使えない三下を追放したらお偉いさんに詰め寄られたんだが

ゴッカー

こんなダンジョン余裕だー、っつって攻略に出て、気づいたら病床で目覚めた、ってワケ

「気分はどうだ。癇癪玉」

「誰が癇癪玉だコラ……って、ギルマス!? 何でここに、っつつつ……」

「良い。楽にしてろ。他の二人は?」

「オレよか軽傷なんで通院で済んだみたいっす」

「なのに、お前だけ重傷と?」

「よしてくださいよ、そんな訳知り顔で笑うの。しかし、すんませんね、ザマァねえところを……。にしたって、ギルマス自ら労いに来てくれるたあ、オレ様も出世したもんだなあ」

「本気で言っているのか?」

「素直って評判なもんで」

「私もだ」

「へえ、つまりオレ様ってばギルマスと同じ素養アリってわけですか」

「お前に限っては、自信家だとも言われているだろう」

「あれっ、オレの噂、実はお耳に届いてます?」

「ああ、嫌ってくらいな。……お前、あのルーキーはどうした?」

「ルーキー? んー、ルーキーっすか? えー……っと。ああ! メイス使いのキュートな巫女ちゃん。やー、仲良くしたくても逃げられてばっかで、そんで顔赤くしちゃってさ。我ながら罪作り、ああ、イケメンは辛い」

「お前の顔については聞いていない。それに、そっちじゃない。他のルーキーだ」

「ああ! 我が麗しのエルフ、新星の弓取りよ」

「そっちでもない」

「……ああ!」

「女ではない!」

「ええ……? 心、読めるんすか?」

「顔に出とるわ。そんな便利なモン習得してりゃ、面と向かって聞いてなぞおらんわ」

「慧眼増々冴えて魔眼に似る、ってところですか。しかし参りましたね。女じゃないなんて。ルーキーなんて女の子ばかりじゃありません?」

「どこに目ェつけてんだ。祈祷師のことだ」

「祈祷師ィ……? いましたっけ、そんなん」

「お前、パーティから追放しただろう」

「あー、はいはい。そんなこともありましたね。……そうか、あいつ祈祷師だったんだあ。何も役に立ってなかったから、てっきり荷物持ちかと」

「ふざけているのか」

「ギルマスを前にして? まさか。大真面目っすよ。むしろギルマスがふざけているんじゃないすか? あれをルーキーって呼ぶ気持ちもわかりますけど、にしちゃあ、経験ばかり積みすぎてら。腕っ節はこれっぽちも伸びちゃいねえってのに。ククッ、もう要らねえって言われた時のあいつの顔、ギルマスにも見てもらいたかったっす」

「ふー……。なあ麒麟児よお。よりにもよって何で追放なんだ」

「何でも何も、オレはリーダーとして、パーティの連携を乱す分子を切り離しただけっすよ」

「リーダーの資質としちゃ、時に求められるだろうな。わかるとも。ただ、私が聞きたいのは、追い出し方なんて幾らでもある中で、何で追放を選んだんだ、ということだ」

「ちょっとおっしゃる意味を測りかねます」

「単に能力不足なら訓練所に勧誘。実力の不均衡なら他のパーティに紹介、斡旋。追い出す点では追放と変わらないが、ギルドメンバーに恩を売るなり、波風を立てないなり、将来的に利益になる方法なら幾らでもあったはずだ。何故、突き放すような真似を」

「いやいやいや、ちょっと、待っ、待って……いちちち」

「興奮すると体に障るぞ」

「フー、フー、フゥ……。あの、ギルマス。さっきの話、ご冗談でしょう? どこに出しても恥ずかしいヘタレの面を、ダチ同然のギルメンの前に晒す? それこそオレたちの沽券に関わりますって。それに才能のない奴なんざ、とっとと田舎に帰ってあくびの出るような人生送りゃ良いんすよ」

「犬死にする前に追放したのは、むしろ親切だったと?」

「そんな恩着せがましくしたつもりはありませんがね。あんな金魚の糞野郎、尻尾を巻いて故郷に帰りゃ良いんだ」

「おかしくないか?」

「何がすか」

「追放までにかかった時間だ。能無しとつるむには長すぎる。それに、当人の実力が追いつかなくなったとしても、それまでの貢献を考慮できないお前ではないだろう」

「ギルマスゥ……あんた、あれと組んだことがねえから、そんな呑気なこと言えるんだ。オレたちが死ぬ気で斬ったり斬られたりしてる間、あいつが何やってるか知ってんすか? オレらの背中に隠れて、祈ってばっかなんすよ?」

「祈祷師なら何もおかしくはないが」

「いやいやいや何もかもおかしいですって。バフ撒けっつってんのに、場数こなして天狗になって、どんどん手ぇ抜くんすよ? オレらが前線で体張って保ってるパーティなのに、怠け者が仲間面するんすよ? 何様だよって」

「……そうなると、そもそも何でルーキーの祈祷師を入れたかって話になる。多才な活躍を期待してたなら、自分の実力すらわかっていない駆け出しよりも、そこそこ場数を踏んだ連中を選ぶのが筋ってもんだろう」

