54 GW騒動記04


「風呂に入るぞ」


 全裸のアリスはそう言った。

 そう言えば、今日もアリスは自分の魔力で作ったゴス服だったので、瞬で真っ裸になれる。


「いや、なんでいきなり」

「カナタの入りたかった温泉だろう? どんなものか試してやる」

「わかった。いってらっしゃい」


 久しぶりに口を開いたら、いきなりだなぁと思いつつ僕は道を開ける。

 だが、アリスはそんな僕の腕を掴んでグイグイと脱衣所へと引きずり込んでいく。


「え? あの……ちょっと?」

「カナタも一緒だ」

「いや、なんで⁉」

「夫婦が一緒に風呂に入ってなにがおかしい?」

「そうだけどそうじゃなくて」

「一緒に入らないなら……仲直りしてやらん」

「っ! ああもう!」


 そんなことを言われたら嫌だなんて言えない。

 覚悟を決めて脱衣所に入った。

 僕が服を脱いでいる間に、アリスはさっさと露天風呂に向かっていく。


「体洗わないとだめだよ」

「そんなもの洗浄で十分だろう」

「風情がないなぁ」

「む」

「こういうのは過程も楽しまないと」

「わかったそれなら、カナタが洗ってくれ」

「はぁ⁉」

「我は使い方がわからないからな。カナタに洗ってもらうしかないな」

「そんな……」

「嫌なら、洗浄の魔法でぱっとさっと終わらせるだけだ」

「くっ」


 これは完全に煽られてる。

 煽られてるだけだ。

 乗る必要はない。

 冷静になれ。


「じゃあ、いいよ。洗ってあげる」


 乗ってしまった。


「ほう」


 アリスが露天風呂と脱衣所を繋ぐ扉の前で振り返る。

 隠しもしない。


「よかろう。存分に洗わせてやるぞ」


 挑戦を受ける王者の如く、アリスは笑った。


 ヒノキ風呂の近くに洗い場がある。

 シャワー付きの蛇口の前にシャンプーとコンディショナーとボディーソープのボトル。洗面台の所にアメニティセットにスポンジがあったのでそれも持ってくる。

 木製のバスチェアにはこちらに背を向けて座るアリス。


「……じゃあ、行くよ」

「うむ」


 覚悟を決めよう。

 まずは洗髪。

 シャワーで頭を濡らしてからシャンプーでごしごしと洗う。

 一度流して今度はコンディショナーで撫でるように髪を揉む。

 その後、しっかりとシャワーで流す。

 濡れて背中に貼り付いた髪が体を洗うのに邪魔になる。

 どうしたものかと考えてアメニティセットの中に髪ゴムがあったのを思い出して取りに行き、ポニーテールにしてみる。

 だけど、長い髪はまだ背中にかかる。


「こうするのだ」


 どうしたものかと思っていると、アリスがまとめた髪をさらにぐるぐるっとしてお団子にした。


「ほれ」

「おお」

「さあ、続きを頼むぞ」

「むむ」


 目の前にある透けるような白い肌に目が吸い寄せられる。

 危ない誘惑が頭をくらくらさせる。

 考えすぎるなと自分に強く言い聞かせ、スポンジを泡立たせて背中に当てる。

 優しく体に当てて擦っていく。

 小さな背中を泡塗れにするのにそう時間はかからなかった。


「他も磨いてかまわんぞ」

「後ろだけだよ」

「ほう、後ろだけ?」

「そう」

「なら、ここも後ろだぞ?」

「ぶっ」

「ほれほれ」

「そ、そういうのは止めよう」

「いいや、止めん」

「うっ、うう……うぅぅぅぅ!」


 洗い終わった。


 まだ温泉に入っていないのにのぼせてしまいそうだ。


「ふう、さっぱりした」


 僕がぐらんぐらんしている間に前を自分でさっと洗ってアリスが言う。


「さあ、次は我が洗う番だな」

「え? ええ⁉」

「ちなみに、我は後ろだけなどとせこいことは言わんからな」


 全身すみずみまで洗われてしまった。

 もうすでに色々限界です。


「ほれ、風呂に入ろう」

「う、うん」


 誘われるまま風呂に入る。


「く、あああああ」


 湯が体に染みる感覚がたまらない。


「あああ……ぐふっ!」


 温度に馴染む感覚に声を上げていると、いきなりの重さが体を襲った。

 アリスが僕の上に乗っている。


「ア、 アリス?」

「うむ、よい湯だな」

「そうだね」


 なんで上に乗っているのか。

 それを聞くと藪蛇な気がしたので黙っておく。


「……温泉も良いな」

「……でしょ」


 僕に背中を預けてアリスが湯の感触を楽しんでいる。


「だが、遊園地も行きたいぞ」

「わかった。また機会があったらね」

「約束だぞ」

「うん」

「……ところで、我の下にあるコレはどうすればよいのかな?」

「……知らん振りしておいてください」

「そうはいかんなぁ」

「ああ、だめだめ!」


 グリグリとしてくるアリスに抵抗したりと、ばちゃばちゃと温泉の時間を過ごした。





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