第十一幕 28 『無限回廊』

 隠し部屋へと通じる通路を私達は進む。

 暗く狭い通路の中、魔法による明りで床には濃い影が落とされ、カツンカツンと複数の足音が響き渡る。


 扉を潜ってからどれくらい歩いただろうか?

 かなり進んだと思うのだが、まだ通路の終わりが見えない。



「……長いですわね。どこまで行くのでしょうか?」


「暗くてオバケ出そうなの……」


 ミーティアがカイトに抱きつきながら不安げに呟やく。

 確かに不気味な雰囲気だね……



「もう数百メートルは進んだッスねぇ……ん?」


 そこでロウエンさんが何かに気付いた様子で立ち止まった。


「どうしたの?ロウエンさん」


「……ループしてるッス」


「え?」


 …ループ?

 確かに同じような景色がずっと続いてるけど。

 ダンジョンのトラップとしても割とメジャーな方だが… 



「ほら、これを見るッス」


 そう言って指し示した壁には、何やら傷跡のようなものが。


「この傷跡は通路に入って少し進んでから、オイラが付けたものッス」


 いつの間に。

 しかし……それが今ここにあるということは、確かにループしてるって事だね。


 そうすると……どうしたものか?



「リーゼちゃん、魔法トラップの起点は分からないッスかね?」


「少なくとも、これまで歩いてきた間には……それらしきものは見当たりませんでしたね」


 唯の通路だったからね。

 宝玉とか魔法陣とか…あからさまなモノは無かった。



「…引き返したら戻れるのかな?」


 確か、一方通行でループするタイプと、完全に閉じ込められてしまうタイプがあったと思う。

 以前、スオージの森で対峙したオーガもどきの異能が後者のタイプだった。



「退路の確保は重要ですね。確認しておいた方が良いかと」


 ケイトリンの言う通り、一度確認しておいたほうが良いだろう。



 そして、踵を返して入口の方に戻っていくと、それほど時間もかからずに……


「戻ってこれたね」


 ヒュドラーと激闘を繰り広げたボス部屋に戻ってくることができた。















「う〜ん……どうしようか?」


「何か方法はあるはずだ。……カティア、例の本には他にヒントのようなものは無いのか?」


 カイトはそう言うが、さっきのキーワード以外には変化は無いことは既に確認している。


 ただ…未だ光を放ち続けているのが気になると言えば気になる。



「通路の中にも隠し扉がまだあるのかも……?」


「そうッスね。また本の反応を見ながら進めば何か分かるかもッス」



 ということで、今度は鞄から本を出したまま、何か変化が起きないか確認しながら進むことに。





 しかし……



「ループしたッス」


「…特に本に変化は無かったね」


 光が強くなるとか、殊更変化は見られなかった。



「ん〜……いよいよもって分からないなぁ…」


 ちょっと厳重過ぎやしないか?

 ヒントも他に無いし……


 そうは思いながらも、最初のページからめくって行き、何か見落としているものがないか確認する。



 すると、こちらをじっと見て何か考え込んでいた様子だったリーゼさんが、躊躇いがちに呟いた。


「……もしかして、その本自体が起点になってませんか?」


「…へ?」


 これが?


 ……そう言われて見てみれば。

 確かに微弱な魔力の流れが感じられるような?

 光を放っているのも何らかの魔法術式によるものなんだろうけど、それとは異るものを感じる……ような気がする。



「もしこれが、この無限回廊の起点なら……」


 そしてリーゼさんは詠唱を開始する。

 無限回廊は魔法トラップだ。

 つまり、一種の結界魔法が発動していると言う事になる。

 それを解除するためには…


「[解呪]!」


 リーゼさんの魔法が発動し、掌より放たれた光の波動が私が手にした本に吸い込まれた。

 すると……


 パリンッ!


 と、ガラスが割れるような音がして、辺りの雰囲気も一変する。




「特に通路に変化は無いですけど……」


「先に進んでみよう」


 もし無限回廊の結界が解除出来たのなら、先に進めるようになってるはず。









 そして暫く進んでいくと、通路の先の方に光が見えてきた。


「どうやらゴールのようですわ!」


「トラップは抜けたんだね」



 今度はループすること無く先に進むことが出来たようだ。


「流石はリーゼちゃんッス!」


「本当に…助かりました」


「いえ、たまたまですよ」


 そうリーゼさんは謙遜するけど、彼女の観察眼と洞察力が無ければ突破出来なかっただろう。


 やっぱり私達の先生は頼りになるね!

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