第26話 道角でバッタリランデブー


大領主バアル・ゼブルが統治する領土の首都、そこから少し離れた場所で


「クソックソックソッ!!なんでこんなことに!」


光の翼と共に街中を飛ぶものがいた。

彼女は傷口を押えていた、出血こそしていないが、青白い炎が上がっていた。


「随分とゆっくりと飛ぶのだな、女神よ」

飛んで行った先に何者かが立っていた。


バアル・ゼブル、この領土を統治している大領主。


「ッ!!!」

空中で急停止する女神。


「部下を置いて逃げるとは、上に立つには不相応」


「クソッ!!」

女神は即座にバアル・ゼブルに魔法の矢を放つ。


「先程から気になっていたのだが、その口の悪さ、どうにかならんのか?折角のドレスや装飾品が泣いているぞ」

身体を少しばかり傾け矢を避ける。


「黙れッ!!」

攻撃を続行しようとするが足に違和感を覚え、視線を向ける。

「ッ!!?ガァッッアァァァっ!!」


本来はそこにあったはずの両足がなくなっていた。

脚を失った苦痛からか、動揺からか相手は光の翼を失い地へと堕ちる。


「脚は再生せんよ。お前も見ただろう、仲間の女神たちが散っていく様を」

バアル・ゼブルの手に銃が。


「まだ、他の女神たちが!!」

地面に伏せた女神がバアル・ゼブルを見上げて叫ぶ。


「ゼブル様ー!こちら終わりましたよー」

「まったく、ちょこまかと逃げ回りやがって」


そういって現れたのは一目族のフォルサイトと魔法使いのマリスだ。


「どうやら頼みの綱であるお仲間も、プッツリ切れてしまったようだな」


「そ、そんな……」

女神の眉間に銃口が突きつけられる。


「それでは哀れな女神よ、御機嫌よう」

銃声が街にこだまする。



「この街も随分と荒らされましたねー」


「貴様ら派手に暴れ過ぎだ、そこら中浸水してる上に建物の崩壊も著しい」

街は激しい戦闘に巻き込まれたようで、廃墟といっても差し障りない程だ。


「はーい、ごめんなさーい」

「反省しておりまーす」


「うむ、次回からは善処するように。さて修復と行きたいところだが、今日は客が多いな」

バアル・ゼブルは街の外の方へ鋭い視線を向けた。




馬車に乗っていたタケミたち。

「ッ!!ユイ!」

「うん、今のは!」

「なんだいこりゃあ、こんな魔力そうそう感じるこたぁねぇな」

その中でネラ、ユイ、ダイゲンがバアル・ゼブル達の魔力を感じ取った。


「魔力?」

「どうかされましたか皆様?」

タケミとウェルズはなんの話かとポカンとしている。


「二人とも感じなかったの?今凄い量の魔力が放たれたんだよ?」

ユイが説明するも二人はピンと来ていない。


「いいや全く」

「わたくしもまーったく」

首を振る二人。


「まあ、タケミは魔力が極端に少ないからな、それを感じ取れるセンサーもあまり働かないんだろ」


「確かに会った時から思ってたけど、タケミの魔力ってどうなってるの?この世界の一般の人よりもずっと少ないよ」


「へぇ、そうなのか?」

「まあ、それを代償にしてその身体を作ることが出来たからな」

特に気にしていない様子のタケミ、一応ネラが説明するがそれも大して興味がなさそうだ。



すると馬車が停まり、ダイゲンが話しかけてきた。


「話に割って入ってすまねぇが、ここからお前さんらどうするね?この馬車は首都に向かう、今の魔力の出処に向かうなら反対側だ」


「じゃあ降りるか」

タケミが馬車から飛び降りる。

「ではわたくしも」

それに続いてウェルズもその重たそうな革の鞄と共に飛び降りた。


「え?ウェルズさんも?」

ユイが後から降りてそう言った。


「ええ、だって皆様これからあの大領主様と闘われるのでしょ?そんな面白そうなの見逃せませんよ!」

くるくるっとその場で回って嬉しそうに話すウェルズ。


「ウェルズは戦えるのか?」

「いえいえ!私は見ての通り非力なので!観るのが専門です」

ウェルズはニッコリと笑ってそういった。


「ま、私達の邪魔さえしなければなんでもいい」

ネラも馬車から降りる。


「それじゃあオイラはこのまま馬車に乗らせて貰うぜ。おっとそうだ、タケミのダンナこれを」

ダイゲンは小さい綺麗な布で出来た袋をタケミに渡す。何やら文字が書いてある。


「何これ?お守り?」

「魔除けの護りでさぁ、オイラよりもあんたとあったほうが良さそうだ。助けてもらった礼さ」


