45 おしゃべりな彼女
おばけの話ではありませんが怖い話です。
怖い方は申し訳ありませんがここで回れ右をお願いいたします。
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俺の彼女はおしゃべりだ。
俺と二人の時はもちろんずっとしゃべり倒しているが、しゃべる相手がいなくても、テレビやラジオやネット、新聞に本の文字にと、相手が何でもなんやかんやとずっと会話らしきことをしている。
一度、風呂上がりにテレビを見ながら髪を乾かしながら、いきなりバタンとひっくり返ったので、
「おい、大丈夫か!」
と声をかけながら駆け寄ったら、
「え?」
と、あっちの方が驚いたように答えたので、なんで倒れたのか聞いたら、
「あ、今、テレビでこの芸人がしょうもないこと言って、あまりにしょうもなかったからずっこけた」
と、笑っていた。
こんな感じで誰とでも、何とでもしゃべっているもので、
「よくそんなにしゃべることあるな」
と呆れながら言ったら、
「ありがとう、才能?」
と返ってきた。
おしゃべりなのはさびしがりだからなのか、一緒にいて俺が例えば一人で本を読んでいたりすると、
「ねえねえ、何読んでるの? 面白い?」
と、まとわりついてくるから、
「ちょっと今レポート書く用に資料読んでるんだから、一人で遊んでなさい」
と突き放すと、すねてぬいぐるみを抱きしめたりしながら、
「ねえ、ぽんちゃんひどいよね、私のこと一人でほっといて、ねえ」
と、しばらく俺の文句をぐちぐち言いながらやっぱりおしゃべりを続けている。
俺がバイクの免許を取った時は、
「ねえねえ、二ケツしよ! タンデムだっけ? 後ろ乗せてよ、そんでツーリングいこ!」
と、大喜びしていたが、残念ながら免許を取ってから1年経たないと二人乗りはできません。
その時もやっぱりぬいぐるみの「ぽん太郎」に、
「だめなんだってーケチだよねーぽんちゃん」
と、やっぱりぶつぶつ言ってたもんだ。
それから1年経ち、とうとう二ケツ解禁になったら、それからはもう乗せろ乗せろとうるさくて、近場から少しずつ二人乗りに慣れて、ちょっとずつ遠くにまで走りに行けるようになったいった。
そんな頃だった、
「みんなで山に走りに行くけど来ないか」
友人がそう言ってツーリングに誘ってくれて、
「ねえねえ、行こうよ行こうよ、行きたい行きたい!」
と、彼女にねだられて、参加することになった。
山道を十数台のバイクで連なって走る。
季節は夏、くねくねと山道を曲がりながら登っていくと涼しい風も顔をくねくねと撫でるようで、快適にバイクの一団は標高を上げていった。
「――ねー!」
「ええー?」
「だからあ、――ねーって」
「聞こえなーい」
後ろから俺にしがみつきながら彼女がいつものように話しかけてくるのだが、何しろ他のバイクのエンジン音、風の音、それにヘルメットだから何を言ってるのかよく分からない。
「なんだってー?」
「だからー」
その時、彼女の言葉に耳を傾けていた俺は、前のバイクが次々に姿勢を低くして何か叫んでいるのに気がついたが、その言葉にまでは意識が回らず、寸前になって、
キラリ!
何か横一線に光る線のような物が目に入り、とっさに、本能的に身を低くしていた。
キキーッ!
前を走っていたバイクが次々にブレーキを踏み、俺も急いで必死に踏んでバイクを止めた。
「おい、大丈夫か!」
そう呼びかけた後ろの彼女のヘルメットが、
ゴロリ
そうやって地面に落ちる。
「お、おい!」
バイクを突き放しながらヘルメットを急いで抱き上げると、
「だからあ、楽しいねーって」
と、首だけになった笑顔の彼女の口から言葉が流れ出た。
「うわああああああああああ!」
思わずヘルメットを放り投げ、俺は半狂乱になっていた。
次に俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
「一体何が……」
呆然としている俺に、友人が話してくれたところによると、
「誰のいたずらか針金が1本、道に渡してあったんだよ」
少し手前から気がついた仲間が後ろに、
「気をつけろ」
次々そうやって頭を下げ、急いでブレーキを踏んで止まっていったのだが、一瞬遅れた俺の後ろに乗っていた彼女には届かず、その針金が彼女の首を……
「う、嘘だろ! だって、あいつ、俺に楽しいねってそう言ったんだぜ? 嘘だろ?」
混乱する俺に友人が悲しそうに横に首を振る。
「って、だって、ってことは、ことは」
「気の毒だけど……」
あの一瞬で彼女の首は針金によって切り離され、
「即死だったろうって」
「嘘だ!」
俺ははっきりと聞いた、いつものあの声で、あの絵顔で、
「だからあ、楽しいねーって」
そう言ったのだ。
じゃあ、あれはなんだったんだ? なんだったんだ? なんだったんだあ!
その後、あくまで推測だがと、病院の医者がこう説明してくれた。
「その直前まで彼女は君に楽しいねと言うつもりだったんだよ。だから脳がもうそう命令して口がその準備をしてた。そして切り落とされた首が完全に離れる前に、肺から送られた空気が気管にたまっていて、それで君が抱き上げた時、その空気が声帯に届いて声になったんだろう」
そんなことがあるのか……
その後、針金を張った犯人は逮捕され、未必の故意による殺人で罪に問われた。
犯人は捕まったが彼女は帰ってこない。
「おまえ、本当に最後の最後までおしゃべりだったよな」
俺が泣きながらそう話しかけると、写真になった彼女はもう何も言わずに黙って笑っていた。
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ずっと前に知人から「本当の話」として聞いた話をアレンジしました。
本当に本当の話かどうかは分かりませんが。
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