第十五幕 6 『神々の戦い』


ーー レーヴェラント王国 対グラナ戦線 ーー




『さぁ、あなたたち!!自分自身の奥底に眠る……秘められた力を解放するのよ!!』


 地上に降臨した、自由と解放の女神リヴェティアラ。

 彼女は自ら前線に赴くと、連合軍の将兵達を鼓舞する。

 その声が戦場に響き渡り、それと共に光の漣が彼女を中心にして戦場に広がっていく。


 そして、光を受けた兵たちは、己の身体の奥底から力が湧き出すのを感じるのだった。





「これは……テオフィルス殿と同じ力か!」


 ウィラー王国での戦いで、テオフィルスのシギルの力を目の当たりにしていたイスファハンは、それが同種のものであると直ぐに気が付いた。



「おぉ……力が漲ってくるぜ!!大将!!ここから一気に反撃といきましょうぜ!!俺も早く前線で大暴れしてえ!!」


「そうだね。……全軍に通達せよ!!ここが勝負どころだ!!押し返すぞ!!」


 湧き上がる力に堪えきれないと言った様子でラウルが言うと、アルフォンスも同意して全軍に対して指示を飛ばした。



 前線では、薄衣を纏った神々しい姿の女神が、戦士達を奮い立たせるために自ら槍を振るって、舞を舞うかのように敵軍の魔物を屠る。




 これを機に、均衡を保っていた戦況は連合軍優勢へと傾き始める。












 リヴェティアラと共に降臨した二柱の神は、地上に降り立った場所から動かずにその様子を眺めていた。



「おぅ、押し返し始めたか。んじゃ、俺らも行くか……」


「……待て、オキュピー」


「呼び方感染ってんぞ!?」


「あれを見ろ……」


 オキュパロスの抗議をまるっと無視して、ヘリテジアは敵軍の遥か奥の方を指し示す。

 そこには……



「あん?……おお、あいつぁ確か『黒魔巨兵』だったか?」


「そうだ。力を引き上げられたとは言え、あれは普通の人間たちの手には余るだろう」


「だな。よし!!俺らはアイツを潰すぞ!!」


「……うむ」


 二柱の神は、空に舞い上がると一気に前線を飛び越え、巨大な魔物達のもとに向かっていく。





 かつて、イスパル王国の王都アクサレナに突如出現した黒い巨人。

 それは、『薬師』が開発した『魔薬』によって変容を強いられて異形と化した人間の成れの果て。

 薬師が滅び去った後でも、彼が遺した魔薬によって生み出されたのだった。


 甲虫の様な装甲は生半可な武器は通じず、魔法も無効化するという強固なもの。

 そして、その巨体は、かつてのそれよりも更に大きく……優に20メートルは超えるだろうか。


 そんな巨人達が……一体だけでも脅威であるのに複数存在するのだ。




 そんな巨人達を目前にした二神は……



「こいつぁ……確かに人間たちにゃキツイな。俺の眷族……イスファハンぐれぇだろ、多少なりともダメージ与えられるのはよ」


「太古の魔境の主……とまではいかぬが、それに迫るものがある」


「そんなのが、ひぃ、ふぅ、みぃ……何体いやがんだ?」


「8体だな。これは我々でも骨が折れる」


「だなぁ……ディザールならゴリ押しで行けんだろうが。弱点見えっか?」


「……時間が欲しい」


「分かった。そんじゃ、一当ていってみっか!!」



 そう言って、オキュパロスが右腕を真横に伸ばすと、紅い光が手に収束し始める。

 それは、ある形をとっていき……


 光が収まったとき現れたのは、鮮やかな真紅の刀身をもった巨大な刀。

 オキュパロスの身の丈の倍ほどもある斬馬刀だった。



「ヘリテジア、解析はたのんだぜ!!」


「承知」



 そして、『うつろいし神は』は紅い彗星の如く、巨人に向かって突き進む。




『GRRRAAAAーーーー!!!』



 オキュパロスの接近に気が付いた巨大の一体が、大きく腕を振りかぶり殴りかかってくる!!



「はっ!!当たるかよ!!」



 巨人の拳が当たる寸前で、オキュパロスは飛翔の軌道を変え、その勢いのまま巨人の頭に肉薄する!


 そして……!



「取り敢えず頭潰したらぁ!!」



 巨大な斬馬刀が、巨人の頭の天辺から真下に向かって振り下ろされる!!



 ズガァーーーンッッ!!!!



 およそ斬撃のものとは思えない破壊音が轟いた!!



『GAAAAーーーー!!!!???』



 頭蓋を粉砕され、頭部の半ばほどまで斬馬刀が食い込んだ巨人の口から絶叫が迸った!!





「くぁ〜……随分硬ぇな、こりゃ」


 オキュパロスは、渾身の一撃で巨人を両断するつもりだったのだが……思いのほか強固な装甲を持つ巨人に舌を巻く。


 そして。



「……頭を潰しても倒せねえか。やっぱ『核』を見つけねぇ事にはな。頼んだぜ、ヘリテジア」



 瞬く間に破壊された頭部を修復し始める巨人を見て、オキュパロスは呟いた。

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