「おお!ありがと!」

タケミは礼を言ってお守りをポケットにしまう。


「ちょっと!ポッケに突っ込んでたら落とすでしょ。ほらこっち来て」

ユイが紐を取り出してお守りを首から下げられるようにしてくれた。


「いいね!ユイ、さんきゅーな」

「なんか私達貰うばっかだね」


「商売で大事なのは借りたものはキッチリ返す誠実さでせさぁ。今度のときに土産話でも聞かせてくだせえ」


馬車を動かす者に合図を送るダイゲン。

ゆっくりと動き始める馬車。


「それじゃあ、またなダイゲンのじいさん!」

「どうかお達者で」


ダイゲンを乗せた馬車は首都の方へと向かっていった。




「さて、私達も行くか」


「ではここからは私がお送りしましょう!」

ウェルズは革のバッグを地面におき、コンコンコンとノックした。


「さあ、私のラブリーなウェイキーちゃん、起きてー!私達のお手伝いをしてくださいませー」


すると鞄がゆっくりと開き黒い靄が中から溢れ始める。


黒い靄が徐々に大きな塊に、そして最後には鳴き声と共に黒馬へと成った。



「へぇ、これはまた変わったものを」


「彼女は、地上のどの馬よりも速く力強く走ると言われております!最近出会ったのです!その時湖の畔に佇む彼女を見て一目惚れしてしまいした!」


「そ、それは良いんだけど……く、首が!?」

「すげぇな!首がねぇのに舐められてる感覚あるぞ!ははは!」


二人が言う通りその黒馬には首から上が無かった。


しかし鳴き声はどこからか不思議と聞こえる。


「さあ、ウェイキーちゃん!皆さまを乗せてさしあげてくださいね!」


ウェルズがそういうと、ウェイキーは再び黒い靄となる。


靄がタケミたちの足元に広がり、彼らを持ち上げる。そして各自に一頭ずつ馬にまたがる形となった。


「さぁ!それでは参りましょう!」




「うぉーーー!はぇぇぇぇ!!」

「たしかにこれはスゲェな!私が走るよりもずっと速いぞ!」


まるで放たれた矢のように黒い軌跡を描きながらウェイキーは走っていた。


「でしょーーー?!流石!私の!愛馬!ウェイキーちゅあん!!」

嬉しそうにそう話すウェルズだが、もうすでに落馬しそうだ。


足先が馬具に引っかかった状態で、ちょいちょい身体を地面に引きずりそうになる。

大きめな岩があると上体を起こして辛うじて避けている。


「乗るの下手すぎでしょ!」


「ウェイキーちゃんは恥ずかしがり屋さんなので私が乗ると絶対こうなるんです!本当にもう可愛いンだからぁ!」


「その前向きさは見習いたいよ」

ユイは落馬寸前の彼をみてそう言った。


よく見るとウェイキーはわざと岩が飛び出ているところを選んで走っているのが分かる。他の者は平たんな道を選んで走っているのに、ウェルズのだけ走りにくいであろうゴツゴツとした道を選んで走っていた。




そんなやり取りをしていると目的の街に到着。


街の建物は酷く壊されており、そこかしこで煙が上がっている。


ウェイキーの正面から抱きつこうとしたウェルズ。

「ふぅ、つきましたね!あっという間!流石ウェイキーちゃん!ゴハァッッッ!!」


ウェイキーは即座に後ろ脚を向けて彼を蹴り飛ばした

派手に蹴り飛ばされた彼は錐揉み回転しながら飛んでいき地面に突き刺さる。


「……それで、目的の相手はっと」

「強大な魔力がそこら中に漂ってる。感知し辛いな〜」


もう慣れたのか地面に突き刺さったウェルズをスルーして、ネラとユイは乗っていたウェイキーから降りる。


「スゲェ、戦争でもあったのか?滅茶苦茶だな。これもその大領主ってのがやったのか?でも誰もいねぇな。よっと」


「プハァー!生き返りました!ありがとうございますタケミ様!」


ウェルズを地面から引っこ抜くタケミは道角に何かを見つける。


「おい、これって女神とか勇者のじゃね?」

彼が拾い上げたのはやけに綺羅びやかな装飾が施された装備の破片だ。


「そうだ」

「え?」


声がする方向に身体を向けるタケミ。

そこには燕尾服を着た細身の者がたっていた。


「タケミ!そいつが大領主バアル・ゼブルだ!!」


「だろうな!」


ネラが声を上げるとほぼ同時にタケミはバアル・ゼブルに殴りかかった。

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