61 GW騒動記11


 深刻度は浄化のしづらさの度合いって一色が言っていた。

 その証拠のように吸い取った黒い靄が元に戻っている。

 そして、貯蓄魔力値が1000から4000に増えたこと。


「あれ? これって無限に貯蓄魔力値が増えるってことなんじゃ……」

「さすがに無限はないだろうが、美味しい場所であることは確かだな」


 一回十分。復活には五分ぐらいかかったかな?

 それで3000。

 うん、絶対に美味しいと思う。

 とはいえ、『ずっと繰り返すことができたら』っていう条件が付くので、実際にはそんなことにはならないと思うけど。


「かな君の食べちゃう特性があれば、相手を弱らせておくことができるだろうから便利かも」

「でも私たちの術も弱らせられかもしれないぞ」

「そこは使う場所を選んでもらうとして」


 前の席では二人が戦い方について話をしている。

 まさか、現代でこんな会話をゲーム以外で聞くことになるとは思わなかった。

 あ、そうか。

 あんまり違和感がないのはゲームのせいかもしれない。


「でも、あんなの食べて大丈夫なのか?」


 一色の疑問に紅色さんもはっとしてこちらに振り返る。


「ああ……えっと、溜め込んで力にしちゃって出すんです。旅館のアレみたいに」

「「ああ」」


 二人ともそれで納得してくれた。

 うーん。

 もっと素直に食べれば食べるほど強くなれますって言うべきだったかな?

 と、アリスを見ても、黙って肩をすくめるだけ。

『任せる』という雰囲気だ。


 うーん。

 とりあえずもうちょっと秘密で。

 紅色さんはアリスの存在になにかを感じているみたいだし、一色もあの件でアリスの力を見ている。

 僕のことは幼いころから知っているんだから、能力がアリス由来であることはとっくに察しているに違いない。


 ……あれ?

 そうなるともう秘密にしてる意味はないんじゃなかろうか?


 とはいえここには運転手さんもいる。

 とりあえず、次に話せる機会があったら話してみることにしよう。

 その前にアリスとちゃんと相談してからだけど。


 旅館に戻るとロビーで大人たちが集まっていたので紅色さんもそれに参加する。

 僕たちは自販機でそれぞれ飲み物を買って休憩。

 僕がエメマン。

 アリスがコーラ。

 一色はブラック。


 特に会話もなくぼへーっとしてしまう。

 気まずいとかいうのではなく、リラックスしている感じ。

 そうしていると、蓮、勇、翼の三人組が僕たちに気付いて近づいてきた。


「おう。……お前、大丈夫か?」


 蓮が少し言いにくそうに僕に向かって言う。


「え? うん、大丈夫だよ」


 ああそうか。倒れたところで別れたんだったかと思い出した。


「大丈夫、寝たら治る程度のことだったから」

「お、おう。そうか。おう……」


 蓮はなんだか歯切れが悪い。

 どうしたのかなと勇君と翼さんを見ると二人は苦笑している。それから勇君が「ほら」と蓮の背中を突いた。


「ええと、琴夜」

「うん」

「最初に会った時に……その……悪口言ってごめん」


 そう言って頭を下げて来る。

 悪口?

 なにか言われたっけ? と左右を見る。


「野良野郎」


 と、一色が言った。


「ああ」


 思い出した。

 最初に会った時にそんなことを言われた。


「でも、あれって一色の態度が悪かったからじゃない?」

「…………」


 僕の指摘に一色が知らんぷりする。


「ええと……こんな感じで一色も悪いんで、おあいこってことで」

「う、お、おお……」


 それからは三人を混じってそれとなく雑談する。

 下見に行った旅館のことや、彼らの師匠の話とか。


「そもそもうちの師匠が悪いのよ」


 と翼さんが言った。


「境衣さんに対抗意識があるもんだから、蓮がそれに影響受けちゃってるのよね」

「うるせぇ」


 ここの境衣さんというのは紅色さんのことだ。


「紅色さんってそんなに有名なの?」


 有名そうな感じではあるんだけど、実際にどう凄いのかはまだ誰からも聞いていない。

 紅色さんはあれで自分の手柄を吹聴する性格ではない。そんなだったら、退魔師であったことをすでに知っていたはずだ。

 そして一色は自分の親のことだから気恥ずかしいのか言いたがらない。


「それは有名よ」

「最近で話題になったのは半年前の祟り神退治だね」

「おい、あれには師匠もいたんだからな!」

「だから、蓮はそういうところよ」


 そんな感じでわぁわぁしながら教えてくれた。

 蓮の「師匠が~」「師匠も~」がうるさすぎて結局よくわからなったけど、紅色さんがなにか強い悪霊を倒したのだということは分かった。





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