第69話 ゾンビフェスティバル

 暫く平和な日々が続く。


 空を除く四属性を習得する頃、ようやく初心者という扱いから抜け出したようだ。

 ちなみに、下級組は今20人しかいない。


 無断遅刻、無断欠席。思っていたのとは違った。行方不明。

 最後だけは気がかりだが、そんな感じで減っていった。


 流石に20人になってからは、減らなくなったのだが。


 俺にとっては酷く退屈な時間がすぎる。こればかりは仕方ない。

 家でノエルやアーネラから、優良組の進んだ授業を習うなどして補っていた。


 右手を開き、親指以外の指先に魔法を発現させる。


 火、水、風、土。


 基礎はもう分かっている。

 威力を上げたければ、ここから注ぐ魔力を増やせばいい。

 難しいのは掛け合わせることだ。


 爆発の魔法は火と水と風が要る。

 ゴーレムを生成するには土だけではなく水と火の属性も必要だ。


 あの上級生のゴーレムが弱かったのは、水か火の掛け合わせが悪かった。


 掛け合わせる属性が多ければ多いほど複雑で高度、なにより効果が高い魔法が使える。


 その制御には繊細な調整が必要で、3つを超えてくると中々俺には難しい。

 2つなら魔力量でごり押しできる。


 ……カスガルは火の属性だけを使っていたように見えたのだが。

 色々聞いてみたいな。


 マステマはというと、もはや自分では何もしていない。

 茨の杖に魔力を注いで、全て任せている様だ。


 茨の杖はというと、悪魔の質の高い魔力に喜んでいるらしい。

 偶に茨を纏うドクロが杖から顔を出す。あれが噂の茨の王なのだろう。


 茨の杖は流石というべきか、下級組で扱われる程度の魔法ならすべて再現可能なようだ。


 自由を手に入れたマステマは、暇な時間に魔道学園の図書館に入り浸り、授業中にも借りた本を読み始めた。


 教官は淡々と授業を進める。下級組には興味が無いのだろうな。

 片眼鏡をつけた教官だけはマステマをよく睨むのだが、マステマは涼しい顔だ。


 随分と平和な時間が流れるなぁと思っていたのだが、実習を担当するルコラに呼び出された。


 実習の点は問題ないはずだ。


「ちょっーとお願いがあるの。勿論実習の点に加算するから、受けてくれないかな?」


 ルコラのお願いとは、迷宮の掃除だ。


 アンデットが蔓延る迷宮が、しばらく実習などで使われず放置されており、中が溢れそうになっているらしい。


「それこそ教官の仕事じゃないか?」

「それはそうなんだけど、めんどくさ……ちょっと忙しくてさ。優良組はアンデットなんて嫌がるし、ね。お願いお願い!」


 俺も面倒だったが、最近体が鈍っているのも事実だった。

 一度思いっきり暴れておきたい。


 ルリーゼやクローグスも実習の点は欲しいだろうし連れて行くか。


「お前はどうする?」

「アンデットは食べられないから嫌いだ。でも私もちょっと暴れたい」


 マステマも、少しフラストレーションが溜まっていたらしい。


 4人組で早速、次の日の朝から不死の迷宮に潜る。


 匂いが酷いな。誰も利用したがらない訳だ。

 聖水を自分の身体に振りまいておく。


 これで浄化による作用が発動して大分マシになる。


「ずるいぞアハバイン。うぅ、何だこの匂い」

「涙が勝手に出てきます……」


 やれやれ。不死が相手なのに聖水すらもってこないとは。


 2人の頭の上から聖水をぶちまける。


「あ~、ようやく息が吸える。これからは聖水もってくるわ」

「匂いはまだちょっとしますね……はい、仕方ないですよね」


 マステマはというと、普通に聖水をかぶっていた。


「……平気なのか?」

「何が?」


 聞き返されてしまった。

 異常は見当たらない。


「ああ、この聖なる水とやらか。今の身体になってからは只の水だ」


 教会の人間が聞いたら卒倒するだろうな。

 奥に進むと、ゾンビが確かに居る。


 適当に火の魔法で焼く。

 一応火剣と天剣も用意はしてあるのだが……魔法は楽だな。


 ゾンビを剣で相手にすると体液で汚れて仕方ない。


 こちらは4人もいる。

 ただ火の魔法を敵に撃つだけでも中々良い火力だ。


 ルリーゼやクローグスの魔力量は、入学当初より増えている様だがそれでも少ない。

 長期戦になれば俺とマステマで残りを処理する事になるだろう。


 しばらく進む。


 スケルトンも現れ、ゾンビにグールも交じり始める。


 だが変わらん。

 下級とは言え魔導士が4人だ。

 その火力は中級魔導士に換算すれば優に一人分はある。


 ひたすら焼き払う。

 アンデットが不人気に理由は、その儲からなさにある。

 偶に宝石を落とす個体もいるが、殆どのアンデットは何も残さないのだ。


 労力だけが掛かる。この分だと適当に掃除して終わりそうだな。


 だが、そうはいかない事は俺も良く知っている。


 しばらく進んだ先で、俺達が放った火の魔法が一人のゾンビに弾かれた。


 マーダラーゾンビ。

 ゾンビ系の魔物の中級に属する魔物で、魔法に耐性がある。

 アンデットは肉が腐っていたり骨であったりと、魔法に対する耐性が低いのが定石なのだが、それも下級の話だ。


 火剣を抜こうとすると、クローグスが加速の魔法で石を投げつける。

 見事にマーダラーゾンビの頭を打ち抜いた。岩を加速したのだから物理攻撃だ。


 俺は拍手で称えてやる。素晴らしい。


「やったぜ!」


 だが、その後ろからもマーダラーゾンビが現れる。


「げぇっ!」


 悲鳴と共にクローグスが岩を拾っては投げつける。

 気合は十分だが。

 4体目を倒したあたりで、クローグスがばてた。


 魔力枯渇だ。魔力回復ポーションを飲ませれば回復する。

 だが、高価だ。

 飲ませてもどうせまたすぐに消費してしまうだろうし、ルリーゼに世話を任せる。

 ルリーゼの固有魔法は威力だけなら合格点だが、あれは固定砲台だ。


 しかも動く的には効果がない。


 それじゃあ、久しぶりにやるか。


 火剣が俺の魔力を吸い上げ、眩く光る。

 魔道学園で基礎ばかりやらされたお陰で、魔力の質は随分上がった。


 火剣の調子が良い。

 身体強化魔法の通りも素晴らしい。


 どうやら無駄な日々を過ごした訳ではなかったようだ。


「アハバイン、なんだよそれ」


 ようやく起き上がったクローグスが俺を見る。

 冒険者としての俺を見せるのは初めてだったな。


「まあ、見てろ。冒険者ってのを見せてやる」


 ゾンビ達は徒党を組んでこちらに来る。

 数だけなら大したものだ。


「マステマ。お前はここで待機してゾンビを通すな」

「良いけど、大物は寄こせ。私も暴れたい」

「分かったよ」


 さて、魔導士としてはまだ下級だがやりますか。


 俺は火剣を構え、剣に火を滾らせた。


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