第35話 真っ赤な怒号


空高く飛び上がり、隕石を降らせるバアル。


そんな相手に目掛けタケミは力強く地面を蹴り跳びだした。


「やはりそうくるか」

「おれに出来る一番のやり方だ!!」


バアルはタケミに手を向ける、すると背後の雷雲から雷が放たれる。


「ならば撃ち落とすまでだ」

無数の雷がタケミを襲う。


(止まる訳には行かねぇ!このままアイツのところまで!)


雷がタケミを捉える、その瞬間。


「っ!!」

突如、タケミの正面に光の壁が出現。

雷は壁に防がれ、彼に届くことは無かった。


「な、なんだ!?」

タケミは自分の首元に光るものがあることに気付いた。それはダイゲンから貰ったお守りだ。


「ほぉ、珍しいものを持っているな。防護壁の魔法を発動する首飾りか。興味深い、その装飾品は貴様に残された僅かな文化人としての誇りかと思ったが」


バアルは身体の横に手を出す。

彼の広げた掌に雷が止まる。


「しかし、その程度の盾では我が矛は防げんぞ」


掌に止まった雷が深緑へと染まり、その輝きを強める。

「天より現れし灯よ我が矛となれ、ハスターカエリ」


彼は雷を投げ放つ。


不規則な軌道を描き飛ぶその雷は、容易くタケミを守る壁を貫いてしまう。


「うお!!」


串刺しになる寸前のところで反射的に身体を捻って避けるタケミ。しかしそのせいで跳んだ勢いが落ちてしまった。


このままではバアルに届かない。地上に落ちてしまってはもうバアルの元には間に合わない、その前に隕石が降り注いでしまう。


「やべ!!」

タケミは姿勢を戻すももう遅い、勢いはどんどんと落ちてゆく。


「ちくしょう!このまま落ちたら流石に……」

すると彼は首元で光るお守りに目が行った。


「……ひょっとして、よし!これだ!」

再び彼はバアルの方へ顔を向けた。


「うん?なんで笑っているんだアイツは」

「頼んだぜ!」

タケミがそう言うと彼の前に壁が現れる。


「おお!よっしゃこれだ!」

彼はそう言って壁を掴む。


そして反対側に行き、思いっきり壁を蹴った。

魔法の壁は彼の蹴りで砕け散る。


「ありがとうダイゲンのじいさん!有効活用させてもらうぜ!」

「なんという使い方を!!」


バアルが驚きつつも先ほどの雷を放つ。


「やっぱり撃って来るか、だったら!」

タケミは壁を展開し、それを足場にしてジャンプの軌道を変えた。


そしてバアルの元へと届く。


「ようやくだぜッッ!!!」

タケミは勢いを乗せて拳を放つ。


「グっ!!」

バアルはそれを避けきれずに吹き飛ばされる。


(食らったか、まだ先ほどの連打をくらったダメージが抜け切れていないな。しかし吹き飛ばす方向が悪かったな、横ではなく地面に向かって飛ばせば次の一撃の可能性もあっただろうに)


確かにバアルの考える通り上空から降ろさない限りはバアルの主戦場である。


しかし彼は気付いた。


「ッ!しまった!今回限りは違う!」


そう言った直後に彼の背後に衝撃が。

何かにぶつかったのだ。


「これが狙いかッ!」


バアルの背後には巨大な隕石があった。


「行くぜぇッ!!」

隕石によって止められたバアルを目掛けタケミは突っ込み、殴り飛ばす。

別の隕石からまた別の隕石へと飛ばされるバアル。


彼もただ無抵抗にやられる訳ではない。

雷を放ちタケミを迎撃しようとする。


タケミは軌道を変えようとしなかった。


(次に地上に降りた時は戦いが終わった時だ。勝敗に関係なくきっとおれの身体はもう動かねぇ。これ以上無駄に脚は使えねぇ。アイツに拳を叩き込む、それだけに集中しろ!ここで終わらせねぇと!)