「分配の相場が違うもんで」

「報酬の目減りを惜しんで若手を誘い、ろくに指導もせず人材を腐らせた挙句、用済みになった途端に追放か?」

「募集かけただけっすよ。それ見て志望したあいつを採用したってだけで」

「上手く人を使ったつもりで、この有様とは呆れる」

「あんま見下すんじゃねえぞ。幾らギルドマスターでもな」

「良い目だ。冒険者の目だ。で、冒険者殿、オーガの返り討ちに遭った感想は?」

「チッ……普通に渡り合えるはずだったんすよ。倒したことだってあるんす。その時はショボいバフ抜きにしても実力に見合った手応えだったんすよ。あのオーガども、普通じゃねえ」

「報告を読んだ。提出された素材も一通り調べたが、ありゃ普通のオーガだ」

「えっ? ……いや、でも」

「お前たちが狩ってきたのも、同じ普通のオーガだがな」

「……あり得ねえ」

「お前、本当は祈祷師のかけた術の効用を、正確に把握していたんじゃないか?」

「何すか、藪から棒に」

「あれが使うのは、何と言うべきか、例えるなら、使った相手を王国騎士一〇人分の実力にする祈祷だった。どんな相手にかけても同じ力量まで引き上げる。平民一人分の実力だろうが、王国騎士九人分だろうが、全く同じ力にする。対象者の実力が上がれば上がるほど効果が目減りする、かなり特殊な祈祷だ」

「……初耳っすね。だけど、納得はできます」

「そして、祈祷の用法は、何もわかっていなかった」

「は?」

「お前たちが今まで倒してきたオーガは、あれの祈祷にかかっていたんだ」

「いやいやいや、あり得ねえ! 魔物にバフかける奴なんて!」

「そうだな。だが、あの祈祷はどんな相手でも王国騎士一〇人分にする。たとえ二〇人分だろうと、一〇〇人分の実力だろうと見境なくな。そして強化の性質上、弱体化に耐性のある魔物にもすんなり通るという凶悪な祈祷だ」

「実質、弱っていた……? オレたちが今まで倒したオーガ、全員?」

「というのが、ギルドの見解だ」

「……ンだよそれぇ……。オレたち、今の今まで力量を勘違いして冒険者やってたってことっすか。カッコ悪ぃ……」

「本当にな。祈祷師なしでもやっていける様を見せようと息巻いた結果がこれではな」

「ちょっとさっきから何なんすか。ちょいちょい意味わかんねえこと言って」

「隠すな、お人好しめ。祈祷師が今どうしているか、知りたくないのか?」

「……知ってる。知ってますとも。ええ、知ってますよ。……全く、人が悪いぜ、ギルマス」

「ほう。是非、お前の口から聞かせてくれ」

「にやけるのやめねえとヤダ」

「しょうのない奴め。どれ……顔が固くてな、揉まないことには。……これでどうだ」

「……はぁー。メイス使いのキュートな巫女ちゃんと、麗しのエルフの弓取りちゃんと、ワーウルフの侍ちゃんと、パーティ組んでよろしくやってるってんでしょ」

「ああ、その通りだ。性格にそれぞれ難があり、パーティも組まずソロでやってた、死に急ぎルーキーどもを、上手くまとめている。お前が目をつけた三人をな」

「ヘッ。あいつからすりゃザマー見ろって状況なわけだ。全く人の気も知らずに出世しやがって」

「正直、私も驚いている。あの祈祷師は人間の上っ面しか見ない、善性を信じて疑わない奴だった。一癖も二癖もある人間の心に寄り添えるタマじゃない」

「本当、本当に気色悪い奴っすよ。良い子ちゃんも過ぎれば毒っすわ」

「が、ある日を境に、あれは劇的に変わった。疑うことを知り、人の抱える真意に興味を持つようになった。お前に追放された日からだ」

「あいつ、指導なんてヤワな手段だと本当に鈍感で……。苦痛を経験してやっと身になる厄介なタイプだったんすよね……」

「だから追放、というのもやり過ぎでは?」

「その話題、部外者立ち入り禁止っすよ」

「すまん」

「はあ。まあ、あとは本人が底抜けの善人なんで、放っておきゃ勝手に、厄介を抱えたルーキーたちにお節介をかける。本人の能力も相まって、ルーキーに成功体験を積ませるにゃ打ってつけなもんですから、何とはなしにパーティもまとまるって寸法ですわ」

「こうして、クエスト中にうっかりあの世に逝きかねないルーキー三人は、オールドルーキーのおかげで五体満足。今日も活躍中ってわけだ」

「もう良いっすか。洗いざらい吐きましたんで」

「一つ良いか」

「何すか」

「どうしても、その、損な役回りじゃなけりゃいけなかったのか」

「どうしてもっすね」

「先達が後続にアドバイスするなんて日常茶飯事だろう。あの三人に祈祷師をあてがうだけでも」

「それが通用すりゃ、あんたも皆も、オレ様だって頭を抱えねえって」

「……違いない」

「しっかし、あーやだやだ。若いのってどうしてこう素直じゃないんだか」

「それはお前にも言えることだがな」

「耳が痛いっす。ついでに全身も痛い」

「名誉の負傷だと思うことだ。……そうそう、それと、お前に見舞いが来ているぞ。外で待たせている」

「は? それを先に言ってくださいよ、人が悪いな」

「都合が悪けりゃ、日を改めさせるが」

「……女?」

「まあ、そうだな。過半数は」

「遠慮はいらねえっす。お嬢さん方をこちらへ」

「そういうところは相変わらずだな……。ほら、四人とも入って来い。今の話、聞いていたんだろう」

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使えない三下を追放したらお偉いさんに詰め寄られたんだが ゴッカー @nantoka_gokker

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