第60話 怒った女友達らが私を助けてくれて、王太子の席は教壇の横の席になりました
私はフィル様と二度と話してはいけないのだ。
ショックのあまり呆然自失だった私はエルダによって学園に連れて帰ってもらった。
もう、フィル様のあの優しい笑みが私に向けられることもないのだ・・・・。人参食べさせられたフィル様の驚いた顔も見れない。私に向けられた優しい笑みももうない。
王妃様には二度と私と話をさせないように、席も私と離すと言われてしまった。
私は、エルダの胸で泣くことしか出来なかった。
「アン、心配したのよ」
私が学園に帰って、入り口でイングリッドらが迎えてくれた。
エルダが王妃の話をすると、イングリッドも一緒になって怒ってくれた。
しかし、そこにいたクリストフ様は
「イングリッド! この国が戦争に巻き込まれるのはまた別の問題だから、無鉄砲に動くのは良くないのでは」
と注意されたのだ。えっ、でも、私アンネローゼじゃないんですけど・・・・。
「あっそう、お兄様がそんな事を言うなんて思ってもいなかったわ。お兄様は、アンに二度とフィルに話しかけるな、と言われた王妃様の言葉に従うのね」
イングリッドの地を這うような言葉が響いた。
「いや、イングリッド嬢。クリストフはそこまでは話していない。ただ、隣国との関係を考えて慎重に行動しないといけないのではないかと言っているだけで」
「へええええ、イェルド様まで、王妃様の肩をもたれるのですね。それも王権を簒奪したブルーノの肩を持たれるとは」
イングリッドがきっとしてクリストフを見た。
「えっ、いや、そう言うわけでは」
「もう良いわ。お兄様達は当てにしない。私達はどんな事があってもアンの味方よ。冷たいお兄様達がアンをスカンディーナに差し出そうとすれば、そのときは全面戦争するからよく覚えていてよね」
「えっ、でも、イングリッド・・・・」
「エルダ。あなた、まさか、可愛そうなアンを見捨ててお兄様に付くのではないでしょうね」
慌てるエルダにイングリッドが笑っていない目で睨んだ。
「えっ。そんな、アンを見捨てるわけないじゃない」
「じゃあ、うちの兄を見捨てなさい。私もイェルド様を見捨てたんだから」
「わかったわ」
慌てる兄達を尻目にエルダは渋々認めた。
私は私の周りで皆が何か言い合っているのは判ったのだが、中身をよく理解していなかった。と言うかあまりの悲しみで他のことが見えていなかったのだ。
私は食事もする気が起こらずに、そのまま部屋に帰ると泣きながらベッドで寝てしまったのだった。
次の朝の寝起きも最悪だった。
頭の中がどんよりしている。
普通は一晩寝れば治るのだが、今日は昨日のドンヨリを引きずっていた。
「大丈夫?」
朝からエルダとイングリッドが甲斐甲斐しく私の面倒を見てくれた。
でも、あんまり食欲がない。
私の様子を見ると二人は首を振ってくれた。
「この卵本当に美味しいわよ」
エルダが勧めてくれるが、私は首を振った。
「アンが食欲を無くすって余程のことよ」
「しーーーー」
イングリッドの言葉にエルダが指で黙らせたんだけど、そんなことはないはずなんだけど!
私もショックで食欲がなくなることはあるわよ。
今まで経験したのは初めてだけど・・・・
私達は連れ立って教室に向かった。
何か、教室の入口で皆集まっているのが見えた。
「皆、どうしたの?」
「エルダ様、見てください。この座席表。アンの机が一番うしろになっていて」
「何ですって」
「そんなの許されるわけないわよ」
きっとして二人は言うと、イングリッドがその座席表をビリビリに引き裂いたのだ。
「えっ、ちょっとイングリッド」
私は慌てたが、
「こんなの許せないわ。学園が王宮の言うことを聞いて、アンをないがしろにするなんて許せない」
「皆、こんな事許せる?」
イングリッドの言葉に女生徒達が首を振ってくれたのだ。
「許せる訳はないわ」
「えっ?」
そこには何故か制服を来たクリスティーン様がいたのだ。
「ど、どうされたのですか?」
エルダが慌てて聞いた。
「昨日、父と喧嘩して飛び出してきたのよ」
クリスティーン様が平然と言われる。
「父は王妃の肩を持つって言うから、じゃあ私はアンの方を持つわって叫んできたのよ」
「えっ、私のせいですか」
私は慌てて聞いた。そんな私のために公爵家のご令嬢を巻き込むのは良くない。
「アンは気にししなくていいわ」
「でも」
「大丈夫よ。今日から聴講生のクリスティーンだから。皆、よろしくね」
私達の戸惑いなんて関係なくクリスティーン様はあっさりとイングリッドらの輪の中に入り込んでいた。
「アンはそのままの座席でいいわ。そこの貴方達、アンの席をもとに戻して」
クリスティーン様が指示を飛ばす。
「そして、私がこいつの席に座るわ」
クリスティーン様が私の横に座った。
「フィルの席はどうします?」
エルダが聞いてくる。
「そうね、空いている机はあるの?」
「いえ、空いている席はないんですけど」
「そう。まあ、反省の意味もあって立たせるというのもありだとは思うけど」
「えっ?」
皆、唖然としてクリスティーン様を見ている。
王太子を立たせて授業を受けさせるというのはどうなんだろう?
「あっ、丁度空いている席があるじゃない」
ニコニコしながらクリスティーン様は教壇の横の脇机を指さして言った。
「フィルは反省の意味もあって、罰として先生の横で授業を受けさせましょう」
悪魔の笑みをしたクリスティーン様が高らかに宣言したのだった。
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