既に脚は限界に達しておりもう何度も壁を蹴ることが出来なくなっていた。残された体力は全て攻撃に使う、彼はそう決めたのだ。


雷をいくら打ち込まれようがタケミはもう止まらなかった。この手段でバアルを倒せる、そう確信した彼はもう自身の傷の事など顧みることなどしなかった。


彼はバアルを殴り飛ばし、降り注ぐ中で一際巨大な隕石に叩きつけた。


「止められぬか!ならば気高き館を怨敵より遠ざけろ!!七大の壁よ!」

バアルは隕石を背にし、自身の前方に7枚の防壁を魔法で展開する。


「さあこれで最後だ!カヅチ・タケミよ!!」


「バアルッ!!オレを、討ち取ってみろォォォッッ!!!」


タケミは血塗れの怒号を上げながら進んで行く。

もう全身どこも無傷な部分はない、どうして体が動けているのかもう分からない。


タケミは右拳を繰り出す。


1枚目の防壁と衝突、ヒビが入る。


しかしタケミの拳にも大きなヒビが入った。

そして彼の腕の亀裂から再び鮮血が噴き出る。


「もうその腕は使い物にならんようだ噴きな」


壁がタケミを押しのけた。


「まだ……まだだァァ!!」

しかし彼は魔法の壁を足場にし、踏み出す、足から何かが断裂する音が。

彼の足の筋線維が切れたのだ。


もう再度踏み出す事は出来ない、これで本当に最後。

タケミは残された左拳を放つ。


その時、またあの現象が起きた。


左腕が膨張し、全体に亀裂が走る。


(やはり来たか!)

バアルは魔力を前方に展開された壁に集中させる。


「さあ、この壁を突破できるか!」


「■■■■■■!!!」

バアルの声が聞こえているのかは定かではないが、タケミは猛獣の咆哮をあげ、全ての力をその左に集中させた。


バアルの壁が一枚、また一枚と音をたてて砕けていく。タケミの腕に走る亀裂はその範囲を広げ、まるで血を推進力にしているかのように噴き出す。


そして

「……ッ!!めまぐるしいものだ」


拳は全ての壁を破壊し、バアルの体を貫いた。


拳が彼を貫通し背後にあった隕石までも砕いてしまう。


バアルとタケミはそのまま下へと落下していく。



隕石が砕けていく光景を目にしながら落下するタケミ。

彼より後に落下し始めたバアル、胴体に大穴を開けている。


これをみたタケミは笑い

「よっしゃぁ、なんとかやったぜ」


と言って、地面に向かってボロボロの拳を弱々しく上げながら落ちていった。



空に上がれば当然落ちる。

「ごへっ!」


地面に叩きつけられた、しかし今更大差はないだろう。すでにボロボロな彼の体はもう殆ど力が入らなかった。


「あー、ぜーんぜん体動かねぇ。痛くねえ所が無いくらい全身やっちまったな。どーするかなー」

彼は少しばかり考えた。


「よし、寝るか!おやすみ!どうか隕石に潰されませんようにと」


そう言って彼はあっという間に寝息をたてる。




そんなタケミを遠くからみている者がいた。


「ねぇ!みた?!」

「ああ、まさかあの大領主がやられるなんて!」

その服装からして勇者たちであろう。


「大領主とやりあってるから援軍に来いなんて言われたから来てみたけど。これは最高じゃねぇか!大領主は倒されて、それをやった奴も倒れてる!漁夫の利ってやつだよな!」


「ああ、それにアイツは死神の部下だ!この様子じゃ死神もただじゃねぇだろ!」

勇者のうちの一人が発言すると彼らのもとに連絡が入る。


魔石を取り出し応答する勇者

「おい、そっちはどうだ?」

「ああ、こっちも死神が倒れてるぞ」

「こっちも魔法使いが倒れてる」


どうやらネラとユイの場所にも同じ目的の者たちがいるようだ。


「よしよしよし!最高だぜ!」

勇者たちは歓喜する。


目の前に転がり込んできたまたとない機会、棚からぼたもちとはこういう事なのだろうか。


「いやー!良いもの見れましたねー!」

「ああ!こんなチャンスは二度と……え?」


浮足立つ彼らの隣にカラフルなバケットからポップコーンを頬張るウェルズが座っていた。


「本当はこういう展開の時、次回まで登場は控えるべきなんですが。いやはや、興奮のあまり先走ってしまいました!申し訳ございません」


ウェルズはどこかへ向かって、帽子をとりながらお辞儀をした。


「さて、せっかくのお客様ですからいかがです?ちょっとお話しでも……」


彼はそう言って勇者達に向かって振り返り笑みを浮かべる。

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