第十三幕 23 『ダンスパートナー』


ーーーー ステラ ーーーー



 夜会に出席するのは、カティアのお披露目パーティー以来ね。

 あの時はまだイスパルに来たばかりで、ずっと不安を抱えていたけど……今はこうして、国を代表して出席しているのが不思議に思えるわ。


 まだ何の実績もない私が代表なんて……と言う不安も少しあったけど、無難に務められたとは思う。

 シフィルが随分心配してたけど、彼女はあくまでも学園内での護衛兼友人だから、一緒に出席をお願いするのは止めておいた。






 そして、会議に出席した各国要人が招かれたこの夜会。

 以前はあまり積極的に他の人と話すことが出来なかったけど、他国の要人との顔繋ぎができる貴重な社交の場を無駄にするわけにはいかない。

 アダレットの過去の過ちにいつまでも囚われて俯いてもいられない。

 信頼を取り戻すには行動しなければ。



 そう意気込んで、色々な人と話をした。


 幸いにも、過去をあれこれ言ってくる人はいなかったので、私としても必要以上に気負うことなく応対できたのは良かったと思う。






 ふと、会場の片隅でエフィとシェラさんが話をしているのが目に入った。


 よくよく考えてみれば、彼女たちの方が私なんかよりもよっぽど居心地悪いと感じるはず。

 周りを見てみれば、悪意のある視線を向ける人はいないけど、どう接すればよいのか戸惑うような雰囲気を感じた。


 そう言えばカティアから、『自分は中々動けないだろうから出来ればフォローしてあげて欲しい』……と言われていたわね。


 それを思い出してエフィ達のもとに行こうとしたが、先に声をかけようとする人がいた。

 あれは……イスファハン王子ね。



 あの人とは、カティアのお披露目パーティーの時に少し話をしただけなんだけど……一見して軽薄そうに見えて、その実真面目な方なのよね。

 そう思うと、私はある人を思い出して……何だかソワソワした気分になった。



 イスファハン王子が声をかけると、最初は訝る様子を見せた二人も直ぐに表情を和らげて、和やかな雰囲気で談笑を始めた。


 ……先を越されたけど、あの様子なら大丈夫かしらね。

 多分、他の人も声をかけやすくなった事でしょう。


 せっかくいい雰囲気で話しているところに水を差すのも悪いので、私はまた後で声をかけようと思い、その場を後にした。




ーーーーーーーー













 宴も酣と言うところで、会場の音楽の雰囲気が変わった。

 それに合わせて会場の中央は場所が空けられる。



「あ、ダンスの時間みたいですね」


「そのようですね。……カティア様、よろしければ一曲お付き合い頂けませんか?」


「……へ?」


 ジークリンデ様の申し出に、思わず間の抜けた声が出てしまった。


 いや、だって……女同士でダンスと言うのはどうなのだろう?

 ん〜……見た目的には違和感のない組み合わせに見えるけど。

 思わずテオの方を見やる。



「せっかくのお誘いなんだ。行ってきたらどうだ?」


 ちょっと苦笑しながら後押ししてくる。

 テオ的には別に構わないと。



「ふふ、婚約者様のお許しも出た事ですし……さぁ、お手をどうぞ、お嬢様」


「は、はい……」


 う〜ん、随分手慣れた様子。

 普段から女性を誘いなれてる感じがするよ。

 その格好の通り、男性パートで踊れるのだろうね。


 何だか複雑な気分。

 【俺】という男性の記憶も持つ私が、女として男装の麗人にダンスのお誘いを受ける。

 シュールだわ。

 ……でも何だか面白そうではある。



 私はジークリンデ様の手を取って、一緒にダンス会場となった空間へと進み出た。


 そして、俄に注目を浴びる中、私達は踊り始める。
















「……ジークリンデ様は、女性がお好きなのですか?」


「気になりますか?」


「それはもう……気になりますね」


 ダンスを楽しみながらも、気になっていたことを聞く。

 変に取り繕っても気まずいので直球勝負だ。

 それで気分を害するような方ではない、と思ったのもある。



「私は性別に関わらず魅力的な方は好きですよ」


「……それは恋愛的な意味で?」


「人の付き合い全般において。もちろん、恋愛も含めてです。カティア様はとても魅力的な方なので、誘わずにはいられませんでした」


 ……どう受け取って良いのやら。

 そう言われて悪い気はしないのだけど。

 まぁ彼女も婚約者がいる女性を口説くような人ではあるまい。

 ……そう思うことにする。



「そう思っていただけるのは嬉しいです。私も、ジークリンデ様はとても魅力的な方だと思いますよ」


 もちろん恋愛的な意味はないけど、彼女が魅力的だと思うのは偽らざる本心だ。



「光栄です。しかし、こうして踊っていると……カティア様はあまりにも可憐で、とても武勇に優れる方とは思えませんね」


 可憐とか。

 何だかテオ以外からまともに女の子扱いされるのは久しく無かった気がするなぁ……



「……見た目で侮られる事はよくありますね」


「ある程度の実力者でなければ、そう思うのは仕方ありません。もちろん、私はカティア様が確かな実力者であることは感じてますよ。こうしてダンスをしていても……武に通じるものがありますね」


 それは私も同じだね。

 無駄のない洗練された彼女の所作は、武人としての実力の高さを感じさせるものだ。

 こうしてダンスしていても……運動能力が高いだけでなく、相手の動きに合わせて巧みにリードしてくれるのでとても踊りやすい。


 もちろん、テオのリードが一番だけど……彼女とのダンスもとても楽しいと思うのだった。




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