第十二幕 41 『巨人』


 隠し階段を発見した私達は、騎士達の中でも特に精鋭とされる者を連れ、地下に降りていく。

 階段は長く先が見通せなかったが、途中から魔道具のものらしき明かりがぼんやりと見え始めた。


 息を殺し、足音も極力抑えて慎重に進むこと暫し。

 階段はようやく終わって、更に真っ直ぐ通路が伸びる。

 魔道具の照明に照らされた通路は幅広く天井も高いので、突入部隊の大所帯でも手狭には感じないくらいだ。



「ここまで誰とも遭遇しませんね……」


「見張りすらいないとなると……やはり待ち伏せを警戒したほうが良いかもしれません」


 ケイトリンの呟きに、リュシアンさんが改めて隊員たちに警戒を促す。



 黒爪の組織規模の全容ははっきりと分かっていないが、レーヴェラントからの情報では数十名から、多くても百名前後と予想されている。

 今現在、全員が揃ってここにいる訳ではないだろうが……全く誰にも遭遇しないのは考えにくいことではあった。





 やがて、通路の先に扉が見えてきた。

 両開きの大きなそれは固く閉ざされている。


 私達は扉の前で一旦止まって、中の気配を伺う。

 すると……


「これは……!既に誰かが戦ってる!?」


「!……別働隊が動いてるのか?」


「まだのはずだけど……行ってみよう!!」



 扉の向こう側からは戦闘の気配が感じられた。

 耳をすませば破壊音や怒号も微かに聞こえる。


 私達は、既に誰かが中で戦っていると判断して扉を勢い良く開け放ち、内部へと急いで突入するのだった。























 扉を潜ったその先も同じような通路が続いていたが、更に先に進むと広大な空間が広がっていた。

 以前発見した地下神殿はまさに神殿という雰囲気だったが……こちらはただ単に広いだけの何も無い空間だ。


 そして、そんな場所で私達が見たものは……



「……一体ここで何が起きたの?」


 広大な空間、その床はあちこちがひび割れ、何らかの肉片が散乱し……それらはグズグズに崩れて黒い灰になりつつあった。


「これは……あの時と同じ?」


 テオが言ってるのは、私のお披露目パーティーの時に表れた異形のことだろう。

 確かに……残された残骸は、アレの成れの果てと同じような感じだ。

 そんな痕跡がそこかしこにある。



「……つい先程まで戦いが行われていたようですね」


「そうだ!さっきの破壊音は……」


 そう、私が言いかけたとき……




 ドゴオーーーンッッッ!!!!


 ズズン………!!!



 爆発音が鳴り響いた!!



「行くぞっ!!」



 爆発音がした奥の方に向かって私達は駆け出す!!


 果たして……そこには何が待ち受けてるのか!?




















 それは、『巨人』だった。


 広大な空間の天井……目算で十メートルはありそうだが、その天井に頭が届きそうなほどの巨体。

 全体的な姿かたちは人型のそれだが、その肌は漆黒に染まり……というよりは、甲虫の様に硬質な黒光りする外殻で覆われ、所々に鋭いトゲの様な突起を持っている。

 その頭部も人間らしさはまるで無く……一言で表せば、それは『昆虫巨人』と言うべきか。


 そんな怪物が三体・・


 そのあまりの圧倒的存在感に、皆目を奪われ絶句するが……私はそのうち一体の肩に誰かが乗っているのに気がついた。

 その人物は、ローブを纏い目深にフードを被って顔を隠している。




 そして、そんな巨人たちと相対するのは……



「シェラさん!?」



「……カティアさん?なぜ、ここに?」


「それはこっちのセリフですよ」


 ちらっ…と、こちらを見たシェラさんは、そう問いかけてくるが、それを聞きたいのはこちらも同じだ。

 だが、その答えを聞く前に、巨人の肩に乗る人物(?)が話しかけてきた。



「これはこれは、皆さんお揃いで……どうやら役者が揃ったようですね」


「この声は……『調律師』か!!」


 かつて聞いたその声は、確かに『調律師』と呼ばれていた魔族のものだった。



「ええ。お久し振りですね、王女さま。ご機嫌いかがですか?」


「……お陰様で」


 よくもまぁ、しれっと言うもんだね……



「いったい、ソイツは何なの?」


「ふふふ……『薬師』の研究成果の集大成ですよ。人間を進化させ、さらなる高みへと至らせる……その崇高なる目的を果たすためのね」


「……それは、『魔薬』?」


「ええ。お姫様から聞いたのですね」


 ……やはりエファメラさんの存在は知られてるのか。

 恐らくは、この状況も……


「待ち伏せしていたと言う事?」


「この拠点が監視されていることは分かっていました。であれば、それを逆手に取って……研究成果の確認も兼ねて、厄介者を纏めて葬る良い機会かと思いましてね」


「まさか、あなたが自らを囮にするとは思いませんでしたよ」


 そう、シェラさんが言う。

 ……そうか、彼女もまんまと誘き出されたと言う事か。



「『黒爪』のメンバーはどうしたの?……何となく想像はつくけど」


 多分、ここに来る途中で見た『異形』の残骸は……


「ご想像の通りですよ。彼らは喜んで、自らその身を黒き神に捧げてくれました。その多くは変容に耐えられず『出来損ない』と成り果てましたが……この『黒魔巨兵』はご覧の通り、『薬師』のスペシャルブレンドにも耐え、見事に進化を果たしてくれました」


 表情は見えないが、その声音から彼女が愉悦に浸ってるのが良く分かった。



 人の命を弄ぶ外道め……!!


「今度こそ逃さないよっ!!!」



 私のその言葉に、一気にその場の緊張感が増す。



 そして、かつてないほどの激戦が始まる!!

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