モチベーションマックス!

1冊の画集で私のモチベーションがマックスになった私は、昼からお絵描きにいそしんでいた。

「ここはどんな風に描いてるんだろう?」

他人のイラストを参考にして描いてもなかなか急には芽は育たない。

結局自分の画風に落ち着いてしまって少しガッカリする。

仕方がないのでリクエスト絵を5枚ほど描き上げた。そしてお腹がなる。

ダイエットしてるていなのでちょっと我慢してみた。

お花畑にいる女の子がフルーツを食べてる絵を描き終わったら、もう我慢できなくなったので、ミートボールスパゲティを食べに上着に着替え、店をあとにした。

まだまだ外は寒い。白い息がもやのように消えてゆく。スパゲッティ屋さんはランチのようで、ほぼ満席だった。

「あらアケミちゃん、席あるよ」

開いた席にすわって、いつものものを待つ。大盛ではないもののミートボールがサービス多めの物がドンと置かれる。

「いただきまっす!」

がつがつ巻いてゆく。これは太るだろうな…でも誘惑には勝てそうにない。ただ食べると動きたくなくなるので、絵がはかどるかというと…うーん。

「ごちです!」

料金とチップを置いて外に出て、すぐ近くの私のお店へ小走りで駆けていく。

飲み物を買うのを忘れていたので、水道水でお腹を満たした。

それから夜更けまでは色んなオリジナルの絵を描き続けた。一度集中すると無になって何も感じなくなる。明日はちゃんと開店できるようにしよう。夜明けに無意識のうちに気絶したように寝ていたが、はっとすぐ意識が戻る。

今日は何枚かいた?18枚か。よく頑張った方だろう。昨日休んだ分を加味して、値段をすこし上げてみた。ダメかな…。

そんな訳で定時の10時頃にはタカミのアトリエは、無事開店した。


いつものように人だかりができてくる。値段交渉してくる人は8割画商、2割一般客と紳士が言っていた。本当なんだろうか。


「この女の子とあの女の子よろしく」

「あ、は~い7万ウーロンです」

「随分するんだなぁー」

「すいません」

「いや別にいいけどね」

リクエストの5枚もキチンとさばくことができた。風景画はいつも売れ残ってしまう。あまり人気ないのかな…。やっぱり女の子しかだめなんだろうか。

額縁に飾られた風車は自信ありだっただけに、肩を落とす。

そんな時に白い紳士がやってきた。

「がんばってるかね?」

「紳士さん、風景画がうれないんです~」

「私も売れないなら、いらないな」

崖から落とされた気分になる。

「しかし良い絵はすでに無くなっている。まあ策があるからいいけどね」

「策って何ですか?」

「それより1か月後ぐらいにロンドンに来れそうかな?」

「1か月後ですか…私まだ夢を見ているみたいで…大丈夫かな…はは」

「現実だよ。船で行くからそこでも絵が描けるし、現地でも少し書き足してほしい訳だ」

「絵づくし絵まみれな毎日ですね…まあ嬉しいですけど」

「船から見える海はなかなか良いもんだよ」

紳士は窓の向こうを見ながら、言った。

「船酔いしたらどうしましょう…」

「嘔吐してる君も輝いてると思うよ」

…ちょっと引いた。

「じゃあ、また」

今日は一枚も買わずに白い紳士は言ってしまった。

今日は手仕舞いだ。

仕方ないので風景画は安くして、レジの後ろに飾ってみた。

レジでお金を出している時、必ず見える位置。

今日は女の子7割、男の子3割でいってみよう。

また作業部屋に戻ると、ドアをノックしている女の子を見つける。

タカミはドアを開け、

「ごめんね今日は終わりなんだよ」

「あの、漫画描いた事ないですか?」

びっくりしたなぜという存在を知ってる?

「どうして漫画なんて知ってるの?」

「古本屋で見つけた、これです」

「ほぅ」

まさに漫画である。出版されているという事はロンドン産かな?

