第41話

「あらあらまあまぁ……え? 何故に??」


 嫌です。転校なんて嫌です! 私を厄災やら災害やらと思って必死に居ないモノとして頑張っていた担任以外の教師陣やクラスメイト達がようやく自然体でそうなりつつあるんだもの。こんな居心地が良い環境を手放すなんてとんでもない。


 触らぬ神に祟りなし! 教室での扱いが、今ようやく次のステップへ片足を掛けてる。不自然な無視から自然な無視へとステップアップしつつあるのです。


 ――あ、そう言えば厄災災害で思い出したけど夏休みが開けた少し後で私への陰口が増えたんだよね。「あいつのせいでハクサイが――」「一大イベントが――」「マジで厄年――」とかなんとか。

 あれは……一体なんだったんだろう? 言葉通りに受け取るなら白菜を使った一大イベントが無くなってマジ厄年! って事? あらあらまあまぁ、私が通ってたのは農業高校だった?


「何故って、そんなトチ狂った宗教みたいな行為を黙認してる学校に大切な弟を通わせられない。通わせたくもない」


「そうねェ。とォても偏差値がァ50以上ある教育機関を設けてる私立校とは思えない。てか日本の学校と思いたくない」


 と、淳兄さん達が嫌悪感丸出しで私達3人が通っている学校を酷評する。ちなみに淳兄さんの満面の笑みの件で二宮君と久遠少年が「え……?」とか「そっち……?」と、言葉を洩らしてたがそれに四季先生が「フッ」と、淳兄さんに代わって笑みを零していた。


「あらあらまあまぁ……まぁでもあと一年ちょいで卒業なんで転校はしません。寧ろどんどん高校生活が楽しくなってるから転校なんてしたくないなぁ」


「――そうか。すまない。すまなかった」


「ごめんね」


「「――」」


「?」


「あらあらまあまぁ……」


 一般的に照れ臭い台詞を吐いた筈が久遠少年と四季先生以外の3人の表情が途端に曇ってしまう。

 あ~……頻度は減りましたがそれでも過去話や今と昔の対比の話をすると極稀に今みたく私が意図してない反応を見せるので困ったものです。

 

 あ~もう! まったく見ているこっちが苦しいよって。


「二宮君。次、早く早く」


 報告はまだ終わってないけれど、この空気感に堪えかねて二宮君に次の報告に行ってくれと急かす。


「ん、了解。俺からは久遠九々の学校方面の話をさせて貰う」


「九々のですか?」


「あぁ。実は俺が勤めてる工場にはあそこの小学校に通ってるお子さんを持つ親が複数人いてな? 丁度そのその中に運良く5年と6年の親御さん達が居たのと、その人達は俺がお世話になってる班の先輩方だったんでちょっとした後ろ暗い脅迫ネタをダシにして小学生本人達に色々と喋らせたんだ。――で、腑に落ちない点が二つ出てきた」


 そう言って二宮棗は紙コップを持ってる方の指をニ本立てる。ちなみに二宮棗が言う”後ろ暗い脅迫ネタ”とは、久遠九々が受けているイジメの件を親に報告するというもの。


 要は告げ口だとか。そして小学生達は親に告げ口されるのを嫌う。特に父親に告げ口をされるのを何よりも恐れていると言っていた。


「まず一つだけど、あの子が受けてるイジメ――その始まりのタイミングがどうもおかしい。久遠君はイジメの始まりがいつか知ってるか?」


「え? それは確か……いやすみませんわかりません。ただ僕が九々がイジメられてるって知ったのは今日から約1ヵ月半前です。急に屑巣先生から連絡があってそこで僕は知りました。だからもっと前。恐らく僕のお母さんと九々のお父さんが蒸発したGW明けからだと思います」


 この証言に私や淳兄さん達もそれぐらいだろうと思い、各々首を縦に振る。――が、二宮君だけは首を縦に振らなかった。


「全然違う。喋らせた小学生達によると約2か月前、9月の後半からだとさ。確かにGWからあの子の学校生活は一変した。でも今みたく完全に孤立した訳じゃない。夏休みに入るまではあの子を気に掛けてくれる友達は数名残ってたらしい。ただその夏休みでその誰とも遊んだり会わなかったせいか、夏休みが明けるとその子達は全員離れて行ってしまった。――多分、自分じゃどうする事も出来ない事で日に日に疲弊していく友達にどう接して良いか分からなくなったんだと思う」


「! あぁ……」


 そう言えばと思い出す。確かに夏休み中は誰とも遊ばなかった。遊べなかったと久遠少女は申し訳なさそうに言っていた。

 

 まぁでもそれは仕方ないと思う。なんせ母親が入院したのが夏休みに入る少し前。運とタイミング悪く祖父母や親戚の助けを求められずにそっから半強制的に慣れない一人暮らしをしているんだもの。しかも母親の見舞いに行けば5回に1回、顔を見せただけで取り乱されて拒絶される。普通に考えれば小学6年生の体力と精神力じゃ到底耐えきれるものじゃない。


 そりゃ誘われたって遊べんよね? 離れていった友達も何か出来たか? と言われれば出来る事はほぼ無いに近しい。もうこればっかりは仕方がない事だと思う。


「――で、もう一つの方なんだが、今回の久遠九々へのイジメなんだがどうやら主犯格は同じ教室に居ない可能性が出てきた」


「! 主犯格が居ないってそんなまさか……だって主犯格がいなきゃそもそもイジメなんて発生しないはずでは?」


「確かに。てか主犯格ってあの三人じゃないの? ほら私に舌打ちをした男の子とその横に居た二人」


 初めて久遠少女が通う教室にお邪魔した日、言われた通りに彼女が置いていった荷物を纏めていた二宮君と久遠少年を少し離れた所からなにやら不満そうに見ていた男の子三人を思い出す。


「俺も最初はそう思ってあの三人についても喋らせたんだが、聞いてる内に段々違和感を感じた。どうも小学6年生にしては金回りが良すぎんだあの三人は」


「あらあらまあまぁ……え? お金??」

 

 意外な話が出て言葉を洩らしてしまう。てっきりあの男の子三人は元々優しい性格だった――とかだと思ってたから。


「四季先生に頼んであの三人の家族構成と収入額を調べて貰ったが、あの三人には全員兄弟が居る。そして年収は600万~400万程度……でしたよね? 四季先生」


「あぁそうだ。貰っている小遣いも世間一般相当で、三人仲良く毎月千円だ」


 と、確認を取られた四季先生が男の子三人の毎月の収入額言い、それを聞いた二宮君は自身のバックからペンケースを取り出してその中のシャーペン一本を私達に見せてきた。


「これ一本幾らだと思う? ――約三千円した。こんなのがあの三人のペンケースの中に3本以上入ってるんだと」


「「「「「え? なんで??」」」」」


 この場の全員、シャーペンを持っている二宮君でさえ私達と同じ様に”意味が分からない”といった風の表情を浮かべて約三千円なのだというシャーペンを見た。

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