第十三幕 38 『宿場』
神狼ロビィと出会った私達は、彼 (オスらしい)に先導されて再び森を進んでいく。
護衛も兼ねてくれてるのか、以降は魔物に遭遇することもなかった。
「異変前の街道だったら……そろそろ宿場があるはずだよな?」
「そうだね。内部の人がどういう状況におかれてるのか……早く知りたいところだけど」
「情報収集もそうだが、宿場があるならそろそろ休んでおいた方が良いな」
その願いが天に通じたのだろうか……しばらくすると、今まで代わり映えのしなかった森の風景に変化が現れた。
「これは……道?」
「うん。多分……巡礼街道かな?」
今まで歩いてきた不整地ではなく、明らかに道として整備されたものだ。
道幅も広く主要街道と呼ぶに相応しいものに見える。
そして更に進むと、数棟の建物が見えてきた。
今はもう深夜帯なのだが、ところどころ窓から灯りが漏れている。
「あった……最初の宿場、だね」
「灯りがある……ってことは、人が居るんだよね?」
「そうだな。微かに気配も感じる」
村という程では無い小さな集落だ。
街道を往来する旅人が泊まるための宿が数軒あるだけの宿場。
だけど、主要街道だけあって建物の一つ一つはそこそこ大きく、かなりの人数が泊まれるだろう。
『ワウッ!』
「え?外で待ってるの?」
『ウォンッ!』
「うん、わかったよ。また後でね!」
「……ロビィの言ってることが分かるの?メリエル?」
「なんとなく?」
……進化が止まらないね、メリエルちゃん。
ロビィと一旦別れた私達は、入口から灯りが漏れている一軒の宿に向かう。
扉を開けて中に入ると、カラン……と控えめなドアベルの音が静寂を破って鳴り響く。
すると、すぐに慌てているような足音をさせて、受付カウンターの奥から宿の従業員と思われる女性が現れた。
「……!あ、あなた方は……まさか、森を抜けて来られたのですか?」
「ええ、一泊したいのですが……部屋は空いてますか?」
「は、はい!皆様は……6名様ですね。2人用であれば3部屋ご用意出来ます」
「はい、お願いします」
部屋割は、テオとイスファハン王子、私とステラ、メリエルちゃんとジークリンデ王女、という組み合わせになった。
「それで、その……あなた達はどうやってここまで……」
「あ、私達も情報が欲しいので……出来れば宿泊されてる方からも話を聞きたいのですが、流石にこの時間では……」
そう言いかけたとき、階段の軋む音がして……一人の男性が階下に降りてきた。
軽鎧に佩剣した姿は冒険者か兵士のように見える。
「女将さん、誰か来たのか?何やら話し声がしたが。今のこの森、しかもこんな夜更けに一体…………!?」
男性は私達を見て…いや、正確にはメリエルちゃんの顔を見るなり驚きで固まる。
「あ、アランさん。起こしてしまってすみません。お客様がいらして……」
「め、メリエル様!!」
どうやら彼はメリエルちゃんを知ってるらしい。
ということは。
「えと、私を知ってるってことは、ウィラー王国軍の兵士さん?」
「は、はいっ!私はウィラー王国軍所属で、街道筋の巡回兵、アランと申します!」
ビシッ!と敬礼しながら名乗ってくれるアランさん。
これは……情報収集するにはうってつけの相手だね。
「しかし、本当にメリエル様が来られるとは……」
「え?それはどういう事?」
「メリエナ様がメリエル様のご帰還を予見されていた……と、お聞きしたのです」
「お姉ちゃんが……それで、お姉ちゃんは無事なの?」
「……申し訳ありません、私はこの『大森林結界』を発動する前に、街道を往来する者たちに警告、および近隣の集落に避難誘導する役目なので……詳しい経緯までは把握できてないのです」
「そう……」
メリエナさんの安否が分かると期待したのだが、彼もそこまでは分からないようだ。
だが、私達の知らない情報も持っているはず。
一つ分かったのは……『大森林結界』と言うのは、メリエルちゃんが言ってた『初代女王の秘術』の事だろう。
つまり、この森の異変はウィラー側が意図的に引き起こした事象…というのは確定した。
「ところで……お連れの方々は……?」
「あ、そうそう。私と一緒に来てくれたんだ。こっちがイスパルの王女のカティア。学園の同級生なんだ。アダレットの王女でステラ。同じく同級生ね。で、レーヴェラントの王子のテオフィルスさん。カティアの婚約者だよ。それからカカロニアのイスファハン王子にデルフィアの王女、ジークリンデお姉ちゃん」
「「…………」」
メリエルちゃんが私達のことを紹介すると、アランさんと宿の女将さんはポカンと口を開けて唖然とする。
「………き、貴賓室をご用意いたします!!」
な、何だかスミマセン……
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