怪盗の配信
「リスナー諸君、こんばんは。天才怪盗Vtuberの有瀬ルパン二世だよ」
画面にはシルクハットにマント、モノクルを身に着けた青髪ロングヘアーの美少女が映っていた。
一世とかおらんやろ、と思うがとりあえず黙って観ることにする。
【マッキー】[〈¥10000〉すごいネタよろしくー]
「このスパチャ、私ね」
「スパチャしてんのかよ。ってか、ハンドルネームもマッキーなんだ」
「私は将来有望そうなVにはしっかり積む派だから」
マッキーが横からいらんことアピールをしてくるが、続きを再生する。
――ってか、こんなわけわからん奴に1万も投げたのかよ。そんなお金あるなら藤堂ニコに1万スパチャしなさいよ。
「さて、今日のターゲットは俳優の大林大樹だ」
[わたし、大樹くん好き]
[イケメン俳優じゃん。なんかしたのか]
[流石に何も出てこないだろ]
「〈¥3500〉ルパンちゃんもイケメン女子」
「僕は彼が自分自身でその罪を白状すれば何もしない。だが、もし無視をするのであれば……罪をボクが暴き出す!」
マッキーがきゃあきゃあ言っている。
「カッコよくない?」
「わからん」
――わからん。
そしてマッキーは動画を停止した。この後はゲーム配信をして終わったらしい。
「どうだった?」
「うーん、気になること言っていい?」
「いいよ」
「この名前出されてた俳優の大林さんっていう人はさー、これ観てるかわかんないわけでしょ?」
「そうだね」
「観てもないのに勝手にスキャンダルとか暴露されたらビックリしない?」
「あはははは、たしかに。知らないうちに犯行予告みたいなの宣言されても本人知らないってパターンね」
「私が芸能人だったら冗談じゃねーよって思うけど」
「TJの言う通りだわ。でも、なんか事務所にちゃんと伝わるようにしてるんだって。予告状を郵送してるのか、事務所とか本人のYoutubeチャンネルのどっかにコメント送るとか」
「それって名誉棄損で訴えられたりしないのかな?」
「どうなんだろうね。でも、前に暴露された芸能人は逮捕されちゃったよ」
「え? そんな悪人だったの?」
「好感度高いアイドルだった」
「何したのよ?」
「ドラッグの密売人だったんだって。ライブハウスの楽屋で売ってたみたい」
「そりゃ、暴露されても仕方ないかぁ。リアルのアイドルってそういうのあるから嫌だね」
「VRは楽屋っていっても実質本体は自宅だからね」
私は自分用に買っていたホットコーヒーを飲みながら、考えを巡らせる。
探偵といえばコーヒーだよね。
「でも、この暴露をメインコンテンツにするのって限界ありそうだけどなぁ」
「そうかもね」
「本当にどうしようもない犯罪者の告発以外の微妙なスキャンダルだと絶対訴えられるでしょ。そのリスクを負うメリットなんかあるのかな」
「そんなことまで考えてないんじゃない?」
マッキーはその長い脚を組んで他人事のように言う。
結構な再生数いってるみたいだし、そろそろ青田買いマニアのマッキーは飽きかけているのかもしれない。
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