第十二幕 16 『魂の記憶』


 本日の武術対抗戦第一回戦は全て終わった。

 うちのクラスは男女とも勝ち抜いて、優勝に向けて幸先の良いスタートを切れたと思う。


 他にもいくつか競技はあったのだけど、結局見に行けなかった。

 聞いた話ではユーグがチェスの試合で一回戦、二回戦を勝ち抜いたとの事。

 そう言えばルシェーラの試合が終わった後に初戦があったみたいで、途中からいなくなってたね。




「順調なスタートよね。これは優勝目指せるかも」


「もちろん狙うでしょ」


「当然ですわね」


「ルシェーラもフリードも今日の相手を突破できたのは大きいよね。まだ昨年の優勝者が残ってるみたいだけど」


 そう。昨年優勝した3年生の先輩が男女ともに残ってる。

 初戦は力の差がありすぎて一瞬で終わってしまったので、殆どその実力を見ることは出来なかった。

 ただ、両者とも相当な力があることは肌で感じられたが……



「ブロックが違うので、戦うとしたら決勝リーグ戦ですけど……楽しみですわね。もちろんトーナメント戦も気は抜けませんけど」


 油断してはならないのはそうだけど……今日の第一回戦を見た感じだと、ルシェーラのトーナメント突破は揺るがないだろうね。

 フローラさんは微妙なところかな……

 おそらくガエル君とフリードもトーナメントは問題無く、昨年の優勝者と当たるのは決勝リーグになるのはルシェーラと同じだね。



 こうして対抗戦の初日は終わり、熱い戦いは明日も続くことになる。




















「ママ〜、おかえりなさ〜い!」


「おかえりなさいませ、カティア様」


「うん、ただいま〜」


 王城の自室へと帰ってくると、いつも通りミーティア(+ミロン)とマリーシャが迎えてくれた。


 公演が忙しい時はエーデルワイスの邸に行くことが多いが、そうでない時は半々位の割合で王城と邸を行き来してる。

 そんな二重生活にもだいぶ慣れたね。



「今日は対抗戦の初日との事でしたが……如何でしたか?」


「私の出番はまだだけど、観戦だけでも楽しかったよ。武神杯とはまた違う熱気があるよね。学生のノリというか。……マリーシャも学園生の時に対抗戦には参加したんだよね?」


 基本的に全員参加だからそのはずだ。

 マリーシャは主席だったということだけど、何の競技に出たんだろ?


「はい。私は3年間とも武術対抗戦に出場してました。2年、3年時には準優勝したのですよ?因みにその時の優勝者はケイトですね」


「マリーシャおねぇちゃんもケイトリンおねぇちゃんもすご〜い!!」


「えっ!?マリーシャが!?」


「ふふ……意外でしょうか?」


 コクコク、と頷く。

 学園主席の才女とは言え……こうして普段から接していてもそんな雰囲気が感じられない。


「メイドの嗜みの一つですから」


 え……?

 そうなの?

 バトルメイドは創作物の中だけかと思ってたけど……


「もちろん、普通はそこまで求められません。ただ、私のように王族の方々や上位貴族の側仕えには、ある程度は武の素養が必要なのです」


 まぁ確かに、ある意味では最終防衛ラインなのかもしれないけど。


 う〜ん……そうすると、俄然マリーシャの実力が気になるなぁ……


「もちろん、カティア様と並んで戦える程のものではありませんよ。あくまでも陰ながらお護りする為のものなので、戦闘技術もそれに特化したものですし」


 私の視線から意図を正確に汲み取って、そう言うマリーシャ。

 でも、学園の対抗戦で準優勝するくらいなのだから、それは謙遜と言うものだろう。



「あ、そう言えば……ケイトリンも学園の出だったの?」


「ええ。聞いてませんか?」


「うん」


「そうですか。まぁ、あの娘は自分の事をあまり話さないですからね……」


 確かに……聞けば教えてくれるだろうけど、自分からは話さないかも。

 秘密主義とかじゃなくて、単に自分語りが恥ずかしいだけだろう。



























 …

 ……

 ………ん?



 これは………久し振りの感覚。

 例の『夢』だ。


 これまでの経験から、おそらくは『魂の記憶』を垣間見ているのだと思う。

 そして、いつも問題に対するヒントになったり、事実を補完するタイミングだったりするんだよね……


 夢は置かれている状況や記憶を整理するために見ている、なんて言われていたりするから……それが関係しているのかもしれない。






 視界を塗りつぶす白い霧のようなものが晴れていく。

 そして、場面は……どこかの宿の一室だろうか?

 どうやら二人部屋らしく、ベッドが2つある。



 私の前世の姿と思われるリディア王女と、パーティーメンバーである魔導士のリシィが、それぞれベッドに腰掛けて会話している様子。

 意識を集中すると、二人の会話の内容がはっきりと聞こえた。



『ねぇリシィ?グラナってどんなところなの?』


『どういうところ、か……まぁ、広い国だからね。色々あるわよ』


 ……リシィはグラナの出身?

 そうか、それでこの夢を見ている……のか?


 でも、過去の人物では……現実の世界で会って話を聞くこともできない。



『……ねぇ、リディアは私のこと恨んだりしないの?』


 探るような、恐れるような……複雑な表情でそう尋ねるリシィ。


『え?なんで?』


 問われたリディアはキョトンと不思議そうな顔をする。


『何でって……末席とは言え私もグラナの皇族の一人。こんな混乱を引き起こした相手に……』


『別にあなたのせいではないでしょ。黒幕は黒神教なんだし。それに、祖国の事を何とかしたいからこそ私達に力を貸してくれるのよね?それに、リシィは良い娘だもん』


『……ふふ、本当にお人好しよね。あなたも、テオフィールも』


『そうかな〜?』


『そうよ。ところで……あなた、テオフィールとはどこまで行ったのかしら?』


『に゛ゃっ!?ど、どょこまでぇって!?』


『あら……その様子じゃまだ……』


『にゃにゃにゃにゃにお言ってるのかにゃ!?』



 ……凄い事実を聞いた気がする。

 グラナの皇族?

 リシィが?


 そんな事は歴史では語られていない。

 少なくとも私が知る限り、ではあるが。


 しかし、そう言われてみれば確かに立ち居振る舞いには気品が感じられる。

 そして、その顔立ちも……ん?


 改めて彼女の顔を見て見る。

 そして、記憶の片隅が刺激されるのだが……

 どこかで見たような……という感覚がある。

 だけど、それが誰だったのか……思い出すことができない。


 そう言えば最近、前世のゲームの登場人物について話題になったね……

 だけど、雰囲気は似ているけど、髪や瞳の色が全く異なるし、そもそも時代が違う。



 夢の中では真っ赤になったリディアと、それをからかいながらも優しい表情のリシィ……とても仲がよさそうだ。



 私は記憶の糸を探るように彼女たち……リシィの様子をじっと伺うけれど……


 う〜ん……もう少しで思い出せそうな、そうでもなさそうな……


 そんなモヤモヤしたもどかしさだけが残るのだった。

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