第42話
「はァっ? 三千円もするシャーペンがあんのォ!? 文字とか書くだけなのにィ!?」
この場に居る全員の気持ちを何処かで聞いた事のある言い回しで代弁する麻紗姉さん。しかし更に畳みかける様に驚愕の情報が二宮君の口から言い放たれた。
「ちなみに一万円以上もするシャーペンと消しゴムも入ってる……らしい」
「「「「「ッ――!?!?」」」」」
絶句である。三千円相当のシャーペンの存在。そんな高価な物を小学生が所有している事にも驚いてたのに、更にお高いジャーペンが在ってしかも所有していると聞いたら言葉なんて出ませんよって。しかも消しゴムまでもお高いとか。
「――ぁ……べ、勉強が大好き~……とかぁ?」
いち早く混乱状態から正気に近しい状態に戻った久遠少年が苦し紛れに擁護する。――が、次に同じ精神状態まで回復した四季先生がそれを否定した。
「いや久遠君それはない。全員スポーツをやっていてね? んで屑巣先生に見せて貰ったあの三人の通知表を見るに、スポーツ頑張ってるから成績悪くても良いよね? ってースタンスをあの三人は取ってるっぽい。体育以外は2と3で2の割合が多かった。――……あ、全員補欠な」
「えぇ……あらあらまあまぁ」
「「「「「「――……ふっ」」」」」」
満場一致。満場一致で鼻で笑ってしまったよ。特に最後の全員補欠のインパクトが凄いです。
「ま、まぁまだ小学生ですし! それに歴だって――」
「小一の春からです」
「っ――……スゥ……ふぅ。未来は彼等の手の中です」
鼻で笑ってしまいながらもそれでも擁護しようとする久遠少年だったが、四季先生の追撃に敢え無く撃沈ス。
それにしても随分とグニャグニャした真っ暗い未来が入ってそうねぇあの三人の手の中には。ご愁傷様です。
――さて! 話を戻しましょう。
「まぁ確かに小学六年生にしては金回りは良すぎるね。でも長年溜めてたお年玉で買ったって可能性もあるんじゃない?」
「身内以外はお母さん銀行です」
「ヨシ! 絶対に何かあるね。調べてみましょう」
見栄とか友情? とかでお年玉貯金を崩したと思ったのにその線が即消えましたね。とりあえず引き続き二宮君に調べて貰って、家庭訪問の必要があれば四季先生か相手からお金と弱音を引き出すプロお二人に出勤して貰いましょう。
「そうする。あの三人を調べれば主犯格にも繋がるかもしれないからな。じゃあ俺からは以上だ」
「では最後に私から久遠九々について」
「え? 九々ですか?」
いきなり大切な幼馴染の名前を呼ばれて首を傾げる久遠少年に頷いてみせる。
「そう。私等二人、実は三週間くらい前に久遠君と偶然行きつけのスーパーでバッタリ会ってね? そこでお友達になったよ。ね? 二宮君」
「そうだな。最近じゃあ急ぎの用事が無い限り会ったら必ず話してる。スーパーで会ったら外の屋台で
「はいぃ?
「――……あらあらまあまぁ、良くないねぇ? その言い分は良くない。私達のせいにするのは良くない」
「んーおやおやぁ?」
私の口癖と一緒にみっともない言い訳を聞かされ、つもりに積った不満がプッツン切れる。
あらあらまあまぁ! 久々に……キレちまったぜ……。
「私が別なのを買おうとすれば二人揃って『えぇ? 同じのじゃないの?』って、毎回悲しそうな顔するのは何処の誰だいこのジャガイモ教信者共め。棗君だけ今日から歳越すまでコロッケさんはシャキシャキ玉ねぎ入りの豆腐コロッケかオカラコロッケにしてあげようか?」
「あっ……ごめんなさい」
「分かりゃいいのよ分かりゃ」
貴方の胃袋と我が家のキッチンの主導権を握っているのは私ですのよ? と、満面の笑みで忠告する私と、それを聞いて見た事の無い悲痛そうな表情を浮かべながら青ざめる二宮君。
「――! な、なんです? 見世物ものじゃございませんのよ」
視線を戻すと淳兄さん達がニヤニヤしながら私達を見ていたので途端に気恥ずかしい気分になる。
「ん~? いやなに~全くもって微笑ましいねぇ~」
「「以下同文」」
「クッ――」
淳兄さんの台詞に四季先生と麻紗姉さんが同意をし、気恥ずかしさが天元突破する。久遠少年も口には出してなかったけど表情で同意していた。
「梨さん。棗さん」
「「!」」
急に名前を呼ばれてビックリする。しかも初めての呼び方に悶える程の気恥ずかしさが消え失せ、隣に居る二宮君も私と同じ反応を見せた。
そんな私達に久遠少年は深々と頭を下げて感謝の言葉を伝える。
「九々と友達になってくれて本当に……本当にありがとうございます」
「あらあらまあまぁ、別に頭を下げられるような事はしてないよ。――! あぁそうだった」
話が脱線して忘れてた。久遠帯々と久遠九々についてだ。そしてこれが今回から久遠少年が参加してもらう理由だった。
「あの子ね? 今はもう恨んでないよ君の事」
「――え? 恨んでない?」
私からのカミングアウトに、久遠少年は信じられないといった疑心暗鬼の表情を浮かべながら顔を上げる。こんな風に他の感情が入っていない疑いの表情を浮かべたのは自殺しようとした時以来だった。
「寧ろねぇ……苦しんでる。そろそろ限界なんじゃないかな? なんせ最近、ゲームセンターにも行ってなさそうだから。――だから、本当にヤバい方面での限界を迎える前にいい加減仲直りしようか? その為の仲直りネタを昨日、三人でコロッケを食べている時に見つけた」
そうニッコリと笑い、私――六出梨は自身のバックから一本のタルタルソースを取り出す。これは久遠少女と初めてスーパーで会った日に、彼女が取ろうと必死に手を伸ばしていたタルタルソースと同じ銘柄だった。
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