意外性の女
私は大学のたった一人の友達を伴って、カフェテリアにやってきた。
所詮は学食のカフェ版でしかないのでさほどメニューが充実しているわけではないが、コスパは抜群だ。
100円のコーヒーでいくら長居していても文句を言われることもない。
マッキーこと牧村由実の奢りで二人でカフェオレ(150円)を飲む。
「TJはさー、サークルとか入らないの?」
「あんまり入ろうと思ったことないかな。勉強とバイトばっかり」
サークル活動に対しての憧れがないわけでないが、二年生になってしまって今さら入ろうとも思わない。
バイトはもう辞めてしまっているが、Vとしての活動については話すつもりがないのでまだバイトをしている設定にしておく。
「マッキーはサークル入ってるの?」
「入ってるよー、アナ研とアイドル研と文芸」
「3つ?」
私の常識とはちょっと違う返事が戻ってきたことに面食らう。
――サークルって3つも入れるものなの? 講義もバイトもサボってれば可能なのかなぁ。
「いや、そんなビックリしないでよ」
「なんか……テニサーとかオールラウンドサークルとかそんなイメージだった」
「えー、なにそれー。見た目?」
「見た目」
マッキーはぶっちゃけリアルVtuberみたいな見た目だ。
はっきり言って美人オブ美人である。
テニサーとかで遊んで飲み歩いている絵しか思い浮かばない。
――ところで大学生ってなんでテニスしたがるんだろうね?
目の前の美人に訊いてみたいところだが、こやつはテニサーではないらしいので知らないのだろう。
「見た目かぁ。わたし、けっこう遊んでそうって思われるんだよねぇ」
「実際、講義サボって遊んでんじゃん」
「そういうのじゃなくてね。多趣味だからそういうサークル活動とかの遊びは手広くやるけど、けっこう真面目で一途なのよ。ナンパについて行ったこととかもないからね」
「ふーん」
――ナンパなんかされたこともないから、それがどういう自慢なのかも知らんけど。
「意外とVtuberとかにも詳しいでしょ?」
「たしかに」
「小説とかアニメとか映画とかアイドルも好き」
「なんかマッキーって意外性の女だね」
「でしょう。ただ多趣味で色んなサークルには入ってるんだけど、どこかに軸足があるっていうわけでもなくフワッとしてるからみんなと仲いいけど、特定の誰かとめっちゃ仲がいいっていうのもないんだ」
私なんか誰とも仲良くない。
なんなら、この作りもんみたいな美人が大学生になってから一番会話量が多い相手といっても過言ではない。
でもそんなに仲がいいわけではない。
つまり、彼女には私みたいな半端な友達モドキみたいのが沢山いるということなのだろう。
「じゃあ、どれか1個に絞ればいいのに」
「いやー、実はこれでも5つから減って3つなのよ」
「最初は5個もサークル入ってたのかよ!?」
――意外性の女め。
「で、たぶんまた減るのよ。最終的にはゼロもありうる。卒業まで1つは生き残っててほしい」
「多趣味だけど飽きっぽいってこと?」
「いや……追い出される」
「なんで?」
「わかんない?」
「わかんない」
……全然わかんない。
「姫扱いされて他の女の子から嫌われてハブられたり、男の子同士で誰が私に一番に告白するかで喧嘩したりとかしてサークルが険悪になるのよ、絶対。で、私が辞めれば一件落着みたいになって辞めざるをえなくなるの」
「うへー。そりゃ、私みたいなオタクにはわかんないわ。部活もサークルも入ったことないし」
「わたしだってオタクなのよ」
「ま、そんな感じしないからね」
「それも一つの悩みよねぇ」
「美人は大変だ」
「TJもかわいいけどね」
「なにそれ、女子大生ジョーク?」
可愛いのは事実だが、そんなこと言われたことない。
あとこいつが言うと嫌味っぽい。
「いや、本気で。ただ他の人がそれを言う機会を作ってこなかったんでしょ。話しかけるなオーラえぐいからね。コミュ力の鬼であるわたしじゃなきゃこうしてお茶することもできないね」
「それは否定できない」
たしかにリアルでも可愛いというのは事実なので、言われる環境にあれば言われるのかもしれない。
ちなみに私はけっこう自分のことが好きなんである。
「そんなわけでサークル外の友達って少ないからさ。これからも仲良くしてよ。たまには遊んでもらっていい? こうやって一緒の講義の後とか。バイトと勉強で忙しいだろうけどさ」
「まぁ、マッキーが楽しいならいいけどね」
「わたしは楽しいよ。TJは?」
「まぁ……興味深い、かな」
「素直じゃないねー。じゃあ、今日これから早速遊びに行かない?」
私の今日の予定は……夜に気が向いたら配信……だけ。
「どこに?」
「地下アイドルのライブ」
私の常識内の遊びの選択肢にないやつだ。
アイドルのライブっていうのは非日常感がある。
やっぱり意外性の女。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます