第十三幕 46 『森都モリ=ノーイエ』


 ロビィの先導の元、私達は森を進む。

 そして、二つ目の宿場も足早に通過し……遂に森都は目前となった。

 早朝に最初の宿場を出発し、体感的には昼を少し回ったくらいの時間の事であった。




 森の木々の切れ間から大きな街の影が見え始め、巡礼街道と思しき広い道が現れる。



「見えた……!あれが森都だよ!!」


「状況は……ここからじゃ分からないか?」


「いや……煙が昇ってる!!」


 テオが指さした先……確かに煙が!?

 良く目を凝らして見れば、それは幾筋も立ち昇っている……!



「もう市街戦になってる!?急ごう!!」



 果たして戦いの趨勢はどうなってるのか?

 祈りにも似た焦燥感を抱えながら私達は駆け出していく。


 少しずつ視界が拓け、森都モリ=ノーイエの全容が見え始めた。

 アクサレナ程の巨大さは無いが、王都というだけあってかなりの規模があり、およそ10万人の人口を擁する大都市だ。

 街の中にも多くの木々が生い茂り小山のようになって見える様は、正に緑あふれる『森都』と呼ぶのに相応しい。


 しかし、そんな美しい街が今は戦場となっている。

 近づくに連れて戦いのものらしき喧騒も聞こえてきた。

 先程から見えていた煙が立ち昇る場所は、火の手が上がっているのが紅く照らされている。




 やがて防壁の門……東門が見えてきた。


 事前の予想通り、こちら側には敵影は確認できず門扉はしっかりと閉じられているが……


 防壁の高さは精々が5m程度だろうか?

 メリエルちゃんが言っていた通り、それほど強固な守りとは言えない。

 あの程度の高さなら……それなりの装備さえあれば比較的容易に乗り越えてしまえるだろう。



 防壁に立っていた見張りらしき兵が、疾走して近付く私達に気が付いたようだ。


 カン!カン!カン!


 と警告の鐘が鳴り響き、弓を構えた兵が迎撃準備を始めようとするが……



「待って!!!第二王女のメリエルだよ!!!開門お願い!!」


 [拡声]の魔法も使って大声でこちらの素性を伝える。



「メリエル様っ!?おいっ!!撃ち方やめろーっっ!!」


「開門っ!!かいも〜んっっ!!!メリエル様たちが入られたら直ぐに閉めろ!!!」



 号令によって僅かに門が開く。


 そして、私達は一直線にそこに駆け込んで……遂に森都に入るのであった。
















「メリエル様!!よくぞご無事で……!!」


「喜ぶのは後だよ!!状況を教えてっ!!」


 門を開けて私達を迎え入れてくれた隊長格らしき兵士さん。

 メリエルちゃんの帰還を喜んでくれているが、今は急いで状況確認しなければ。



「はっ!……敵勢力は森都北方より侵攻、北門が破壊され現在は北街区が主戦場となってます!」


 概ね事前の予想通りの戦況だ。

 さらに詳しく聞いたところによれば……


 北街区での戦闘は最初こそ地の利を活かして戦線を維持していたが、徐々に押されている。

 味方の兵力はおよそ一万。

 一方、街に侵入してきた敵兵力はおよそ三〜五千。

 それだけならそれ程の兵力ではないが……通常兵の他、魔物が混ざっており戦力は拮抗…いや、やや劣勢か。


 ウィラー王国軍の本陣は街中央の『大樹広場』に構え、北街区との境界となる主要街路に最終防衛ラインを展開。

 ウィラー国王陛下が自ら指揮しているとのこと。


 敵本陣は北方の森の中と推測。

 温存された戦力がまだ残っている可能性もあるらしい。


 損害状況としては、北街区での戦闘が始まった際に、市民・兵ともに相当数の死傷者を出している。

 避難した市民や負傷者は大樹広場の南側にあるエメリナ大神殿に収容、神官たちが総出で治療にあたっているとのこと。




 聞けば聞くほどに状況は良くない。

 私達が参戦してどこまで事態を好転させることが出来るか……?



「ステラ、ここは予定通り行く?」


「……ええ。状況はハッキリ言って良くないけど……幸い、建物が密集してるからゲリラ戦に近く、敵方も一気に攻め込む事も出来ないみたい。敵の目的を考えれば、大規模魔法で建物ごと破壊すると言うのも考え難い。なら、ここは確実に敵を減らしていきましょう」


 事前に私やメリエルちゃんから聞いていた情報と、今しがた確認した最新の情報を整理して、そう結論付けるステラ。



「よし!ウチの作戦参謀が言うなら間違いないね!」


「……何気にプレッシャーをかけるわね」


「散開して苦戦してるところのフォローだな」


「ああ!腕が鳴るな!」


「うむ。我らシギル持ちの力、存分に見せつけてやろう」


 皆も気合十分だね!



「メリエルちゃんは本陣へ行って、私達の参戦を伝えてくれる?」


「うん、分かった!その後は私も……!」


「お、お待ち下さい!!皆様……王族の方々が自ら前線に出られるおつもりですか!?」


 それは今更だ。


 私やテオ、イスファハン王子はこれまでも前線に立って戦ってきた。

 ジークリンデ王女も自ら部隊を率いて魔物討伐などの経験があると言っていたし、ステラやメリエルちゃんだって戦闘経験はある。



「民を守り導くために神々より授かった力は、正にこのような時に使うものです。さぁ、皆……行こう!!」


「「「応!!」」」



 そして私達は戦いの場へと身を投じる。


 ウィラーを守るんだ!!

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