第111話 王宮にフィル様と二人で馬車に揺られて行ったら、仇の娘の王女と聖女が待ち構えていました
そして、朝食の後、私とフィル様は二人で王宮の馬車に乗って王宮に向かった。
本当はフィル様の従者、すなわち、アルフとバートとルーカスの3人とフィル様の4人で1台の馬車に乗ってもらって、私はイングリッドの馬車に乗せて貰う予定だったのだが、何故かフィル様と二人の馬車になってしまった。
「アン、俺もみっともないのは判っているんだ。本来、演劇なんだし、メルケルとアンが一緒に演技するのは仕方がないことだから」
フィル様が謝ってくるんだけど。
「あの、別に気にしていませんから」
私が言うと、
「いや、俺が気にするんだ。本来、アンは他の男に近づいてほしいくない」
そう言うとフィル様は私の手を取ってきたんだけど。それと同時に私の横に座ってきた。
「ちょっと待って、近いですって!」
私はもうアップアップだった。
「アンがメルケルに取られたらと思うと夜も眠れないんだけど」
真剣な顔して、フィル様が言ってくる。
「フィル様、それはないと思いますけど」
メルケルには悪いけれど、どう考えてもフィル様のほうが見目もいいし、私との付き合いも長い。何しろ私は前世からフィル様が最推しなのだ。
「そんな、どうなるかわからないじゃないか!」
フィル様がムッとして言ってくる。
問題は私の心ではなくて、私が平民で、なおかつ、スカンディーナの前王の血を引いていることなのだ。
「フィル様。私は平民のアンなんですよ」
「でも、スカンディーナの前国王の血を引いているのは確かだ」
「その御蔭でスカンディーナの摂政からは、煙たがられています」
「それがどうしたんだ。俺は元々のスカンディーナ王国との約束を守るだけだ。国と国との約束だからな。アンが両親を亡くしても俺はその約束は守る」
フィル様が言い切ってくれた。それは私個人的には嬉しいけれど、国としてはどうなんだろうと思う。
「この事は大魔術師のガーブリエル様も魔術師団長も騎士団長も納得しているし、オールソン公爵家もバーマン侯爵家もカールソン公爵家も認めているんだ」
「でも、王妃様は」
「母は反対できない。元々母が約束したことだからな」
「でも、現スカンディーナ王家からは敵視されましょう」
「それがどうした。やるならやるさ」
フィル様がはっきりと言ってくれるんだけど、それは王子としてはどうなんだろう?
「一国の王太子の婚姻に絡んで、戦争するのは良くないと思われますが」
「こちらから仕掛ける気は無いよ。向こうから仕掛けてきたら叩き潰すだけさ」
フィル様は笑って言ってくれるんだけど、国民全てがそれに納得するかというと納得しないだろう。貴族も納得しない家も多いと思うんだけど。
将来国王となるフィル様としても良くないのではないか。
「何言っているんだよ。俺は、いや、この国の未来の王は、たとえどんなことでも、一度した約束は守るんだよ。命からがら逃げてきたどこにも身寄りのない婚約者の元王女に対しても、俺の命を賭けても守るだけだ。利用価値がなくなったから、不利になるから、そんなのは関係ないんだ。約束は約束だ。俺は国民にはっきりとそう言うよ」
フィル様はそう真剣に言ってくれた。
「それよりも、現実問題としても、俺がアンを見捨てたら、前述の公爵家と侯爵家が離反しかねないんだ。その方が大変なんだけど、アン理解してくれている?」
フィル様は私の瞳を見て言ってくれた。
まあ、確かに、イングリッドのお母様もエルダのお母様もスカンディーナと事を構える気満々ではあった。私を王家が見捨てたら公爵家と侯爵家が反乱起こしそうだ。
「アン、頼むから俺を捨てて、スカンディーナの反体制派のところに勝手に行かないと約束してほしい。そんな事したらあの2家が王家がそうさせたと、難癖をつけて反逆しそうだから」
「それは、勝手にはやらないと思います。私も出来たら、フィル様と一緒にずっと居たいですし」
私がボソリと言った。だってこのゲームの世界で一推しがフィル様だったのだ。
その隣に立てるならばそれに越したことはない。
「アン!」
私が言うやいなや、喜んでフィル様が抱きついてきた。
ええええ! ちょっとフィル様、近いっ! 近いです。
私は硬直してしまった。
イングリッド邸からは王宮はすぐで、あっという間に馬車は着いたんだが、私は大変な思いをして到着した。
しかし、だ。フィル様が馬車を降りた時だ。
「王太子殿下!」
私は聞きたくない声を聞いてしまった。
そう、そこにはテレーサとピンク頭が揃って待ち構えていたのだ。
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