第十一幕 54 『牙』


ーーーー ロウエン ーーーー




 さて、こいつはどうしたもんスかね?



 取り敢えずダンジョン探索は、遭遇する敵はオイラの斥候スキルの数々を駆使して軒並みスルーして来たッスけど。


 ……え?

 攻撃力もそこそこあるんじゃなかったか…ッスか?


 それはそれ、これはこれッス。

 無駄な戦いは、避けられるなら避けるに越したことはないッスよ。



 それより、罠がてんこ盛りで苦労したッス。

 他のみんなは大丈夫だったんスかね……


 まぁ、今は自分の事ッス。



 流石にボスは避けられないとは思ってたッスけど。

 これは予想外だったッス。



『ふはははっ!!よくぞここまで辿り着いた…ッス!!先に進みたくば、オイラを倒していくがよい!ッス!!』


 腕を組んでふんぞり返って偉そうにそう言うのは、『オイラ』ッス。

 何か魔王かなんかのつもりみたいッスけど、威厳なんてありゃしない。

 その上スベるなんて……我ながら情けなくなるッスよ。



『……ここはツッコむとこッスよ?』


「オイラってこんななんスか?」



 ちょっとヘコむッス。










 ま、おふざけはここまでッス。


 自分自身が相手とは思いもよらなかったッスけど、やることは変わらないッス。


 久しぶりに本気を出すッスよ。




 そして、かつての……傭兵時代よりも前・・・・の自分を思い出し、感覚を研ぎ澄まして自分の中に眠っていた闘争本能を呼び覚ます。

 頭の中がクリアになり、シンプルな思考に切り替えていく。

 そうしては、ただ目の前の敵を斃すだけの『なにか』になる。












 俺はここ最近ははあまり使わない長剣を構え、敵と対峙する。



『牙はまだ残っていたようだな』


「無駄なお喋りは終わりだ。行くぞ」



 そう宣言して俺は一息でヤツの懐に飛び込み、剣を袈裟に振り下ろす。


 キィンッ!!



 それは当然のようにヤツに弾かれるが、その一撃を皮切りに激しい斬撃の応酬が始まった。



 キィンッ!!


 キキィンッ!!


 ギィン!!



 幾度となく甲高い金属音が鳴り響き、その度に火花が散る。


 相手が完全に俺の力や戦い方をコピーしているのなら、まともに戦っても膠着状態になるだけかもしれない。


 頭の片隅でそう思ったが……それは更に端に追いやられ、意識は増々研ぎ澄まされて戦いに没頭していくのだった。

































 …

 ……

 ………ん?



「あれ?オイラは……?っ!?痛いッス!!?」


 ふと気がつくとオイラの全身は傷だらけであちこちち激痛が走り、目の前にはヤツが膝をついていたッス。



『うう……何だかカッコよく戦いが始まったと思ったのに……あっさり終わりにされた気がするッス』


「何だかよく分からないッスけど、メタ発言は止めたほうがいいと思うッスよ」



 まぁ、オイラの扱いなんてそんなもんス。


 いつもチャラくて愉快なロウエンさんには、シリアスは似合わないッスからね。

 それで良いッス。



 戦う力は、大将とかカティアちゃんとか……他にもゴロゴロいるッスからね。

 そういうのは任せて、オイラはオイラにしか出来ない事をやるだけッス。






『なにカッコつけてるんスか。ほら、とっとと先に行くッスよ』


「言われなくても分かってるッス。少しくらい感傷に浸ってもいいじゃないッスか」



 お互いに軽口をたたくが、ヤツは直ぐに光の粒になって消えてしまったッス。





 さあ、先に進むッス!


 こんな厄介なダンジョン、この先もオイラのスーパーでエクセレントでワンダホーな斥候スキルがまだまだ必要になるはずッス!!


 みんな、待ってるッスよ!




 そして、早くオイラの怪我を治して欲しいッス!!



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