第61話 公爵令嬢を怒らせた聖女は100叩きの刑に遭いました

フィル様を先生の側机に座らせるなんて、さすがに良くないのでは?


「いや、さすがにそれは不味いのではありませんか?」

私がそう言うが、


「何言ってるのよ、アン、あなたが酷い目に合っているのよ!」

「そうよ。あれだけあなたに構っていながら、母親に反対されたから、見捨てるなんて! 鬼よ」

「悲劇の姫君を見捨てるなんて我がオースティン王国の恥さらしよ!」

「こうなったら徹底的にやってやるわ」

イングリッドらが集まってなにやら叫んでいる。


でも、私のために皆が王宮から睨まれたら問題だろうと私は止めさせようとしたのだが、


「アン、あなたのことは私達が守るから」

「そうよ、絶対に王妃様も王太子殿下も許せない」

「隣国の悲劇の姫君は私達が守るわ」

女の子らが一斉にそう言い出したのだ。


ええええ! でも私はアンネローゼじゃ無いんですけど。


フィル様が入っていらっしゃった時、女子連中の視線はとても冷たかった。


ええええ!フィル様らの目が両目パンダになっているんだけど。

アルフもバーともルーカスもそうなっていた。

誰がやったんだろう?



フィル様は私を見て、何か話そうとされたが首を振って、自分の席に座ろうとして、そこに先客がいるのを知って目を見開いた。


「あなたはクリスティーン様」

「良かった。おぼえてくれてたんだ」

クリスティーン様は不適に笑われた。


「昨日はあなたに殴られましたからね。でも、何故あなたがここに?」

「そんなの決まっているでしょ。可哀相なアンを守るためよ。あなたのような、スカンディーナの犬どもからね!」

「俺はスカンディーナの犬ではありません」

「あーーーら、違ったの? じゃあマザコン王太子」

クリスティーン様は容赦がなかった。


「何を根拠に」

「そんなの決まっているでしょ。アンがスカンディーナから睨まれていると母親に言われた途端に豹変したのが証拠よ。エルダもイングリッドもそう言っているわ」

「いや、クリスティーン先輩。俺は」

「私達国民は、隣国で両親を殺されても健気に生きているアンネローゼをあっさり敵に売ろうといしている鬼畜王太子なんて、絶対に認めないからね」

「そうよ。鬼」

「変態」

もうエルダもイングリッドもいいたい放題だ。


「あの、でも、私はアンネローゼではないんですけど」

私の言葉は皆の罵声でかき消されてしまった。


「アンの席を後ろにやるなんて小細工してくれて、そんなことは私達が許さないわ」

イングリッドが立上ってフィル様に言い切った。


「いや、俺はそんなことはしていないけれど」

「じゃあ誰がやったのよ」

「あなた王太子でしょ。やったやつをひっ捕まえて、ここに連れてきなさいよ」

「いや、それは」

フィル様は途端にトーンダウンした。

やっぱり誰の指図でそうなったか理解していらっしゃるんだ。

私は少し悲しかった。


「ふんっ、どのみち王妃様の差し金なんでしょ」

「あんたがしていなくても母親がしているなら止めなさいよ!」

「母親にさせるなんて最低!」

「そんな最低のフィルの席は先生の横よ!」

クリスティーン様が傍机を指差された。


「えっ、いや、その」

もう、フィル様もタジタジだった。


「そうか、別に立ったまま授業をつけてもいいけれど」

クリスティーン様はフィル様を睨みつけていた。


フィル様は数瞬、考えた後、仕方がなさそうに、傍机に座った。




授業の開始とともに入ってきた、地理の先生はぎょっとした顔をした。


「で、殿下どうされたのですか」

「先生。王太子殿下には、ご自身の胸に手を当てられ、今までのご自身の鬼畜な行動を反省されて、その場所に座って勉強されることにされたのです」

「そうです」

クリスティーンの言葉に女性陣が一斉に頷いた。


「はあ、そうですか」

地理の先生はやむを得ず、授業を始められた。


それは全ての先生がそうだった。怒った女性陣に逆らうと碌なことがないと皆判っていたのだ。



昼休みも私達は女性陣だけで食事をした。


男性陣が謝ってこようとしても決してクリスティーン様達は許そうとはしなかったのだ。


イングリッドとエルダの所に、これも目に隈を作ったイェルド様とクリストフ様が謝りに来ても同じだった。