「ねぇこれ借りてもいいかな?」

「漫画描いてくれる?」

「それはちょっとわからないけど、考えてみるよ」

私はそもそも漫画家だ。描けるのは当然だけど今は仕事で手一杯だ。

いづれ本を出版することになったら漫画にもチャレンジしてみよう。

そう思いながらいつものお仕事に取りかかる。


気が付くと窓から雨音がする。今日は雨の開店となるか。

今は貯金がたっぷりあるので、雨の中まったり売るのもいいかな。

そんな事を思っていると1人のおじいさんがやってきた。

15分くらいうろついてから、おじいさんは私に言った。

「色付きの絵はないのかね」

「色ですか…うちにはないですね」

「そうか…色が付くととても良いと思うんじゃがなあ」

そう言い残しておじいちゃんは出て行った。色か…。

この世界にゴピックはないだろうし、カラートーンなんてなおさら無いだろうし、水彩で描くのも大の苦手だ。考えていると、

「これとこれ下さい」

「は~い。雨の日は雨割がありますから皆にも教えてあげてくださいね」

「へぇそうなんですか、わかりました」

満足そうに紙袋と傘を持って帰っていった。

雨の日は夕方から夜にかけて人が集まって来る。実際店内は人でごった返していた。

「雨割の日でーす宜しくお願いします~」

「これ3つね」

「ありがとうございます~7万8千ウーロンになります。」

「うん、安い。肉筆かぁ~いいもんだ」

こうして風景画以外は完売となった。

そして夜。看板をクローズドにして、店の中に帰ってゆく。

今日は少しの時間だけ、背景画に水彩を試し塗りしてみた。ずいぶん薄い色になったが、これはこれで悪くはない…ような気がする。人物画でもちょっとづつ練習してみようかな。テコ入れってやつだ。

買ってきたケバブを食べながら水彩で色を塗っていった。その分枚数が少し少なくなったが、高めの設定で売るので問題はないだろう。それでも背景画は売れないと思うけど。

先ほど借りた画集にも色付きの絵は無かった。だから逆にいけるんじゃないかと勝手な判断をして甘い夢を見ていた。

もちろん通常の少年少女も描いている。それよりも儲かり過ぎて小さい金庫では足りなくなってきたので、大きい金庫を買う事にする。異世界では良い事ずくめだ。本当に夢なんじゃないだろうか。

もうこっちの世界で充分幸せなので、どうか前世には戻らないよう祈った。

ケバブを食べたのにまだ食べたりない。でもどこか新しいお店を探してみようと思いながら上着を着て寒い外に出た。

雨が雪に変わっている。今日と明日はもしかして雪?もしそうなら休業も考えている。

噴水の周りを回ったが、なかなか明かりが見つからない。スパゲティーは今日は重い。

と、1つポツンと赤提灯あかちょうちんがあるお店を見つけた。食事処だと助かるのだけれど。近づくと暖簾のれんには、『深夜食堂』とかかれている。とにかく入ってみないとどうにもならない。暖簾をくぐると、中には2人ほど客がいた。

「いらっしゃい」

中年男性が1人で切り盛りしてるのだろうか。

「あの、とにかくあったまる食べ物下さい」

「はい」

やや無口な店主はすぐに調理に入った。いい感じの空気感が流れている。実家のような安心感があった。

「とりあえずご飯と豚汁ね」

差し出された豚汁で、とても美味しそうな湯気に包まれる。

「美味しい!」

ご飯と豚汁はもう間違いない。

「生姜焼き肉と漬物、ご飯はおかわり自由」

生姜焼き肉がでてきちゃったら、もうご飯をおかわりするしかないでしょう。

「ご飯おかわり!」

充分お腹いっぱいになった。夜は気分で、スパゲティーかここにしよう。

帰ると店の前に小さい子が立っている。誰だろうと雪の中見てみると、そこには以前漫画を借りた子だった。

「どうしたのこんな時間に?」

「あの…読んでくれましたか」

「見た見た。よかったねあれ」

「漫画描いてくれますか」

「あのね」

タカミがさとすように言った。

「私今度、本を出す事になったの。そこに漫画を描こうとおもってるんだ」

「本出すの!?」

「そうそう、だからそれまで待ってくれないかな?本は返すわ」

「いいんです。差し上げます。漫画楽しみにしてます」

そういうと雪の中を駆けていった。

1人でも喜んでくれると嬉しいものだ。かじかんだ手で店のドアを開け、シャッターを閉めた。

やばい。お腹いっぱいになり過ぎて睡魔がきている。考えたが、明日は雪だし休業しようと思い、そのまま布団にくるまり寝てしまった。

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