92 黒鳥居の向こう側 05


「さて……」


 朝食が終わるとアリスが言った。

 ゴミは僕が引き取って空間魔法に収めたよ。


「これからどうするんだ?」

「ん、そうだね」


 やることはもう決めてある。

 女の子、大きな赤子、消えた阿方先輩、人気のない農村、夜になると襲いかかって来る餓鬼たち。

 でも、知ってる。

 魔眼・霊視をオンにすると、ここはいまでも真っ黒。

 太陽が見えているのはまやかしだ。

 僕にこう見えているのだから、一色にだって同じように見えているはずだ。


 だから。


「このまま魔力喰いを続けてみる」

「ほう」

「だって、おかしいでしょ。この場所」


 壊れるなら壊してしまった方がいい気がする。


「謎を解いたりしないのか?」

「謎?」


 アリスの言いたいことはわかる。

 あの女のこと先輩の関係とか、大きな赤子とか。

 解けばすっきりするような気もする。

 だけど……。


「アリスがそんなことを言うとは思わなかった」

「なにを言う。我はどちらかというと謎をしかける側だぞ? ならば解いてもらいたいと思うのが普通ではないか?」

「ん~でも、一つ、はっきりしてることもあるし」

「なんだ?」

「あの女の子、友達に会えなくなってるみたいなんだ」


 友達というのはあの大きな赤子のこと。


「会えなくなったからこうなったのか、こうなってるから会えなくなってるのかはわからないけど……この状態が普通じゃないなら、消えた方があの子のためになるだろうし」

「普通だったとしたら?」

「だったら……僕とは仲良くできないんじゃないかな?」


 だって、この黒い靄は人に悪いことをもたらしているから。


「ふむ……まっ、カナタがそう考えているのならそれでよかろ」

「なにか問題?」

「いや、なにもないさ」

「……何か隠してる?」

「謎解きは自分で解くから楽しいのさ」

「だから」

「謎を解くやり方の筋道は自由だ。そうじゃないと文句を言うのであればそれは、そんな脆弱な謎を置いた奴が悪い!」


 うん、その言い切りはアリスっぽい。


「なら、やってもいいんだよね」

「無論、止める気などない」

「……話が長い」

「なんだと!」


 ぼそりと一色が呟いたことに、僕も否定できなかった。

 魔力喰いを続ける。

 この間に貯蓄魔力値を確認。

 85900になってる。

 魔力喰いのおかげで現在も増え続けているけど、とりあえずこの数字を基にスキルを割り振る。

 なんのスキルを上げようかな。


「あ、そうだ」


 思い出したのでアリスに聞いてみる。

 生活魔法・失せもの探しのことだ。


「二人を探せなかったんだけど、なんで?」

「それはこの場の魔力……こちらではこの邪気やら瘴気やら呼ばれているものが強すぎて、カナタの実力では見つけられなかったということだろうな」

「そっか」

「まだまだカナタは未熟者ということだ」

「それはそうだろうけどさ」

「ちょっといいか?」


 一色が声を上げる。


「私の立場的に聞いていいものかどうか悩んでいたけれどやはり気になる。アリス、君は一体、なんなんだ?」

「気になるか?」

「気になるに決まっているだろう。君の実力も底知れないが、なによりも常識はずれなのは彼方をそんな風にしたことだ」

「そんな風にって……」


 なんかひどく言われてる?


「彼方にはこんなことができる才能はなかった。それは幼いころから見てる私だからこそわかる! だというのに、そんな彼方をこんな一流の退魔師だって驚くような逸材にするなんて……」

「どうしたと思っているんだ?」

「あなたは……魔女か? 欧州魔女連合から来たのか?」


 なんか、新しいワードが登場したよ。

 欧州魔女連合?

 そんなものがあるの?

 この世界って僕が思っていたよりファンタジーなの?


「そんなものは知らん」

「え? それなら……」

「我がどうしてカナタをこうできるか、それは簡単だ」

「簡単? なにを……」

「それはな。愛だ」

「愛⁉」

「我とカナタの愛がそれを可能としているのだ!」


 ええと……。

 いや、実は口から出まかせじゃないんだよね。

 アリスの封印が外れてるのは僕がアリスを完全に信頼しているからで、その封印がないから彼女の作ったシステムを利用できないし…………それを愛って言い換えるのは……有り…………かな。


 でも、こんなの一色は信じるかな?


「愛…………そんな」


 ズサッとその場で膝をついて絶望してる。

 信じたらしい。


「さて、カナタよ。とりあえずは吸収力を上げてみたらどうだ?」


 満足した顔でアリスが言う。

 吸収力っていうのは魔力喰いのことだよね。

 一色がいるから遠回しにしたのかな?


「こんなところを本気で壊そうとするなら今のレベルではな」

「そうだね。それなら、昨夜の分を全部使おうか」

「それもいいのではないか」

「うん、わかった」


 というわけで、魔眼のレベルを上げて魔力喰いを育てる。

 とりあえず、今あげられる最大の20まで魔眼を上げて、それを全部魔力喰いに振り分けて10にする。


「余るから神聖魔法をあげていいかな?」

「うむ」


 あ、基礎魔法も上げておいた方がいいんだっけ。

 なら、基礎魔法を20で神聖魔法を15に。

 よし、生活魔法も20にしてやれ。


「あ、個人魔力を回復するようなスキルってないの?」

「ああ、しまったな。魔力操作を覚えろ。吸収した物の一部を個人魔力に回せるようになる」

「ん、わかった」


 魔力操作ね……あ、あった。

 初期消費は100か。それなら……あ、20までいける。一気にいってやれ。


 そんなわけで、こんな感じに成長しました。



【ステータス】

●カナタ・コトヨ 男

●生命力 60/60

●生命装甲 2000/2000

●個人魔力 2320/2320(+2000)

●スキル:魔眼lv20(霊視lv05・魔力喰いlv10・遠視lv03・解析lv02)/個人情報閲覧/総合制御lv20/運動能力強化lv10/仮想生命装甲lv20/魔力最大値増加lv20/生活魔法lv20/空間魔法lv10/基礎魔法lv20/魔法応用lv10/神聖魔法lv15/変身(スライム時限定)/万能翻訳/魔法陣学lv05/透明化/気配遮断lv01/恐怖耐性lv07/並列思考lv10/戦士lv15/剣術lv15/盾術lv15/回復魔法lv10/魔力操作lv20

●蓄積魔力値:3450

●加護:福神の加護・序



 ちなみに、魔力喰いのレベルアップが功を奏してすごい勢いで邪気を吸っていくから貯蓄魔力値はまたすぐに貯まった。

 いや、これほんとにすごい。


 魔力喰い・遠視・並列思考のコンボが凄すぎて無双してる。

 魔力喰いの吸収力増加がそのまま掛け算になるってすごい。




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☆1000突破しました。

皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。



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