「エルダ。申し訳なかった。私がデリカシーに欠けていた」

イェルド様がエルダに謝る。

「ふんっ、口では何とでも言えますわ。お兄様。お兄様は可愛そうな、アンをいざという時は見捨てるんでしょう。フィルと同じで」

エルダの言葉に


「いや、待て、エルダ。俺はアンを見捨てるなど言っていないぞ」

フィル様がこちらに来た。


「はああああ、王妃様に言われて二度とアンに話しかけないと約束したんでしょう」

「いや、そのような約束はしていない。それは母が勝手に言ったことで」

「でも、フィルもアンを寄越せとスカンディーナが言ってきたら、アンを引き渡すのよね」

「いや、それはしない」

「ふーーーん。どうだか。でも、王妃様に言われてアンを諦めたのよね」

「いや、あの、それは」

「本当に最低。虫酸が走るわ。スカンディーナが怖いから婚約者を捨てるのよね」

「最低!」

「幻滅したわ!」

「人間のクズ!」

皆メチャクチャいつているんだけど。

でも、私はアンネローゼ様ではないのだけど・・・・。


それに最後に話したのは学園にいるはずのない人なんですけど



「いや、俺は自分のせいでこの国を争いに巻き込むことは出来ないと」

フィル様が苦しそうに言う。いや、だから私はアンネローゼ様ではなくて・・・・

私はそう言おうとしたが、皆見てもくれなかった。


「ふんっ、自分の婚約者すら守れなくて何が国民を守るよ」

「婚約者すら守れない王太子に誰がついて行くって思っているの」

「そうよ。婚約者さえ守れない金玉の小さいやつは王太子を降りろ」

そう言うクリスティーン様を皆唖然と見ていた。


「あの、クリスティーン様、さすがに金・・・・何とかと言われるなんて貴族としてどうかと思われますが」

「それに貴方様は部外者なのでは」

イェルド様とクリストフ様が指摘される。


「ふんっ、こういうダメな男どもがいるから政治はダメなのよ。スカンディーナが攻撃してきたらやり返せば良いのよ」

「いや、しかし、クリスティーン様。やるのは我々男で」

「はああああ、じゃああなたは、か弱いアン一人をスカンディーナに差し出せっていうの?」

クリスティーナ様が切れられた。

いや、だから、スカンディーナは私なんて求めませんって・・・・・


「いや、そう言う訳では」

イェルドは慌てた。ここで怒らせると大変なことになると経験上知っているようだった。


「王太子殿下。どうされたのですか」

そこへ能天気なピンク頭がフィル様に擦り寄ってきた。


「まあね怖い、野蛮な方がA組に入られたのですね」

イェルドの胸倉を掴んでいるクリスティーン様を見て、ピンク頭は言っていた。ピンク頭は怖いものを知らなかった。


「なんか言った。そこのピンク頭」

襟首をつかんでいたイェルド様を離すとクリスティーナ様はピンク頭を睨みつけていた。


「嫌だわ。すぐ暴力に走る野蛮じ・・・・・」

ピンク頭はクリスティーン様に胸ぐらを掴まれてそれ以上話せなくなった。


「とうした。今までの威勢のよい声は。誰が野蛮だって」

「い、いえ・・・・」

さすがにピンク頭もやばいということに気づいたのだ。

いつもは助けてくれるB組の連中も、さあああああっと引いている。


「い、いえ、何でもございませんわ」

「お前が最近スカンディーナと付き合いのある聖女だろう。ベントソン商会の会長に言って破落戸を使ってアンを襲わせたって言う」

「な、何を仰っていらっしゃるんですか。証拠はどこに」

「証拠、そんな物私が黒って言ったら黒なんだよ」

「そんな無茶苦茶な」

ピンク頭は白くなった。


「本来は騒乱罪で処刑してやってもいいのだが、尻叩き100回の刑で許してやるよ」

「えっ、そんな」

ピンク頭は蒼白になった。クリスティーナ様は抵抗しようとするピンク頭を軽々と抱えあげて尻を突き出させる。


「ひとーーーつ」

バシーン。クリスティー様の鉄拳がピンク頭のおしりに命中した。


「痛い!」


「ふたーつ」

バシーン

「ギャー」


「3っつ」

バシーン

「ギャーーーーー」

ピンク頭の悲鳴が食堂中に響いたが、誰も助けようとはしなかったのだった。

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