第十一幕 53 『食わせ者の戦い方』


ーーーー ケイトリン ーーーー



 単独でダンジョンを踏破して、ついにボス部屋に辿り着いた。

 途中の敵は、見つからないようにやり過ごしたり、それが難しければ撃破したり……まぁボチボチだ。





 そして、ボス部屋の扉を開けて、そこで遭遇したのは……




「あぁ、そう言うコンセプトなのね」


『そ。さぁ、どうする?『あんた』の事だから、色々考えを巡らせてるんでしょうけど。ここは避けては通れないよ?』



 目の前でウザいニヤニヤ笑いを貼り付けてるのは、『私』だ。

 いや〜、我ながらイラッとくるわ〜。


 ちょっと反省……




 とにかく、こいつをはり倒さないことには先に進めないらしい。


 『自分自身を乗り越えてみせろ!!』ってか。


 全く……私はどこぞの主人公じゃないんだよ。

 こういうのはカティア様とかテオフィルス様の領分でしょーに。







「あんたが『私』なら、カティア様と逸れてるこの状況が如何にマズイか分かるでしょう?」


『……リュシアン様にバレたら減給』


「そうよっ!!それがどんなに恐ろしいことか……分かるでしょう!?」


『うう……これ以上の減給は勘弁して』


「そうでしょうそうでしょう。と言う事で、一刻も早くカティア様と合流するために、通らせてもらうよ」


『……仕方ないね』



 そうして、先に進むために『私』の横を通り過ぎ……



『って、そんなわけ無いでしょーが!!』


 行く手を阻むように大剣クレイモアを薙ぎ払ってきた!!



 ちっ!

 惜しい!!



『いや、惜しくないから』



 まぁ、ノリツッコミは予想してたので難なく躱せたのだけど。



「あ〜も〜めんどくさい……仕方ない。本気で行くよ」



 まあ愚痴を言っても始まらない。


 私だってやる時はやるんだ。

 カティア様をして「なるべく戦いたくない」と言わしめた、食わせ者トリックスターの戦いってやつを見せてやるよ。



『最初からそうしなよ』


「うっさい!いくよっ!!」



 先ずは牽制でナイフを投擲する。

 数本を微妙にタイミングを変え、意表を突き、先んじて逃げ道を塞ぐように……だ。

(もちろん後で回収する!)


 だが、相手は『私』。

 全く動じずに、そんなことは百も承知とばかりに大剣を盾代わりにして中央突破してきた。


 そしてその流れで、しなるような斬撃を繰り出してきた!!



 私は投擲で大剣は片手持ちになってるので、まともに打ち合うことは避け、軽くバックステップしてギリギリで回避。


 即座に踏み込んで一気に間合いを詰め、掌底を叩き込もうとするが、『私』は大剣の反動を利用して身体をさばき、これを回避。


 私はまだ残していた大剣を振るって追いすがるように斬撃を繰り出す!!



 ガィンッ!!!



 今度はまともに大剣同士が激突し、衝撃音とともに火花を散らす!!



 斬り結んだまま押し合いになるが、どちらともなく、バッ!と直ぐに間合いを離す。




 ちっ……やり難いね。



 相手の思考の裏を突くのが私の戦い方。

 だが、同じ思考の相手だと普通に噛み合ってしまう。

 フェイントがフェイントにならない。




 『私』を欺くには、どうすれば良い?


 それは普通の方法では不可能だ。

 私自身が思いもよらない事でなければ……


 考えろ。

 私にとって有り得ない行動は何か?




 そこまで考えた時、一つの策が思い浮かんだ。


 確かにそれならば、『私』の思考の裏を突けるかもしれない。

 普段の私なら絶対に取らない行動。


 だけど、この状況を打破するためなら……!




 腹は決まった。

 あとは『私』に悟られずに実行するだけ。

 





 そして再び私達は激突する。


 ナイフが飛び交い、剣戟の音が鳴り響き、思惑が交錯して一進一退の攻防が繰り広げられる。


 どれほどの間そうしただろうか。


 頭の中でシミュレートしていたのと同じ、起点となる攻撃がついにやって来る。


 ミドルレンジからの踏み込みと共に繰り出された袈裟斬りの一撃を私は回避しない・・・


 その一撃を左の肩口で受ける!



『なっ!?』



 致命傷にならないように敢えて一歩を踏み出して、威力が乗り切らない前に受けたとは言え、当然斬られたところからは血飛沫が舞う。


 だが、予想もしなかった私の行動に呆気にとられた『私』は隙だらけだ!!



 死中に活を求めるなんて、普段の私の行動原理にはない。

 だからこそ、それをやったときの効果は絶大だ!



「もらったぁっ!!」



 ザシュッ!!!



 私が振るった大剣の一撃は、今度こそ『私』を捉えた!!



 負傷で左手に力が入らないが、十分な手応えだ。


 そして、袈裟懸けにされた『私』は血こそ噴き出ないものの、大ダメージを負ったのは間違いなく、地面に倒れ伏すのだった。




















『まさか、まさかだね。そこまでする気概が『あんた』にあるなんてね』


「何言ってんの?アンタは知ってたはずでしょ?」


『……なるほど。全てはあの方のために、か』



 そうだ。

 私がこの身を犠牲にすることがあるとしたら。

 それはカティア様をお護りすること以外にない。



 今はこの場にはあの方がいないから、『私』の思考の範囲外だと思って掛けたのだ。

 それは本当に一か八かではあったが。


 ……それもまた、普段の私が取らない行動だったね。




『気のないふりして、案外アツいよね……『あんた』って。とにかく、試練はここまで。さっさと先に進みなさい』


 そう言って、最後まで憎たらしい笑みを浮かべたまま、『私』は光となって消えた。



 ふん……言われなくても。


 早くカティア様たちと合流しなければ。





 そうして私は試練を突破し、先に進むのだった。



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