第十三幕 63 『神威降臨』


 鮮血のように赤い獣毛に覆われた巨人……元々はブレイグ将軍だったモノ。

 かつてアクサレナに現れた黒魔巨兵ほどではないが、それでも身の丈は優に5メートルは超える。


 そして、その内在する力は黒魔巨兵の比ではない。

 『鬼神降臨』を発動した時の将軍よりも強大なプレッシャーを感じる……!



 最後の最後でとんでもない切り札を切ってきたね……




「ひょ〜っひょっひょっ!!どうじゃ!?コイツは以前に主らが相手にした黒魔巨兵とは比べ物にならぬぞ!!なんせベースが違うからのぉ……!」



 ………



「『魔薬』自体も前回の戦闘データを元に改良を重ね……貴重な素材を注ぎ込んで、更にブレイグ将軍用に調整した特製薬じゃ!」



 ……クズめ。

 人を実験動物としか見ていない、正真正銘の外道だ。


 しかし、実際どうする?

 薬師だけでも厄介なのに、さらにブレイグ将軍まで……

 彼を元に戻すことは出来ないのだろうか?




 そう思っていると、メリアさんが何でもないように声をかけてきた。



「大丈夫よカティアさん。直ぐにこの戦いは決着するわ。こちらも、最後の切り札があるでしょう?」


 切り札……

 確かに、今こそそれを使う時か。

 


 私は懐から翠色の美しい宝石を取り出す。

 そして、ギュッと両手で祈りを込めるように握りしめてから、高々と天に掲げる。



「お願い、リナ姉さん……私達に力を貸して!!」



 すると……


 パァッ!!


 と、宝玉から光が溢れ出し、天に向かって翠色の光の柱が立ち昇る!!


 それは森都を覆っていた雲の切れ間に吸い込まれ……












『神威降臨……!』






 厳かな女性の声が天より響き渡り、光に包まれた何かが雲間から現れる。



 それは……3対6枚の光の翼を持った女神。

 目を瞑り、祈るように両手を組んでゆっくりと降りてくる。


 普段の快活で親しみやすい雰囲気と異なり、まさに女神と呼ぶに相応しい神々しさだ…



 こうして、悠久の時を超えて……生命神エメリナが、再び地上に降臨した。

 その光景を目の当たりにした多くの者が、跪いて祈りを捧げ……女神の地上降臨を喜び涙するのだった。



















「うわ〜……リナちゃん、演出過剰じゃない?」



「こら、そこっ!演出とか言わないっ!」



 メリアさんの呟きに、ビシッ!と指さしてツッコミを入れるリナ姉さん。


 ……色々と台無しである。



「……コホン。ま、まぁいいわ。私が地上に降りた以上……この地で非道な行いは許さないんだから!」



 薬師と赤巨人の前に仁王立ちして、リナ姉さんは宣言する。



「神……じゃと?まさか…………ええい!!例え神とて、ワシの傑作の前にはひれ伏すしかあるまい!!行けっ!!ブレイグよ!!」


『GRRRRAAAーーー!!!』



 薬師の指示を受けた巨人が、リナ姉さんを叩き潰そうと巨大な拳を振り下ろす!!!



「リナ姉さんっ!!!」


「「「エメリナ様っ!!」」」


 あまりにも圧倒的な体格差に、思わず私達は悲鳴を上げる!




 ぱしっ……




 しかし、その巨大な拳の勢いに全く相応しくない軽い音を立てて、リナ姉さんの小さな手があっさりと受け止めてしまう。


 小さな身体が微動だにすらしないその光景に、私達は唖然とする。



「歪な変容を強いられてるのね。可哀想に。……生命を冒涜する行い、許すまじ」



 すると、受け止めた掌から翠の光が巨人の身体へと伝わっていき……見る見るうちに巨人の身体が縮んで行くではないか!!


 そして、すっかり元の姿に戻ったブレイグ将軍は、再び気を失って地面に横たわる。




「すごい……。これがリナ姉さんの……神様の力?」


「どやぁ……!」


 私の感嘆の呟きに、リナ姉さんはドヤ顔である。


 何か凄く神様っぽく登場したけど、そういうところは普段通りでちょっとほっこりした。




「な、な、な………!?」



 そして、残されたのはただ一人……薬師のみ!


 ウィラー防衛戦も、いよいよ終わりが見えてきたよ!!

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