第93話 天空の塔、中層へ

 食事を済ませて乾かした服を着る。


 セピアが恥じらっていたのだが、セピアの着替え姿なんぞ不可抗力で何度も見ているし、そもそも対象外だ。


 マステマはそもそも下着のような服を着ていたような奴だ。

 着替えを見られても気にしない。


 奴隷二人はまぁ、俺に見られるのも仕事のようなものだ。

 まぁ迷宮で女を抱くほど馬鹿ではない。


 中層は、先ほどのような水中フロアのような仕掛けのある部屋が混じってくる。

 だが基本的には魔物が徘徊するエリアを登るのは変わらない。


 下層よりも強い魔物が徘徊するので、流石に下級魔法だけでは倒しきれない。

 5人で下級魔法を撃ちこんでもタフな魔物は耐えてくるので、中級魔法に切り替えた。


 マステマはこの辺りで魔法に関しては飽きたので、茨の杖が代わりに魔法を撃っている。


 こうなると下層と同じだ。

 中級魔法は消費が多いとはいえ、ここにいる全員魔力量は多い。


 暫く進むとノエルとアーネラが少し顔色が悪くなる。

 二人は俺達と比較すると魔力量が少ない。


 更に進むと二人の足が止まった。


「申し訳ありません……」

「魔力切れです」


 ノエルとアーネラが謝罪するが、これは不可抗力だ。

 むしろ予想していたよりもペースが速い。


 戦闘時間が無く、正直ほぼ登り続けているだけだ。


「気にするな。少し休むか」

「そうしよう。丁度肉もあるし」


 マステマが俺の言葉に同意する。

 今の階層が丁度猪の群れのエリアで、火の魔法で焼き払ったので肉の焼ける匂いがする。

 その所為でマステマの腹が減ったのだろう。


 マステマが地獄の火を剣に固定して猪を切り分け、完全に血抜きしてからしっかりと火を通し始めた。

 その間、ノエルとアーネラに魔力回復のポーションを渡して休ませる。


 魔力切れが起きると貧血のような症状が起きる。

 そこまでは二人とも消費していないが、魔力が回復してもすぐ動くことは難しい。


 セピアは水筒から水を飲んで涼しい顔をしていた。

 魔力量が少し気になるな。


 マステマは聞くまでもない。

 悪魔としての権能を使わない限りほとんど減らないのだ、こいつは。


 マステマを見ると得意げな顔をした。

 こいつはそもそも種族からして反則だな。


「セピアはどの位魔力が残っているんだ?」

「んー? これ位ならほとんど減らないかな。歩いてる間に回復しちゃう」


 こいつも反則だった。

 ノエルとアーネラは流石にショックを受けている。

 気にするな。お前達はそれを期待して買った訳じゃない。


 マステマがイノシシ肉をパクついている間、塔の中から外を見る。


 既に地上がだいぶ離れている。相当な高さに達していた。

 地上より雲のある場所までの方が近い。


 流石に肉の匂いが凄い。

 腹が減ってきた。


 マステマが焼いた肉を一つ貰う。


「食べて良いよ」

「私も一口欲しい」


 半分に分けた肉を渡すとセピアは一口食べて、気に入ったのかそのまま齧る。

 先ほど魚も食べていたのだが、そういえば成長期か。


 摘まんで食べてみる。

 良く焼けている。


 余れば包もうと思ったが、マステマが食べ切ってしまった。

 食べた端から魔力に変えてしまうので無限に食べられるからな。


 食事からの魔力補給は燃費が悪すぎるが。

 アーネラもこういう時は止めたりはしない。


 休憩を終える。

 とはいえ同じことをするとまた繰り返しになるので、とりあえずセピアに任せてみた。


 するとセピアは範囲魔法で一気に殲滅し始めた。

 相手に合わせて属性も変えられるので、天空の塔の中層に出るような魔物は相手にならない。


 カスガルはなぁ。火に耐性がある魔物も火でごり押してたからな……。

 そう考えるとセピアは非常に優秀だ。


 だがカスガルともし戦わせたらセピアが灰も残らない。

 あれは火の権化そのものだからな。


 マステマが腹ごなしのつもりか、セピアと入れ替わり黒い火で魔物を焼き尽くす。

 そして吐いた後の黒い火を口で吸い込む。


 魔力を回収しているだけだなこれは。


 暫く進んでいると、外壁の無いエリアに到着する。


 高さ故に凄まじい風速だ。

 何も対策してなければ俺でも浮いて飛ばされるほどの。


 スカートを履いている女性陣はまあ、スカートの意味が無い状態だ。


「おー」


 マステマには気持ち良い風のようだ。

 翼を広げて空を飛び始めた。


 階段はここから見えているが、外壁だけではなく床も無い。


 そういう仕掛けのエリアという訳だ。


 確か以前はここで引き返した覚えがある。

 カスガルが火で何とかしようとして慌てて止めたものだ。

 こんな風の中でカスガルの火の魔法なんぞ使えば、下手すると全滅するからな。


 レナティシアも高さで青ざめていたからなぁ。


 ノエルは少し怖がって俺の腕を掴んでいる。

 アーネラは平気なようだ。


 セピアは既に風の魔法の応用で、風をカットしながら空気を固めて足場を作っている。


 奴隷二人はそれを見て真似をした。

 流石に器用だな……。


 風を防ぐことまでは俺も出来たが、足場までは無理だ。

 ふわふわとした頼りない足場でとても体重を預けられない。


 戦いに求められるセンスと魔法を扱うセンスはまた違う。

 戦いの方は自信があったが、流石に魔法の方はそうはいかなかった。


 結局俺はノエルの作った足場を踏みながら階段へ向かう。

 階段に到着する頃には空を満喫したマステマが階段の前で待っていた。


「遅いね」


 お前と違ってこっちは空は跳べないんだよ……。

 魔法で飛ぶと天空の塔から吹き飛ばされて戻れない。





※3/16更新分を15日に誤って公開したのでそのまま16日分として公開します。

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