第十五幕 35 『答え合わせ』
「はじめまして……で、良いのかな?カティア姫。そして仲間の皆さん。『魔剣士』はさっきぶりだね」
穏やかな笑みすら浮かべて、『軍師』はとぼけたことを言う。
まぁ、確かに……彼本人と会うのは初めてではあるけど。
彼は『闇』の球体を空中で弄ぶようにして、面白そうに私達を見下ろす。
悪戯が成功したときのような、無邪気とも思える表情だ。
みんな警戒して戦闘態勢は崩さないけど、戸惑うような気配が伝わってくる。
「あなたは、賢者リュート……桧原琉斗、本人と言う事で合ってる?」
これまでの経緯を考えれば、そう言う事なんだろうけど、答え合わせはしておきたい。
「その通りだね。私がオリジナルの桧原琉斗だ。そして、君は……」
「あなたの魂から複写されたのが【俺】……と言う事でしょう?」
要するに、聖域のリュートと同じ存在だと思ったのだけど……しかし、琉斗は頭を振って否定する。
「違う、そうではない。君の魂と融合したのも、オリジナルの琉斗には違いない」
「え……?二人ともオリジナル……どういうことなの?」
……そう言えば、聖域のリュートは私の魂がアニマに偏重していると言っていた。
もしかして、それが関係しているのか?
「正確には、私も、君の魂に融合した琉斗の魂も、一人の人間から分かたれた存在だ。魂の構成要素である、アニムスとアニマの二つに分割されたのさ」
「だから、二人ともオリジナルなのか……でも、一体なぜ?」
この世界に転移してきた桧原琉斗は、未来に起こるかもしれない災厄を憂いて行動してきたはず。
実際に自らの足跡を遺して、邪神に対抗する手筈を示してきたのは彼だった。
しかし…『軍師』としての活動は、むしろ邪神を復活させるためのものだろう。
彼がいつから魔族となったのかは分からないけど……二つの魂に分かれたのは、恐らくはその時なんじゃないだろうか?
「まぁ、順を追って話そうじゃないか。私もね、ずいぶん長い時間を過ごして……いつか誰かに、全ての話しをする時が来るのを、ずっと楽しみにしていたんだよ」
……自分語りが好きなのは聖域のリュートと同じか。
【俺】はそうでもなかったと思うんだけどなぁ……
しかし、すべての謎が解けるのであれば話は聞きたい。
皆も戦闘態勢は維持しつつ、私達のやり取りに口出ししないで見守ってくれている。
私は視線で琉斗に続きを促す。
そして、彼は語り始めた。
「君はウィラー聖域のリュートには会ったのだろう?なら、私がこの神殿に感じた『恐怖』についても聞いただろう」
「……この神殿に辿り着いたあなたは、得体のしれない焦燥感に囚われて、内部の調査をすることもなく逃げ帰ってしまった……と」
後世のために、ここに至るための道筋は遺したけど、彼自身は神殿の調査を行うのは諦めた……そのように聞いた。
「そうだ。それこそ正に、ここに邪神が封じられている証左だと、一応は納得したのだけど……やはり、頭には残り続けた。だから……」
「カルヴァードで色々なものを遺したあと、あなたは再びグラナへと引き返した」
そこでシェライラ王女と再会し、自らの血をグラナ皇家に遺した……と言うのはシェラさんから聞いた話。
その頃からグラナ王国は帝国となり、黒神教を国教として崇めるようになる。
まず間違いなくその時に琉斗の心境に変化があったはずなんだ。
「結局……私は神殿の謎を放置しておけなかった。『行ってはならない』という思いと『行かなければならない』という、相反する思いが私の中で渦を巻き……意を決して再びここに訪れたんだ」
ごくり……
聖域のリュートの話を聞いたときのように、私は彼の話に惹き込まれていく。
いや、それは私だけではない。
今となっては誰もが話に聞き入る態勢となっている。
そして話は核心へと至る。
桧原琉斗……彼と私の最大の謎が明らかにされようとしていた。
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