第36話 不死者の王と違和感

 強烈な殺気を感じ、俺は咄嗟に背後に向けて神具を振るう。


「危ないな」


 背後に居た男は、俺の神具をかわしてにやりと笑った。

 同時に、俺を目がけて、火球が雨のように降り注いでくる。

 俺はその火球を転がりながらかわし、かわしきれないものは障壁を展開し防ぐ。


不死者の王ノーライフ・キングか!」


 周囲一面が、不死者の王が放った火球で燃え上がる。

 そして、地面を転がった俺を目がけて、不死者たちが殺到してくる。

 俺はその不死者たちを神具で斬り伏せ、氷の魔法で鎮火した。


 そんな俺を見て、

「さすがは死神の使徒。新米と聞いていたが、中々やるではないか」

 どこか楽しそうに不死者の王はそう言った。


「不死者の王のくせに、いいのか?」

「なにがだ?」

「死神の使徒を目の前にして逃げなくて良いのか? それとも、天に還りたいのか?」

「新米の使徒風情が、調子に乗るな! 我にお前が勝てるわけがあるまい!」


 不死者の王は、楽しそうに俺を目がけて魔法を放つ。

 不死者の王の攻撃を凌ぎつつ、襲ってくる不死者たちを葬りながら、俺は考える。


(何だこいつは?)


 違和感がある。

 前回会った不死者の王は臆病だった。

 不死神に賜った肉体を何よりも大切にし、傷付けられる可能性からは身を遠ざけようとしていた。


 死神の使徒は、不死者の王にとっての天敵なのだ。

 不死者の王は、俺に会いたくないはずだし、俺とは絶対に戦いたくない筈だ。


 それはフレキの教えにあったとおり。

 だというのに、目の前の不死者の王は、俺に勝てると信じ、戦いを楽しんでいるかのようだ。


「まさか、俺に勝てるつもりか?」

「当たり前だ。新米使徒風情の攻撃が、完全なる生物たる我に通じるわけがなかろう?」

「生物じゃねーだろ」


 俺は不死者の王との間合いを詰める。

 俺と不死者の王との間にいる不死者どもを神具で斬りながらだ。


「安らかに天へと還れ」


 俺は不死者の王めがけて、神具を振るう。

 不死者の王は笑顔でかわす。


 そこに俺は火球を放つ。

 その火球を不死者の王はかわさずに体で受けた。


「な? 通じないであろう?」


 不死者の王は俺の火球を受けたというのに、何の痛痒も感じていない。

 強力な魔法の障壁で体を覆っているようだ。


「ならばこれはどうだ?」


 俺は神具たる大鎌を振るう。

 不死者の王は、大鎌をかわし、俺との距離を一気に詰めた。

 間合いを詰めれば、大鎌を振るいにくいと考えたのだろう。


 俺は魔法を放ちながら、後ろに飛んで距離を取ろうとするが、不死者の王は付いてくる。


「逃がさぬぞ?」


 不死者の王は、俺の首を目がけてその青白い右手を伸ばす。

 その手首を俺は左手で掴む。その手は驚くほど冷たかった。


 手を掴んだからといって、奇跡で天に還すことはできない。

 不死者の王は不死神の祝福を受けているのだ。


「捕まえた」

 不死者の王は左手で、大鎌の柄を掴む。


「これで切り札たる神具は振るえまい」


 不死者の王はにたりと笑う。俺の背後に魔力が集まっていく気配を感じた。

 俺に接近し、掴んで逃げられないようにしてから、背後から魔法で襲う。

 そう言う作戦らしい。


「お前なぁ。それだけで死神の使徒に勝てると思っているのか?」


 俺は左手で掴んでいた、不死者の王の右手首を握りつぶした。

 鈍い音がして、不死者の王の右腕の骨が折れる。

 橈骨が皮膚を突き破り、赤い血が吹き出た。


「きさまああああ!」


 不死者の王は激昂する。

 やはり、体を傷付けられることは、不死者の王にとって耐えがたいことらしい。


「ゆるさぬぞおおおお」

 俺の背中向けて、魔法が放たれる。


「だからさぁ」


 大鎌の柄を掴む不死者の王の左手。俺が握る不死者の王の右手首。

 それを力尽くで振り回す形で、俺は不死者の王と体の位置を入れ替える。


「おおっ?」

 間抜けな声を上げた不死者の王の背中に、不死者の王自身の魔法が突き刺さっていく。


「ぎゃあああああああ!」


 それは氷の矢の魔法。

 俺が展開するであろう魔法障壁ごと俺を貫き、殺すつもりで、不死者の王自身が放った魔法。

 氷の矢は不死者の王の背骨を砕き、内臓を破壊し、腹から飛び出る。


 それを俺は障壁を使って防ぐ。

 不死者の王が盾になっているので、容易く防げた。


「不死者の王となれば体は変化しない。つまり筋肉は衰えもしないが、鍛えられもしない」


 魔力は強くなるし、魔法は鍛えられる。

 だが、肉体が変化しない不死者の王の筋力は見た目通りの強さしかない。


 魔力で身体を強化することができるとはいえ、あくまでもその効果は筋力への乗算だ。

 筋力が低ければ、それだけ効果も薄い。


「俺はフレキに、とことん肉体を鍛えられたからな」


 俺と不死者の王の勝敗を分けたのは、簡単に言えば筋力の差だ。


「きさ……きさま……」


 不死者の王は口から血を流し、瀕死の状態になっている。

 放っておいてもすぐに死ぬだろう。

 こうなれば、いつでも奇跡で天に還せる。 


「さて、お前、誰に騙された?」

「……なに……を?」

「死神の使徒は弱いと、誰に聞いた? 使徒の攻撃はお前の体を傷付けられないとけしかけたのは誰だ?」

「…………」


 不死者の王の態度は、不死者の王らしからぬものだった。

 死神の使徒に嬉々として戦いを挑む姿は異常だった。

 俺の放つ火球を、障壁を展開しているとはいえ、体でそのままうける姿も異常だった。


「……誰が言うか」

「そうか」


 不死者の王はゴフっと血を吐いた。


「お前のことも死神は救ってくださる」

「……ほざけ」

「天は悪くない場所だ」

「…………死神に災いあれ、死神の使徒に呪いあれ」

「じゃあな。……安らかに」


 呪詛を吐く不死者の王に、俺は権能を行使する。

 不死者の王は天に還った。

 彼は、もう苦しむことはない。

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