第112話 仇の娘の王女と聖女に絡まれましたが、無視して歩き去りました
「王太子殿下!」
「フィル様!」
王宮の馬車留まりの所で、馬車を先に降りてくれたフィル様に向かって、テレーサとピンク頭が声をかけて近づいて来る。
でも、フィル様は全く無視して、私に手を差し出してくれた。
王族に平民の私がエスコートされて良いのかとか、王女や聖女を無視して良いのかとか色々思うところはあるが、単純に私を優先してくれて嬉しかったのは秘密だ。
「ありがとうございます」
私はフィル様の手を取って馬車を降りた。
「な、なんで平民の女をエスコートしているの?」
「赤毛を私よりも優先するなんて」
二人はそんな私達を見てわなわな震えていた。
全く優越感に浸れなかったかというと嘘だ。ちょびっとだけフィル様が私を何よりも優先してくれて嬉しかった。
「あーーーら、平民の分際で王太子殿下にエスコートされるなんて良いご身分ね」
傲慢王女が早速私に絡んできた。
「俺の婚約者に難癖をつけるのは止めてもらおうか、テレーサ王女」
私が答える前に、きっとしてフィル様が言ってくれた。
「婚約者って、彼女は今は平民なのでは」
「私達が生まれた時のスカンディーナの国王陛下と私の父が決めた婚約だ」
王女が言うが、フィル様は平然と言い返してくれた。
「しかし、今の国主は私の母の女王です。彼女の父ではありません」
「それがどうした」
フィル様からめちゃくちゃ冷たいオーラが傲慢王女に向けられた。
「我がオースティン王国はたとえどんな事があっても一度した約束は守る。たとえ、貴様の国の都合で国王が代わったとしてもな」
「な、なんという。それは我が母を認めないと言うことですか」
「何を言っている? 私の言うことをちゃんと聞いたのか。元々私とアンはスカンディーナ王国と我がオースティン王国の間で決められた国と国との契約だ。私はそれを守るだけだ。そちらの都合は関係ない」
「しかし、我が国の心証が悪くなるでしょう」
「何度も言わすな! 国主が代わったのはそちらの国の都合だろうが」
益々機嫌を悪くしてフィル様が言い切った。
私はそんな事でいいのかと思わないでも無かったが、フィル様にかばってもらって嬉しかったのは事実だ。
「フィル様!」
王女がうまくいかなくなって話題を変えようとしたのかそれとも全く空気を読まない元々の性格か、ピンク頭がいきなりフィル様にすり寄ろうとした。
しかし、サラリとフィル様は私諸共後ろに回って躱す。
「何だ。パウラ嬢。いつも、異性に無闇に触れるなと忠告したよな」
「だってフィル様もアンさんに触れていますよ」
「何言っている。俺とアンは婚約者だ。問題なかろう」
ムッとしてフィル様が言い切った。
「ええええ! いつの間にそうなったのですか?」
「俺たちは生まれたときからそうだ」
ピンク頭にフィル様が答える。
「だってそれは、テレーサのお父さんがアンさんのお父さんを殺して国を乗っ取ったからなくなったんじゃないんですか?」
ピンク頭は爆弾発言をした。まあ、これが本当のことなんだけど。それをこの国の聖女が発言するとは・・・・。まあ所詮ピンク頭はピンク頭なんだけど・・・・
「乗っ取ってない!」
「無くなっていない!」
「えっ?」
二人に言い返されてピンク頭は戸惑った。少なくとも傲慢王女からは援護されると思っていたのだろう。
「パウラ、お父様は悪政を敷いていた前国王を処刑したのよ」
「それを乗っ取りっていうのよ」
「違うわ」
「どう違うのよ」
「違うわよ」
「馬鹿が見ても乗っ取りって言うでしょ」
「言わないわ。正義が施行されたよ」
「それ屁理屈じゃない」
私も余程文句を言いたかったが、二人が喧嘩初めたので、無視することにした。
「遅いぞ!」
「いやあ、修羅場に入れるわけ無いだろう」
そこに後ろで見ていたアルフたちが合流してきたので、私達は立ち去ろうとした。
「ちょっと殿下」
「フィル様待って」
「我々は忙しいので面会は前もってご予約ください」
縋りつこうとした二人にバートが遮って言ったのだ。
「そんな」
「フィル様お話があるんです」
叫んでいる二人を無視して私たちは歩き去ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます