第36話 ベリーポップなポップコーンバケット
激戦を繰り広げたタケミ達、戦闘を終えた彼らは疲れ果て倒れている。
そんな彼らを遠目から狙っている勇者たちが。
勇者達が好機を前に舌なめずりをしている隣に、ウェルズがいた。
「だ、誰だお前!!」
勇者たちは武器を彼に向けた。
「おや?驚かせてしまったようですね。申し訳ございません。そうだ!ポップコーンでもいかがですか?このバケットも今ならお安くしておきますよ!ほら、かわいいおもちゃが付いてるんです!素敵でしょ?」
ウェルズは特に怯えることなく、いつもの調子で話す。
「テメェが誰かって聞いてんだよ!」
「おっとこれは……モシャモシャ……失礼。わたくし……モシャモシャ……ウェルズと……申します」
ポップコーンを合間合間に挟みながら自己紹介するウェルズ。
「食いながら自己紹介すんな!そっちのがよっぽど失礼だろ!」
「あー!これはまた失礼。このバケット、ポップコーンを何処からともなく生み出すので鑑賞のお供に最適なのですが、極めて高い中毒性があるのです」
ウェルズがそういうと勇者の一人がウェルズがもつポップコーンのバケットを叩き落した。
「うるせえ!ふざけやがって」
「あらあら」
ウェルズは空を見上げる。
宙に無数のポップコーンが飛散していた。
「なに空みてんだ……ん!」
ウェルズにつられて上を見上げた勇者の口にポップコーンが入る。
勇者は急に口に入ったポップコーンを噛み締めて飲み込む。
「ナイスキャッチでございます!どうです?美味しいでしょ?」
「ん?ああ、確かにうめえ、こりゃあ凄い、食べたことがねえ、すげぇ食いやすいのにまるで高級なステーキを食ったようなズドンとくる旨さもあって、ああ、これはうめえ!」
男は饒舌になったかと思うと地面に落ちたポップコーンを拾い集めて食べ始める。
「お、おい、何してんだよ、今そんな事してる場合じゃないだろ?」
その行動を異様に思った勇者の仲間がそう話す。
「うるせぇ!今この瞬間にも味が落ちちまってるんだよ!冷たくなっちまう!は、早く食べねぇと、もっと食わねぇと!」
もうすでに地面に散らばったポップコーンはない、彼は地面の土を掘ってそれを口に放り込む。
「どうしたの!おかしいよ!ちょっとやめて!」
仲間の一人が止めようとするが凄まじい力で押し返される。
「ポップコーン、どこだ、いやどこにもあるのか、そうだよな、映画館には絶対にあったし、遊園地だって色んなフレーバーがある、スーパーのお菓子売り場だってそうだ、歯にくっつくがキャラメルも甘くていいし、塩はいくらでも食べられるよな」
男は地面に這いつくばるのをやめて立ち上がる。
「あ、あった、こんな所に」
すると彼の頭が弾けた、まるで高温に熱せられたトウモロコシのように。
悲鳴が勇者たちから発せられた。甲高いものも低いものも。
「な、何が起きたんだよぉ!」
勇者たちが腰を抜かす。
「そのポップコーンバケットはとある廃園になった遊園地で見つかりました」
ウェルズは彼らの背後から語り始める。
「その遊園地は経営が芳しくなく、どうにかしてお客様を増やせないか思案していました。広告を出しても客足は減る一方、新しいアトラクションを建設するお金も無い。そんなある日、思いついたのです、おもちゃ付きのポップコーンバケットを売り出そうと。思惑は上手くいき客足は一気に増えました」
ウェルズは一人一人の背後から話す。
「ですがそれも一時的なもの、所詮はおもちゃ付きの入れ物ですからね。売上の殆どはポップコーンにつぎ込んでいた為また経営難に。彼は様々な商品を発売しました。おもちゃ付きのドリンクカップを始めチュロスホルダー、ピザ用ケース、ですがどれも最初のポップコーンバケット程の効果はありませんでした。結局その遊園地は廃園になりました」
ウェルズは地面に落ちたポップコーンバケットを拾い上げる。
「経営者はその事実を受け入れられなかったのか、廃園後もその遊園地にいっていたそうです。そしてある日帰ってこなくなった」
勇者たちが振り向くがそこに彼はおらず、いつの間にか彼は背後に立っている。勇者たちは酷く不気味がる。
「彼を心配に思った家族が遊園地に向かうと、彼のオフィスにこのバケットがあったそうです、溢れんばかりの真っ赤なベリーソースでもかけたかのようなポップコーンをその中に抱えて」
ウェルズはそう言って勇者達の前に出て、そのポップコーンバケットを見せた。
「いかがです?このユニークな商品、いまならとてもお求めやすい価格でご提供致しますよ」
彼はペコリのお辞儀をした。
「いやーこのポップコーンバケットのお話から学ぶことは多いですね!皆さんは何を感じましたか?私は、何事も引き際が肝心だなと思いました」
ウェルズはくるくるとその場で踊るように回る。
「おもちゃ付きのバケットが上手くいった時に、ポップコーンは程々に、ちゃんと遊園地の方にもその利益をまわしていたら。もしかしたら再生できたかもしれません。なにせ彼は遊園地の経営者ですから。いやはや面白いですねぇ!」
そういって彼はニッコリと笑う。
「く、クソッよくも仲間を!!テメェも死神の仲間だな!」
ようやく話すことが出来るようになった勇者たちは武器をウェルズに向ける。
「おや、こちらお気に召しませんでしたか」
ウェルズはポップコーンバケットを大きな革製のカバンにしまった。
息を荒くする勇者たち。
「なにやら商談という雰囲気ではなさそうですね。でも困りました〜!私全然戦えないのですよ。なんとか見逃してもらえませんかね?」
「そんなわけ行くかよ!」
勇者達が怒鳴り、そしてウェルズに向かって駆け出す。
「なるほど、ではしようがないですね」
彼は足元にその手に持った大きな革製のカバンを、しゃがみ込みながら置く。
そして優しく語りかける。
「ゴアちゃん。お久しぶりのお外ですよ」
するとカバンは勢いよく開き、その中からカバンと同じ色をした何かを解き放った。
再び悲鳴を上げる勇者達。
それは瞬く間に彼らを呑み込んで行く。
「な、なんだよ、お前は……!?!」
「おや?自己紹介が届きませんでしたか、これは失敬。私はウェルズと名乗らせて頂いております。以後お見知りおきを」
ウェルズが挨拶をしている間に、勇者達はみな呑み込まれていた。
「といったものの、次はいつお会いできるでしょうかね。楽しみにしておりますね」
そういってウェルズはニッコリと笑った。
「ほら、ゴアちゃん食べ残しですよ」
ウェルズは拾った腕をそのベージュの何かに与える。
「さてさて、今回も売れませんでしたね。こんな良いものを観れたのでチャラですけどねー!」
彼はそういって嬉しそうにスキップしながらその場を離れた。
一方その頃別の場所で待機していた勇者達。
彼らの視線の先には寝ているネラがいた。
「おい!おい!なんだ応答しねぇぞ」
「どうしよ、あいつらの魔力分かんなくなった」
「もういい、俺達だけでやっちまうぞ!」
そう話す彼らの背後から影がするっと伸びてきた。
「楽しそうですね。私もご一緒しても?」
「「「え?」」」
ユイを狙っていた者達の場所では。
「がぁっ!!!」
勇者達は水の球体の中で溺れていた。
「セコい真似してもこれかよ。しょーもね」
水に囚われた勇者達を雷が襲う。
それから少ししてタケミが目を覚ます。
「ん、あれ?」
彼は宙にフワフワと浮いていた、彼の前に何者かが先行して歩いている。
「おい、あんた何して……って、え!?バアル・ゼブル!?」
前を歩いていたのはバアルだった。
「起きたか、大人しくしていろ」
すると彼の進行方向からマリスが現れる。
「なんだマリス、随分と派手にやられたようだな」
「お腹に穴開けられたゼブル様程じゃないよ」
マリスの後ろには何やら布にくるまれたものが。
「あのー、そろそろ出して貰えませんか」
どうやらユイのようだ。
「いやー私なんて首とばされちゃいましたよー」
そう言ってフォルサイトも現れた。
彼女の腕にはお姫様抱っこされたネラがいた。
「てめぇ!さっさとおろせ!つーかなんで首とばされて生きてんだよ!」
「ははは、ギリギリ致命傷ではなかったみたいです。ラッキーでした」
ネラに殴られながらも明るく笑うフォルサイト。
これは一体どういう事なのか。
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