第108話王太子に言われて私の騎士にしたら抱きしめられました
私は怒ったフィル様にどんどん引っ張られて連れて行かれた。
「フィル様、痛いです」
思わず手をつかんで言ってしまった。
「あっ、ごめん。強く握りすぎたね」
フィル様は慌てて手を離してくれた。
手が少し赤くなっていた。
「アン、本当にごめん」
フィル様が私の赤くなった手を撫でて謝ってくれるんですけど、触られるのはちょっと恥ずかしいんですけど・・・・。
「いえ、こんなのは大丈夫です」
「本当に?」
私の言葉にフィル様が私を覗き込むように見てくれる。だから近いんですって。私は赤くなっていた。
「スカンディーナの奴らとの間に無理やり入ってまずかったかな?」
「いえ、そんな事はありません。ありがとうございました」
フィル様の言葉に私がお礼を言うと、
「ごめん、あんまり余裕がなくて。ちょっと強引だったよね」
「大丈夫ですって。私もいきなり皆に跪かれて驚いてしまって」
「なら良いけれど、ちょっと心配した」
フィル様が心配そうに言うんだけど。私が王女に戻るなんて荒唐無稽過ぎてありえない話だ。
「平民のアンなのに、皆変ですよね」
私が言うと、
「そうは言っても、君は正当な血を引く王女殿下だからね」
「また、フィル様まで。私の父は国王だったかも知れませんが、私は今まで平民の子として育てられたんです。今更王女なんて無理ですよ」
私は当然の如くいう。
「でも、アン、君が前国王の正当な血を引く事は事実だ。反体制派からしたら、反逆の旗頭にするにはぴったりなんだよ。父と母の仇を討つってね。皆の共感も得やすい。だから、ブルーノらが躍起になって攻撃してきたんだ」
フィル様が言うんだけど。
「そうですよね。やっぱり私は平民のアンでいなければいけなかったんですよね。この学園に来るのでは無かったんです」
私はこの王立学園に出てきたことを反省した。母の言うように、あのまま田舎にいればバレなかった。
「何言っているんだ。そんな事したら僕らは会えていないじゃないか」
私はフィル様の言葉に驚いた。
「こんなに俺に会ったのが嫌なの?」
「いや、嫌なんてそんな事ないですけど、ただ、王太子殿下のフィル様の傍に平民の私がいつまでいるのはどうかと思って」
「何言っているんだよ。俺は物心ついたときから君をずっと探していたんだ。本当に必死にね。それは君は隠れていたほうが安全だったかもしれないけれど。やっと会えたんだ。これも君が学園に入ってくれたからじゃないか。
俺は君にやっと会えて本当に嬉しかったんだ。俺の隣が嫌なんて言わないで欲しい」
「でも」
「アン、君のことは今度は俺が守る。メルケルに取られてしまって本当に洒落にもならないけれと、今度は絶対に君のことを守るから、俺に守らせて欲しい」
フィル様は真剣に私を見てきた。
「アン、頼む」
そう言うとフィル様が私の前に跪いてくれたんだけど。えっ、ちょっと待って!
私は焦った。いくら渡り廊下に人が少ないと思ってもここは学園の中だ。皆の視線を浴びている。
「あの、フィル様、頼むから止めて下さい」
私はフィル様の傍にしゃがみ込んでいった。
「アンが、俺をアンの騎士にするって言わない限り立たない」
フィル様が真剣に私を見て言うんだけど。
「そ、そんな」
私は唖然としてしまった。
「絶対に立たないから」
みんなの白い視線が気になるし、何か遠くにエルダがこちらを見ているのが目についた。
ちょっとエルダ、助けなさいよ。
私はエルダを見たが、エルダは手を振ってくれている。助けてくれそうにない。
「わ、判りました。判りましたから」
「メルケルみたいにしてくれないと嫌だ」
そう言うとフィル様は懐に入れていた短剣を差し出してくるんだけど。
えっ、これって王家に伝わる宝剣じゃないの。こんなの使ってやって良いの。
でも、どんどん人が周りに集まってくる。
もうヤケだ。私はそれをフィル様の肩に当てて宣言した。
「我アンは、汝、フィルを我が騎士に任命する。いついかなる時も私の盾となり、その力を私のために使え」
私はフィル様の望むように言ったつもりだ。
「ありがとうアン」
それを聞くと立上ったフィル様が私に抱きついてきたのだ。
ええええ! 何で抱きつくの? 皆見ているのに!
もう私は真っ赤になって固まっていたのだった。
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