第102話 演劇練習1 王太子に嫌いな人参の食べさせを何回もしました

1週間後の再テスト、私達の必死の特訓で何とか3人は再テストに合格した。メルケルはギリギリだったけれど、何とかなった。最後はフィル様の部屋で徹夜で勉強したらしい。私たちはホッとした。普通の騎士が王立学園で生き残るのも大変みたいだった。まあ、一応周辺諸国でも教育内容のレベルの高さでは群を抜く高さらしい。ということはこの国を出ても他国での就職には困らないみたいだ。まあ、この国にいられなくなったら考えようと密かに私は思った。



ちなみに極悪王女らは再試験だそうだ。ざまあみろだ。



そして、放課後。読み合わせは何かしたので、今日は初練習だ。


第1幕。うーん、机に座って、フィル様と食べさせやっているんだけど、これ本当に必要なの?

私が人参をフィル様に食べさせるというものなのだが、それも皆の前で食べさせするなんて!

私がおなざりで形だけフィル様の嫌いな人参を食べさせようとする。



「カットカットカーーーーット」

イングリッドが叫んでいた。


「アン、なんなのよ。そのいい加減な態度は。それにフィル、何その嫌そうな顔は」

イングリッドが怒りをぶちまけているんだけど、そんな事言ったって。


「ごめん。でも、皆に見られていると思うとやりにくくて」

「人参は嫌いだからこれでいいだろう」

私とフィル様が文句を言う。


「アン、何言っているのよ。学食では皆の前で普通にしていたじゃない」


「・・・・」

それをイングリッドに言われると返す言葉もないんだけど。

「でも、その時は意識していなかったし。皆もこんなに見ていなかったじゃない」

「何言っているのかな。フィルは王太子だからどこでも人気よ。どこにいても皆の注目の的なの。判る? そもそもフィルの横にいて興味なさげに外見ているなんてあなたくらいよ」

「えっ、いや、興味ないんじゃなくて、見ていたら授業に集中できないから」

「黒板見ずに授業に集中するほうが難しいわ」

イングリッドの言葉に私は何も言い返せなかった。


「レーアなんかあなたがフィルの口の中に人参入れるのを見て思わず怒りのあまり失神しそうになったそうよ。それだけ注目されていた中でやっているんだから問題ないでしょ」

イングリッドの言葉に私は言葉もなかったんだけど。でも、恥ずかしいし・・・・。


「うーん、イングリッド、やっぱり形だけでやるのは難しんじゃないかな。実際に物が無いと」

「おい、待て、バート、まさか、実際に人参食べさせるんじゃないだろうな」

バートの声にフィル様が危機感を持って言うんだけど。


「うーん、そうよね。やっぱり物がないと駄目よね」

イングリッドが悪魔の笑みになる。


「いや、だから、イングリッドそれは絶対に嫌だぞ」

「本当にどれだけ嫌いなのよ。良いじゃない。皆の公認でアンに食べさせしてもらえるのに。夏祭りの時に、皆の前で恥ずかしげもなくしていたって聞いたけど」

「ええええ! 誰か見ていたの?」

私はもう真っ赤だった。


「当たり前じゃない。夏祭りなんて皆いるのに決まっているでしょ。Cクラスのケンが見ていたそうよ。彼女と。食堂でもうちの庭師が見ていたそうよ。もう屋敷中で噂になっていたわよ」

嘘ーーー、もう外では絶対にやるのは止めようと思った私だった。知っている人に見られるなんて思ってもいなかった。

でも、まって、イングリッドのお屋敷ということはうちの母がいるということで・・・・。


「ええええ! お母さんに知られたってこと」

「当然よね。『王女様も大人になられたんですね』って喜んでいらっしゃったけど」

イングリッドは言うけれど、いや、絶対に母は怒っている。外でそんな事するなんて、はしたないとかなんとか言って怒られるんだ。まあ、でも、それよりも母にフィル様とそんな事していたなんて知られたのが小っ恥ずかしかった。


「イングリッド、もらってきたぞ」

そこに茹で上がった大量の人参をバケツに入れたアルフが戻ってきた。


「おい、何だその量は」

フィル様が量の多さに唖然としている。


「良かったじゃない。フィル。アンにこれだけ食べさせられたら、いくら嫌いな人参でもアンの言うように好きになるわよ」

「そんな訳無いだろう」

「ふーん、じゃあ、他の奴に役を変わってもらう」

「そんな事するわけ無いだろう。やるよ。やれば良いんだろう」

イングリッドの言葉にヤケになってフィル様が言った。


「フィル様無理なさらなくても」

「いや、絶対にやる」

私の言葉にフィル様が言い切ったんだけど。


「そうよ。アン、気にせずにいつものようにやればいいのよ。あなたらは演技しなくてもいつものそのままでいいんだから」

イングリッドはそう言うけれど、あの時は何も考えずにやっていたから出来たのだ。皆にこんなに注目されて出来るわけ無いではないか。



「フィル様。人参嫌いなんですか」

「いや、別にそういうわけでは」

「でも、人参だけ残されていますけれど」

「そうなんだ。実は苦手で」

「じゃあ私が食べさせてあげますわ」

「えっ、いや、アン、それは流石に」

その文句を言って開いた口の中に人参を放り込んだ。


「カーーーーット」

そこにイングリッドの声が響いた。


「二人共最初からぎこちなさすぎ。もう一度」


仕方なしにもう一度始めるけれど、また、カットされた。

「ちょっと、イングリッド、そういうことは食べさせる前に注意してくれよ」

人参を2回も食べさせられたフィル様が文句を言う。


「えっ、だってフィルもアンに食べさせられて嬉しいでしょ」

「えっ、イングリッド何を言うのよ」

「それは否定しないけど」

イングリッドの声に私が文句を言うが、フィル様はそこは否定しないんだけど。


「じゃあ良いじゃない」

「でも、そんな事していたら何本人参を食うことになるんだよ」

「煩いわね。いくらでもあるから食べればいいでしょ。文句言うとキャスト替えるわよ。アンに食べさせられたい奴は多いんだから」

イングリッドの言葉に何故かフィル様は否定しないんだけど。そんな事ないよね。平民でそんなに美人でない私に食べさせられても・・・・。


周りを見たら何か3人位が手を上げているんだけど。


「あまりにもうまくいかないと私が食べさせるわよ」

イングリッドの爆弾発言に手を上げていた奴らは思わず降ろした。そらあ、あの辛子まみれの人参突っ込まれたら大変だものね。


結局イングリッドのオーケー出るまでに10回くらいやり直して、嫌いな人参を何回も食べさせられていたフィル様はげっそりしていたのだ・・・・

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