているので火剣で止めを刺すだけで終わる。


 魔法を使う魔物が居て、セピアと魔法合戦をしていたのは中々派手だった。


 ちなみにセピアが勝ったが、魔力が流石に厳しくなったようだ。


 ノエルとアーネラはこの辺りからは流石に戦力にはならないので、後ろに控えさせている。


 天空の塔の仕掛けも手が込んでくるようになってきた。

 例えば透明な壁の迷路が現れた時は、そのまま進めば一日迷う事になっただろう。


 セピアとマステマが火の魔法をまるで糸の様に伸びしながら放つ。

 階段に火が届いたら、届かなかった分の火の魔法を消して辿るだけ。


「壁を壊しちゃダメ?」

「お前の力だと塔まで壊しそうだからな。ダメだ」


 すぐ力に頼ろうとしてはいけない。

 マステマならばそれでも問題ないだろうが、一応力に頼る前にほかの手段も考える様に教えておいた方が良いだろう。


 ついに今いるフロアが雲を突破するほどの高さに到達した。

 太陽がはっきりと見える。


 よほど高い山にでも登らない限りこんな光景は見れないだろう。

 それと引き換えにかなり寒くなってきた。


 火の魔法の応用で寒さを防ぐ。


 魔物の強さがもう一段上がる。

 セピアの得意の魔法でも二度使わねば全滅させられないようになり、流石に俺も戦闘に本格的に参加し始めた。


 マステマの黒い火も、そのまま燃え続けるのでいずれ倒しきれるのだが倒れる前にこっちに辿り着く魔物が現れる。


 マステマは殴られてもビクともしないが、セピアはそういう訳にもいかない。

 衝撃の魔法の応用で結界のようなものは張ってあるらしいが、今現れている魔物はそれを割る位には強い。


 階段を進み、更に階層を上る。

 ペースは鈍化し始めた。むしろここまで落ちなかったのが上出来だ。


 セピアの魔力もかなり消費してしまったし、一度休憩の為に足を止める。


 ……強い魔物は、グルメな食材として知られている。

 ドラゴンステーキなど最たる例だろう。


 皇女様に依頼された竜の群れも、なるべく形を残して欲しいと言われたものだ。

 肉食の動物は食えたものではないが、魔物は不思議とそうではない。


 大きな一本角を生やした四足獣の魔物を食べることにする。


 ちなみにこの魔物は足一本がセピアよりも大きい。

 食べがいがありそうだ。


「丸焼きにしよう」


 マステマが熱心に提案してくる。

 大半はこいつが食べることになるので、それは構わないのだが……。


「大丈夫。火加減は大分覚えたから」


 そう言ってマステマは茨の杖を取り出して、茨の杖に魔物を浮かさせる。

 そのまま焼くつもりだったらしいので、一度止めた。


 丸焼きと言ってもそのまま焼いてはいけない。

 カスガルが熱心に言っていたので未だに覚えているが、最低でも内臓の類は取り出しておく。


 匂いも量も問題があるので、こちらはマステマに完全に灰にしてもらう。


 魔物の腹を空にして、風の魔法で魔物に塩をばら撒く。

 そしてゆっくりと回転させ始めた。


「ちょっと離れて」


 そしてマステマは魔物の周囲に黒い火の壁を展開する。

 黒い火は存在するだけで熱を放出しているので、一気に今いるフロアの温度が上がった。


「暑いな……」


 装備の類を脱ぎ捨てる。

 一応ノエルが熱を防いでくれているのだが、全体の気温が上がっては仕方ない。


 セピアがスカートを仰いで涼を取っていたが、はしたないので止める。

 結局周囲に氷を浮かせることで対処する事になった。


 魔物を包む黒い火の壁を少しずつ狭めていく。

 肉の焼ける音と匂いがし始めた。


 アーネラとノエルが用意した飲み物を飲みながら出来上がるのを待つ。


 セピアが油の焼ける匂いに参ってしまい、ノエルに連れられて窓際に行く。


「気を付けろよ、雲の上には確か……」


 途中で言葉を止めた。

 噂をすればなんとやら、か。


 いつの間にか巨大な怪鳥が塔の周りを旋回していた。

 窓際に近寄ったセピアとノエルに嘴を開いて襲い掛かる。


 青ざめた顔のセピアは、右手を上げて小さく口を動かす。

 そして嘴に向けて火の魔法を放出した。


 嘴の中から火の魔法を食らわされた怪鳥はそのまま体の中を焼き尽くされて地上へと落下していく。


 馬車の上に落ちないと良いのだが。


 結局ヴィクターを召喚して浄化を使うとセピアも元気を取り戻した。


 魔物の丸焼きは外側は焦げてしまったが、中はきちんと焼けている。

 切り分けるのは重労働なので俺がやる。

 しかしふと一つ気になる。


「地獄の火で焼かれたモノを人間が食べても良いのか?」

「うん。というかもう何度か食べてるよ」

「おい……」


 サラッと言うんじゃない。


「平気。ちゃんと火は仕舞ってあるから」


 丸焼きの魔物は美味しく食べた。

 これ、高級食材なんだよな。


 美食専門の冒険者も実は居るし、実入りが良いと聞いている。

 俺はそこまでする気は無いが。


 脱いだ装備を回収しておいた。

 ここで休憩するには肉の匂いが満ちているので、上のフロアに移動すると噴水だけのフロアに出る。


 魔物も居ないし、仕掛けもない。


「休憩エリア、か?」


 噴水に流れている水は魔力がある。

 飲むだけで魔力が回復するだろうな。


 清潔なのは確認できたのでセピアに飲ませつつ、淵に腰を下ろす。

 かなり歩き続けたので流石に足に疲れを感じる。


 終わったらマッサージでもしてもらうか。


「そろそろ頂上だね。話に聞いたことはあったけど、天空の塔は中々楽しいよ」

「それは良かったな」

「うん。やっぱり記憶とか本だけで知った気になるより直接見た方がいいかな」


 セピアとそんな話をしているうちにセピアの魔力が回復した。

 マステマの魔力も全快まで回復したようだ。


 茨の杖まで噴水に漬けている。


 茨が喜んでいるようだから構わんか。







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