第十五幕 11 『異界亡者』
「……鬱陶しいですね。私と姉さんの戦いに水を差さないでもらいたいものです」
「悪いけど、正々堂々一対一で……なんて余裕は無いからね」
世界の命運がかかってるかも知れないんだ。
ましてや、ただでさえ人間の力を遥かに凌駕する魔族が、邪神の波動で強化されてるのだから。
「そうですか……ならば。早々に切り札を使わせてもらいますよ!!」
キィィィーーーーーンン……
あの異能の『音』が再び響き渡り、調律師の放つ黒い波動が激しくなり……途轍もないプレッシャーが襲い来る!!
「これは……あの時の!!」
アクサレナでの戦いの時、追い詰められた調律師が最後に見せようとした力……
あまりのプレッシャーに、破滅的な何かを予感させたそれは、結局『軍師』の介入によって正体は分からずじまいだった。
それが今、ついに解き放たれようとしていた。
「わざわざ待ってなんかいないわよ!![陣風龍・改]!!」
シフィル最強の特級風魔法が、風のタクトによって最大威力で撃ち出される!!
巨大な竜巻の龍がうねりながら、調律師を喰らわんと襲いかかった!!
ドォーーーンッッッ!!
「うきゃあーーっっ!!?」
空中にいた調律師に直撃した風の暴龍が爆発し、地上にも猛烈な風が吹き荒れ、土煙が舞い上がる。
体重の軽いミーティアが悲鳴を上げながら必死に飛ばされないようにしていたのを、テオが手を繋いで何とか踏みとどまった。
「どう!?やったでしょっ!!」
それフラグぅっ!!
そして、私のツッコミの通り……
土煙が晴れたとき、そこには無傷の調律師が。
黒い波動がバリアのように球状に展開され、彼女を風の暴龍から護ったのだ。
「あれを受けて……無傷だって言うの!?」
自らの最大の攻撃を防がれて、シフィルは戦慄して驚きの声を上げる。
そして、調律師は……
「……開け異界の扉よ。来たれ異界の亡者たち。この地に満ちて蹂躙せよ」
ゾワッ……!!
その気配に全身が総毛立つ。
暗雲垂れ込める荒涼とした大地のあたり一面から、黒い瘴気が立ち昇る。
この気配は……まさか!!
異界の魂を呼び出したと言うの!?
黒い瘴気は凝って人の形を取る。
一見してゴーストのようであるが、そんな可愛らしいものではないのは明白だ。
そんな黒き亡霊たちが……ざっと見渡しただけでも数百はあるだろうか。
すっかり私達は取り囲まれてしまった。
「お、お化けっ!!」
「落ち着けミーティア!!異界の魂が相手ならお前たちの
少女モードでも、お化けが苦手らしきミーティアが恐怖の悲鳴を上げるが、テオが叱咤激励して何とか持ちこたえる。
彼の言う通り、異界の魂が相手なら私やミーティアの
しかし……これだけの数。
全てを消し去るのは厳しいかも知れない……
「さあ、黒き魂よ……異界の亡者どもよ。黒き神に仇なす者共を喰らうがいい!!」
オオーーーン………
調律師が指示すると、不気味な怨嗟の声を上げながら黒い亡霊たちが一斉に襲いかかってくる!!
「ミーティア!!
「うん!!」
私は『禍祓の神祇歌』で
ミーティアも同様に
「俺たちも、少しでも数を減らすんだ!!」
「はい!!」
テオの聖剣が、ルシェーラの
「対異界の魂なら……[破邪聖風]!!」
「私も!![極天光]!!」
シフィルの破邪の風が、メリエルちゃんの上級退魔魔法が……
そして。
「プラタ!!来て!!」
ステラも自ら銀光の矢を放ちながら、ポチを喚び出して前衛に加勢させる。
みんな、自分が持つ退魔の技を繰り出して、押し寄せる黒き亡者に対抗する。
しかし倒しても倒しても……大地から黒い瘴気が次々と吹き出して、それが亡者となって戦列に加わり一向に数が減らない。
元凶たる調律師を倒さなければ……!
ーーーー シェラ ーーーー
「さあ、これで邪魔者は釘付けになったわ。さぁ、姉さん……決着を付けましょう」
「ヴィー……ええ。今度こそ、あなたを止めて見せる」
私は[飛翔]の魔法で空に舞い上がり、ヴィーと対峙する。
早くこの子を何とかしないと、カティアさん達が危ない。
前回は力及ばず敗れてしまったけど……私が何とかしなければ。
「おっと、俺を忘れてもらっちゃあ困るぜ。お嬢さん方」
「ロラン……」
「こいつと因縁があるのは、お前だけじゃない」
「……そうね。一緒に戦いましょう」
「おうよ!!」
私一人じゃ荷が重いけど、ロランも一緒なら……!
「……あくまでも邪魔をするか、魔剣士め!!いいでしょう。纏めてかかってきなさい!!」
ヴィー……あなたは、私達が止めて見せる!!
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