第34話 俺は父親じゃないんだが

 体がある程度回復したのを確認し、皇女様に挨拶をした俺は早々とマステマを連れて王国を出る。


 あのまま居続けても仕方ない。というかマステマが居ては王国側の人間の心情が最悪だ。なんせ王国を滅茶苦茶にした原因だ。


 悪いのはあの死んだ男だが。

 石でも投げられたら確実に死亡案件が生まれてしまう。


 勘弁してほしい。しばらくトラブルは御免だ。


「というかお前、その角とか羽はどうにかできないか」

「出来る。そっちの方が好き?」

「そのままだと連れて歩けないからだよ。別に部屋に押し込めても良いが」

「それはやだ」


 そう言ってマステマが目をつむる。

 すると角や羽、尻尾が消える。


 見た目は長髪の黒い髪をした美少女になった。

 ただし服装が過激だ。

 顔から伝わる清楚さとのギャップで色々と不味い。


 憲兵が飛んできてしまう。


 俺は予め服屋から買っておいた青いワンピースを着せてやる。


「なに? アハバインはこういうのが好きなんだ?」

「煩い。適当に選んだだけだ」

「そう」


 ワンピースの裾を掴んでひらひらさせる。

 はしたないので止めさせた。


 黒い髪は珍しいが、居ないわけじゃない。

 これなら多少目立つ程度で済むだろう。


 雷剣は今使えないし、マステマが全力で移動すれば目立つなんてものではない。

 仕方なく正規ルートを使って帝国へ戻る。


 馬車の帝国と王国の往復便は王国の騒動が明らかになるにつれてかなり混乱していたが、なんとか足は確保した。


 マステマは俺の肩に頭を預けて寝ている。

 元々のマステマは睡眠は不要だったが、マステマの核が一つ消えた後この世界に馴染む形に体が適応してしまったらしい。世界への浸食が消えたのはその所為だとかなんとか。


 睡眠と食事が出来るようになったと誇らしげに言っていた。

 でもなくても別に困らないらしい。


 説明されても分からねぇよ。

 こうしていれば俺を簡単に殺せるような悪魔だとは思えない。


 こいつ、地上に居続けるなら最強の一角なんだよな。

 面倒を掛けられる分便利に使ってやろう。


 無限の寿命があるからゆっくり帰る術を探すことにしたらしいが。


 俺は窓の外を眺めながら馬車の激しい振動で揺られる。

 皇女様からの褒美はそうだな……いや金でいいわ。余計なものを押し付けられても困る。


 ちょっと立て続けにしんどい仕事をして最後にこれだ。

 心身ともに非常に疲れた。


 幸い家には家事をやってくれる奴隷が居るし、のんびりと過ごせばいいだろう。

 あの二人にこいつの事も説明しなければ。


 部屋は余ってるんだよな。でかい家にしたから。

 書庫を作ってこいつを放り込んでおけば大人しくならないかな。


 そして到着する。


 数日かけてようやく我が家だ……。

 あっちこっち行こうとするマステマを苦労して押さえて辿り着いた。


 子供かこいつは。地獄では戦うか目をつむるかで過ごしていたからこの世界は楽しいらしい。


「この世界は楽しいって、お前この世界滅ぼして帰るって言ってただろ」

「そんな昔の事は忘れた。それより早く入れ。休みたいしお腹減った」


 この悪魔……。

 見た目可愛くて俺より強いからって。勝ったのは俺だぞ。


「さっさと入れ」

「チッ」


 どの道は入らない訳にもいかない。


 俺は家の扉を開ける。

 するとノエルが真っ先に飛んできた。

 続いてアーネラが来る。


 実によく教育された二人だ。

 そこまでしなくても良いが、それを言っても困らせるだけだ。


「ご主人様、お帰りなさいませ。心配しました」

「ああ。帰ったぞ」

「あの、その人は?」

「こいつはマステマだ。なんというか……居候だ。こいつの世話もしてやってくれ」

「はい、それは勿論。お食事にされますか? お風呂でしたらすぐ用意します」

「先に風呂を用意してくれ。疲れた」


 アーネラはかしこまりました、と風呂場へ行った。

 ノエルは着替えをとりに向かう。


「お風呂? お湯に入るの? 人間は変わったことをするんだね」

「お前はどうしてたんだ」

「血で汚れたら水を被ってた」

「これからはお前も風呂に入れよ。汚い格好でこの家をうろつくな」

「ふぅん。良いけど」

 

 仕方ないから入ってやるといわんばかりだ。


 風呂の準備が出来たので早速入る。

 するとマステマまで付いてきやがった。


 今更ガキの裸なんぞどうでも良いのだが、ゆっくり風呂へ入れないだろ。


 仕方ないのでマステマを洗わせる為にアーネラも呼んだ。

 アーネラは濡れても問題ない服を着て風呂場に入り、マステマの相手をしてくれる。


 マステマはまだ蕾といったところだがアーネラは夜の営みも込みで買ったからそれなりに成熟している。


 少女と大人の女性の中間である奇跡のような時間。

 マステマを洗い終わったアーネラを呼び寄せて後ろから抱きしめる。


 柔らかい体だ。


 アーネラは恥ずかしがりながらも俺の顔を見上げる。

 潤んだ瞳が随分と扇情的な事だ。


 もっともまだ体が痛むので致すのは無理だ。惜しい。

 マステマが俺の背中に乗り上げる。


「やめろ。お湯が垂れてくる」


 剝がそうとしたが凄まじい力で剥がれない。


「アハバイン。お前も入れ。風呂は良いな」

「気にいってよかったな」


 仕方なくアーネラを放してマステマを背中にくっつけたまま湯船に入る。

 でかい湯舟だから問題ない。

 アーネラもそのままでは冷えるので脱がして風呂に入れた。


 疲れや体の痛みが湯に溶けるようだ。

 風呂から出てアーネラに体を拭かせる。マステマは濡れたまま外に出ていこうとしたので首根っこを掴む。


 白く絹のような肌が水で濡れて輝いている。


「放せー」

「体を拭けよお前……」

「私はお前じゃない」

「マステマ、体を拭け」

「私が拭きますから」


 俺を拭き終わったアーネラがさっとマステマの体を拭う。

 結婚もしてないのに父親の気分を味わう羽目になるとは。


 アーネラとノエルなら問題ないと思うが、マステマの事は注意しておかないとな。

 餌付けしてしまえば問題なさそうだが。

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