第十五幕 42 『救援、呼びかけ』


ーーーー テオフィルス ーーーー



 絶対に護ると誓ったのに、カティアを邪神の闇に囚われてしまった。

 人知を超えた邪神の力の前に全く歯が立たず、為す術もなく仲間たちが倒され、カティアまでも……己の不甲斐なさに怒りが込み上げてくる。


 苦痛の悲鳴を上げる彼女を何とか救おうとしたが、闇の触手に絡め取られ、それは瞬く間に脈動する闇の球体となって邪神リュートと共にカティアを飲み込んでしまった。



「お母さん!!!」


 少女の姿のミーティアが悲痛な叫びを上げる。

 彼女はシギルの力を全開にして滅魔の光を闇に向けて放っているが、それが効いている様子は全く感じられない。


 そして……!


「よせ!!ミーティアっ!!」


「お母さんを助けるの!!」


 俺が静止するまもなく、ミーティアは『闇』の中に自ら飛び込んでいってしまった!!



 くっ……!!


 ついに残されたのは俺だけになってしまった……!



 俺も黙って見ている訳ではなく、シギルの力で聖剣の力を限界まで引き出して闇に斬りつけているが、全く手応えが感じられない。


 何とかしてカティアとミーティアを闇から救い出さなければ……

 そう思うのだが、一体どうすればいいのか……と、焦りばかりが募る。



 そうこうしているうちに脈動する闇は収縮を繰り返しながら徐々に肥大化していく。

 そしてそれとともに、邪神の波動が更に増大して吐き気すら催すほどの不快な気配が辺りに満ちていく。


 邪神の完全復活……


 その時が近いのを、否が応でも思い知らされた。




 しかし、俺の心が絶望で満たされようとしたとき。

 救いの神は現れた。



 天空に浮かんだ邪神殿の上空より、十二の光が舞い降りる。

 光は人の形となり……



「大丈夫?テオフィルス」


「テオちゃん、しっかりなさい!」


「エメリール様にリヴェティアラ様!?それに……」



 何と、その場に現れたのは十二柱の神々だった。

 どうしてここに……?



「グラナとの戦いは……」


「大丈夫だ、そっちは既に決着した」


「戦いの趨勢が決してホッとしてるときに、こんなものが突然上空に現れやがって……邪神を名乗るやつが演説をおっ始めたんだ。こりゃあ只事じゃねえってんで急いで駆けつけたってぇ訳だ」


 俺の呟きにディザール様が答え、オキュパロス様が補足する。



 そうか、グラナの侵攻は食い止めることが出来たのか。

 しかし、こっちは……




「これが邪神……何という禍々しき力か。そして今も益々力を増している。早く何とかしなければ、この世界を全て闇で覆い尽くしてしまうだろう」


「……目の前にしただけで私達の力が削がれていくのが分かる。やっぱり私達とは対極の力なのね。でもその差は余りにも圧倒的だわ」



 ヘリテジア様、パティエット様が言う。

 12の神々すら圧倒する力が……やはり人間の身で抗うのは無謀だったのか……?



「絶望しては駄目よ、テオフィルス。先ずはカティアを救い出すの。この戦いはあなた達が希望なのよ」


「しかし、もはや俺の力では……」


「しっかりしなさい。あなたはカティアを護ると誓ったのでしょう?……大丈夫。いま初めて邪神を目の前にして分かったわ。カティアの……いえ、あの娘と融合した『琉斗』の魂は謂わばくさび。カティアを救い出すことができれば、きっと……」



 ……そうだ。

 何を弱気になってるんだ、俺は!!


 例え力及ばずとも、足掻いて見せろ!!


 リディア・・・・……もう二度と離れてなるものか!!



「テオフィルス……あなた、記憶が……?いえ、今はそれよりも…………これから私達の力を全開放して何とか闇を封じます。ですが……私達全員の力を持ってしても、ほんの僅かな時間を稼ぐことしか出来ないでしょう」



 俺はエメリール様の話を黙って聞く。

 俺に出来ることは何だってやってやる。



「テオフィルス……あなたはカティアに呼びかけて、あの娘の魂を呼び覚ますのです。あなたの声ならきっと……闇に囚われたカティアの魂にも届くはずよ」


「魂に……分かりました!」



 例えこの身が果てたとしても……


 いや、違うっ!!



 必ず二人で……皆で帰るんだ!!



 だからカティア……俺の呼びかけに応えてくれっ!!

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