第十四幕 27 『シェラの記憶』
「ママ!パパ!お帰りなさい!!」
「お姉さま、お義兄さま、お帰りなさいませ」
父様の執務室を出ると、ミーティアとクラーナが待っていてくれた。
後ろにはマリーシャが控える。
そして、クラーナの腕にはミロンが人形の如く抱かれていた。
何だか悟ったような表情をしてる。
うん……頑張れ!
「ただいま。二人には心配かけちゃったね。マリーシャにも」
慌ただしく出発しちゃったからね……二人には説明する間もなかった。
「ううん、メリエルお姉ちゃんを助けるためって聞いたし……ママとパパは強いから、心配してなかったよ!」
「私も、お姉さまたちを信じていましたわ!」
「ふふ、ありがとう」
「ミーティア、シェラさんと一緒じゃないのか?」
あ、そうだ。
ミーティアとシェラさんは一緒にいると思ってたけど……
「シェラ様でしたら、調べ物があるとの事で図書室に……」
と、マリーシャが言いかけた時……
「あ、カティアさん。帰られましたか」
丁度、当のシェラさんが通りがかる。
マリーシャが言いかけてたけど、図書室に行ってきたらしく幾つかの本を小脇に抱えていた。
「シェラさん調べ物って何ですか?」
「ええ、以前にカティアさんが言っていた賢者……『リュート』の名前がどうにも記憶に引っかかりまして。彼に関する書物を調べれば何か思い出すかと思ったのです」
そうだ、彼女は確かにそんな事を言っていたね。
それに、賢者リュートは確かにグラナとの関わりがあった。
もしかしたら……リュートが再びグラナに戻った後の話が分かったりするかも?
「何か分かったのですか?もしかしてその本に……」
「ああ、いえ……ちょっと面白そうな小説があったので……」
ちょっと顔を赤らめて言うシェラさん。
ま、まあ、暇つぶしも必要だね……
「あ、ちゃんと『リュート』の名は思い出すことが出来たのでご安心ください」
「!!本当ですか!?」
「ええ。立ち話も何ですから……」
「それでは、そこに談話室がありますので、そちらでお話されては如何でしょうか」
マリーシャが気を利かせて言う。
彼女の勧めに従って、私達は談話室に入って話をすることに。
私達は談話室のソファに腰掛ける。
ミーティアとクラーナはマリーシャに面倒を見てもらってる。
本を読んでもらっているようだが……中身は学術書だったりするので中々侮れないよ。
……ともかく今はシェラさんの話を聞こうか。
「それで……シェラさんの記憶と言うのは、どう言うものなのでしょうか?」
「はい、まだ私がグラナを出る前の話になるのですが……」
そうして、シェラさんは語り始める。
およそ300年前……グラナ帝国が周辺国への侵略を始めるも、まだ皇帝は魔王ではなかった頃。
シェラさんが皇女としてグラナ帝城で暮らしていた頃の話だ。
「私も末席とは言え皇族でしたからね。それなりに教育は受けさせてもらってるんです。当然、グラナ帝国の歴史についても学んでおります。まだ周辺国を併合する前……王国時代の事も」
「……賢者リュートが東大陸に辿り着いたときは、まだグラナ王国だったと聞いてます」
「ええ。カルヴァード大陸における『神代』の終焉の頃ですね。そして、それは私が聞いた『リュート』の名が登場する時期とも一致します」
ふむ……
実際、リュートはグラナに辿り着いて、当時の王女であるシェライラと恋仲になったのだから……何らかの話が伝わっていても不思議ではない。
気になるのは、リュート本人が再びグラナに向かった後の足取りが残っているのか……という点だ。
これから『黒き神の神殿』に向かうにしても、まだ何か情報が遺されているなら知っておくに越したことはない。
シェラさんの話でそれが分かるのか?
今はとにかく、彼女の話に耳を傾けよう……
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