第十三幕 3 『お見舞い』


 王城に皆を連れてきた私は、彼女たちを自室に案内する。


 私の部屋は王城の奥の方……住み込みの使用人や来客用の部屋がある区画よりも更に先、王族の居住区画にある。

 当たり前だけど。


 だから城門を潜ってからも結構歩くんだよね。

 警備上の都合ってのもあるだろうから仕方がないのだけど、ちょっと不便だな……と思ったり。

 まぁ、もう慣れたよ。



「流石にこんな奥の方までは入ったことはないね〜」


「ですわね」


 遠方から来て王城に宿泊するとかじゃなければ、用は無いだろうからね


 王族の居住区の前には見張りの騎士が立っている。



「カティア様、お帰りなさいませ。ご友人の皆様も、ようこそおいで下さいました」


「お疲れ様〜」


「「「お世話になります」」」


 顔見知りの近衛騎士なので気楽に挨拶を交わして先に進む。

 オズマが連絡を入れてくれてたので、皆にも出迎えの挨拶をしてくれた。






「ここが私の部屋だよ。ただいま〜」


「あ、ママ〜!おかえりなさい!!お姉ちゃんたちも!」


 部屋の中に入ると、ミーティアが出迎えてくれた。

 そして、シェラさんの世話をしていたのだろうか……マリーシャも寝室から出てきて出迎えの挨拶をする。


 部屋に通された皆は、物珍しそうに部屋の中を眺めている。

 あんまりしげしげと見られると、何だか恥ずかしくなるなぁ……



「やっぱり王女様の部屋は違うね〜」


「ホントですわ」


「流石に広いわね」


「寮の部屋の何倍くらいかな?」


「学生寮の部屋と比べるのは……」


「学生寮はともかく……みんなの実家の自室もそう変わらないでしょ」


 レティの家に泊まったときの客室だって、この部屋とそんなに変わらないくらいだったし。

 他の皆も侯爵家に公爵家、王女に皇女だもの。





 さて、部屋で寛ぐのはあとにして……



「シェラさんの様子はどう?」


「今朝お目覚めになられたあと、一度お休みされて……今は起きていらっしゃいます。今朝方よりはお元気になられてるかと」


「そう、良かったよ。じゃあ、お見舞いも大丈夫かな」


 ということで早速寝室に入る。

 普通はここまで人を入れることは無いのだろうけど、シェラさんに無理させて出てきてもらうわけにもいかないからね。






「シェラさん、ただいま帰りましたよ。お加減は如何ですか?」


 彼女は、ベッドの上で上半身を起こして私達を出迎えてくれる。

 マリーシャの言う通り、今朝起きたときよりは幾分か元気そうに見えた。

 皆が見舞いに来ることは彼女も聞いていたようで、大勢が押しかけても特に驚いた様子はない。


「お帰りなさい、カティアさん。皆さんもわざわざ私のお見舞いに来てくれるなんて……ありがとうございます。お陰様で大分良くなりました」


 そう言うシェラさんは少し複雑そうな表情だけど、嬉しそうでもあるので、皆にも来てもらって良かったかな。



「取り敢えずは安心しました。……今回も助けていただいて、ありがとうございました」


「いえ……私は今回、何の役にも立ってませんけど」


「そんな事ないよ!シェラさん!」


「メリエルさんの言う通りですわね。調律師は最後に何か仕掛けてくるところでしたわ。あれはただ事ではない雰囲気でした」


「確かに、遠くからでもヤバそうな雰囲気が伝わってきてたよ」


 そうだね。

 おそらく、あの場に居合わせた者は全員が感じ取っていた事だろう。



「あの時シェラさんが調律師をとめてくれなかったら……こうやって皆揃って話をすることも出来なかったかもしれません。だから、ありがとうございます」


「……あの娘を止めることができて良かったわ」


 目を伏せながら、悲しそうな表情で言う。

 姉妹で戦ってるのだから……彼女が複雑な思いを抱いてることは容易に想像できる。



「……リシェラネイア様。どうか、皆さんと協力して……黒神教を打倒するために、共に戦いませんか?」


 少し遠慮がちに……しかし、はっきりとエフィが言う。

 それに対してシェラさんは、少し考える素振りを見せてから小さく頷いた。


「……ええ。それは私も考えてました。もはや事態は私の手に余るところまで来ている……本当は誰かを巻き込むのは、本意では無いのですけど」


「巻き込むだなんて……黒神教の暗躍は誰にとっても他人事ではありませんよ。シェラさんが一人で抱え込むようなものでは……」


「そうですね……ただ、私には責任があるのです」



 そう言ってシェラさんは、黒神教との因縁について語り始めた。

 


 そして、その発端となった300年前の大戦の結末……その真実がついに明らかにされるのだった。

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