第114話 大魔術師に国王陛下が叱責されました

その日のガーブリエル様は何故かご機嫌斜めだった。私は朝から徹底的にしごかれた。

火の玉、小さな竜巻、ミニアンちゃん、そして水鉄砲と。それも精度を要求されるのだ。


「そこ、右に一度違う」

「は、はい?」

一度って何だ? ルンド先生並みに言うことが厳しいんだけど。


でも、文句を言えるような雰囲気では無かった。私はただひたすらガーブリエル様の言う通り魔術の練習をした。


最後の水鉄砲の練習をしている時だ。


これも見た目はちゃちだが、当然私の魔術なので、威力は凄まじいものがある。一度防御の障壁なしに放ったら、城壁に巨大な穴が空いてしまったのだ。


その時の大変なことと言ったら。騎士は直ちに飛んでくるわ、陛下まで現れて呆れられた。ルンド先生に何故かガーブリエル様まで一緒に怒られながら、魔術の塔の魔術師たちも手伝ってくれて必死に修復作業をさせられた苦い記憶がある。



何か女の声が聞こえてムッとしたガーブリエル様に

「後ろに向かって放て」と指示されてそのままやってしまったら、そこにいたピンク頭が吹っ飛んでいった。その横では傲慢王女が驚いてみていた。


ええええ! 人に向かって使ってしまった。 でも、これは不可抗力だ。だってガーブリエル様の指示通りにしたんだから。


でも、何故、ここにピンク頭がいるのよ。前にガーブリエル様を怒らせて痛い目にあっているのに、ピンク頭は学習能力がないの?


ちらっと横を見ると完全にガーブリエル様は切れていた。ちょっと、あんた達、何てことしてくれるのよ。それでなくても今日のガーブリエル様は機嫌が悪いのに・・・・


「何奴だ」

ガーブリエル様が切れているのに、このボケ王女はそれを無視して

「アンネローゼ! 王太子殿下と楽しんでいられるのも今のうちよ」

と私に言ってくるんだけど、あんた死にたいの?


なのに、バカ王女は全然判っていない。


「小娘、貴様の父はブルーノか」

更にガーブリエル様がニコリとした。いや、この目は怒りのあまり凄いことになっているんですけど、どうしよう、助けたほうが良いんだろうか? でも、そんな事したら後でどうなるか判らないし・・・・

「そうよ。お父様は史上最強の魔術師なのよ。お前らなど到底敵わないほどのね」

バカ王女は高笑いしたのだ。


完全に切れているガーブリエル様の前で。


この王女は本当に馬鹿だ。


私はなにもしないことに決めた。だって自爆しまくっているのはこいつが悪いのだ。

まあこいつも魔術の嗜みはあるだろう。死にはしないはず?


「そうか、そうか。ならば少し遊んでやろう」

私はガーブリエル様から離れた。


次の瞬間だ。ガーブリエル様の杖から雷撃魔術が放たれたのだ。


次の瞬間、黒焦げになった王女は吹っ飛んでいた・・・・


ちょっちょっと、障壁で少しくらい、張りなさいよ。私は思ったが後の祭りだった。まあ、死んではいないはずだ。ガーブリエル様も手加減したはずだし。



でも、それからが大変だった。


直ちに騎士団長や魔術師達が飛んできた。


「ヴィルマル、何故ブルーノの娘がこの王宮にいるのじゃ」

飛んできた魔術師団長にガーブリエル様が叫んでいた。


「えっ? さあ、理由はわかりかねますが」

「シェルマン、どうなのだ」

答えられない魔術師団長の代わりにガーブリエル様の目は今度は騎士団長に向かった。


「それは、私もわかりかねますが」

「何故城内に入れたと聞いておる。敵国の王女を。それもアンネの仇の娘を儂の前に出すとはどういう事だ。それも儂のことを老いぼれと抜かしおったぞ」

「そ、それは・・・・」

騎士団長は残念なものを見るように、黒焦げになってピクピク震えている王女を見下ろした。



「アンっ、大丈夫か」

そこへ慌ててフィル様が飛んできた。


「これはこれは王太子殿下。この者が儂の前で老いぼれとか抜かしおったので、お灸を据えてやったのですが、何故ブルーノの娘がこの王宮にいるのですか」

「それは存じ上げません」

フィル様は即座に否定した。


「ほお、しかし、何故、王立学園にいるのです。何でも、裏切り者のブルーノの娘が留学しているとそう噂に聞きましたが」

「私としては成績不振で不可にしたのですが、詳しいことは父が存じておりましょう」

「おい、フィル、なんてことを」

物陰からゆっくりと逃げようとしていた陛下が慌てて口を開いた。


「陛下、お教えいただけますかな」

「いやあ、外務から泣きこまれて、仕方なしにの」

「バカモン!」

そこに完全に切れたガーブリエル様の叱責が響いたのだった。




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